パワハラ防止法とコンプライアンス調査

コンプライアンスは、一般的には、企業や組織が法令や倫理といった社会的な規範から逸脱することなく、適切に事業を遂行することを意味する言葉として使われます。「法令遵守」と訳されることも多いのですが、コンプライアンスの範囲は法令だけでなく、社内規定、社会規範・倫理など多岐に渡り、広義のCSRの一環として取り組むことが企業に求められています。

企業や組織の不祥事(コンプライアンス違反)としては、特に近年は長時間労働やストレスによる過労死、様々なハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラ)、職場でのいじめ等が報道で取り上げられるケースも増え、社会的な問題として広く認識されるようになってきました。 また帝国データバンクの調査によると、コンプライアンス違反による倒産は2012 年度以降、8 年連続で 200 件を超えたというデータも出ています。

コンプライアンスの重要性が高まる中、2020年6月1日に改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)が施行されました。このパワハラ防止法により、事業主に対して、職場におけるパワーハラスメント防止のために「雇用管理上必要な措置を講じること」が義務付けられたのです。
※中小企業においては2022年4月1日から義務化となり、それまでの間は努力義務となります。

「雇用管理上必要な措置」とは具体的にはどのようなことなのでしょうか? 今回は、職場におけるパワハラの定義と企業が取り組むべき対策についてお話していきます。 また、対応策の第一歩として「コンプライアンス調査」についてもご紹介します。

職場におけるパワハラの定義とは?

パワハラ防止法では、以下の3つの要素すべてを満たすものをパワーハラスメントとして定義しています。

(1) 優越的な関係を背景とした
(2) 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
(3) 就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること) 

 (1)の「優越的な関係」で真っ先に思い浮かぶのは”上司”と”部下”の関係ですが、職務上の地位に限ったことではなく、人間関係、専門知識、経験など様々な優位性が含まれます。 尚、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示・指導であれば、パワーハラスメントには該当しません。

また、パワハラの代表的な類型として、以下の6つが挙げられています。 ※例は厚生労働省の資料から一部を抜粋したものです。全文は下記をご参照ください。

参照:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」

上記の例はごく一部で、個別の事案の状況等によって判断が異なることもあり得ます。事業主は、パワーハラスメントに該当する事案かどうか微妙なものも含めて広く相談を受けるなど、適切な対応を取ることが求められます。 「業務上の指導」と「パワーハラスメント」の境界線(何がパワハラになるのか・ならないのか)については議論が重ねられていますが、2019年11月には「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」が示されるなど、厚生労働省のサイトなどでも様々な資料が閲覧できますので、参考になさってください。

次に、こうしたパワーハラスメントが職場で起こらないようにするため、また起きてしまった時に適切な対応が取れるようにするために、どのような対策を取るべきかを見ていきます。

ハラスメント防止のために事業主が講ずべき措置

事業主が必ず講じなければならない措置として、以下の4つが指針に定められています。

  • 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
  • 併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

単に「パワハラは行ってはいけないことである」と周知するだけでなく、ハラスメントを未然に防止するための対策、労働者からの相談に適切に対応するための体制づくり、ハラスメントが起こってしまった時の対応、被害を受けた労働者のケア、再発防止など、包括的な取り組みが求められているのです。

もう少し具体的にみていきましょう。 厚生労働省が発信しているハラスメント対策の情報サイト「あかるい職場応援団」では、『パワハラ対策7つのメニュー』として下記を掲げています。

1.トップのメッセージ

・企業のトップから「職場のパワーハラスメントはなくすべきものである」と明確な方針を打ち出す。
・ハラスメントの防止がなぜ重要なのかについても明確に伝える。

2.ルールを決める

・労働組合や労働者の代表と意見交換しながらルールを決め、労使一体で取り組む。
・相談者の不利益な取扱いの禁止、罰則規定や処分内容を明確に定める。

3.社内アンケートなどで実態を把握する

・パワハラ防止対策を効果的に進めるために、職場の実態を把握するアンケート調査を早い段階で行う。
・正確な実態把握と回収率向上のために、対象者が偏らないよう実施する。 ※後半の「コンプライアンス調査」でも解説します。

4.教育をする

・ハラスメントに関する教育のための研修を、可能な限り全員が受講できるようにする。
・研修内容にはトップのメッセージとともに会社のルール、取り組み内容や事例も加えると効果的。

5.社内での周知・啓蒙

・組織の方針、ルールや相談窓口について、計画的かつ継続的に周知する。
・単にポスターを貼ったり、資料やデータを閲覧できる状態にしておくだけではなく、より積極的、能動的に周知していく。

6.相談や解決の場を提供する

・相談窓口を設置して、できるだけ初期の段階で相談しやすい仕組みを作る。
・人事労務部門、コンプライアンス部門、産業医といった内部の相談窓口だけでなく、弁護士、社労士、相談窓口代行の専門企業など外部の相談窓口もあると相談しやすい。

7.再発防止のための取組

・行為者を処分するだけではなく、再発防止の研修、事例発生時の情報発信と注意喚起、職場環境の改善(ハラスメントが起こる根本的な問題の解決を図る)など、再発防止にも取り組む。
・定期的な検証と見直しを行い、より効果的な再発防止策の策定・実施に取り組む。

参照:厚生労働省「あかるい職場応援団」

どこから手を付けるべきかわからない場合は、まず(2)の基本的なルールを決め、(3)のアンケート調査で職場の実態を把握するところからスタートする方法も一つです。
たとえば、全体的にハラスメントに対する知識が十分でない、ハラスメントに関する管理職の危機意識が低い、相談窓口が機能していないなど、優先的に取り組むべき課題や明確になるかも知れません。

さらに、実施が”望ましい”とされている取り組みについても積極的に対応することで、より労働者が安心して働くことができる職場環境になるでしょう。
従業員がハラスメントのない職場(また、万が一ハラスメントが起こったとしても適切な対処・対応をしてくれると信頼できる職場)で安心して働けるということは、自身の業務やスキルアップに集中しやすくなり、結果的には従業員のパフォーマンスや企業の業績にもプラスの効果を生むのではないでしょうか。

パワハラ防止対策と「コンプライアンス調査」

先でも述べたように、ハラスメントについて組織の実態を把握する手段として、「コンプライアンス調査」があります。
従業員を対象にアンケート調査を実施し、ハラスメントに関する従業員の理解度、意識、実態などを把握します。その上で、優先的に取り組む課題と対策を整理していくとよいでしょう。

実態を正しく把握するためには(正直に答えてもらうためには)、回答結果が適切に扱われなければなりません。回答内容が漏れたり、興味本位で誰がどの回答をしたのか推測したり、といったことがないようにします。公平性を保つため、第三者機関に調査を依頼するのも一つの手です。
また、アンケートの結果によって従業員の誰かが不当な扱いを受けたりすることがあってもいけません。特に、職場でのハラスメントの経験(自分自身が受けたり、他の従業員が受けているのを目撃したり)、どういった内容のハラスメントが起きたのかも把握したい場合には、非常にセンシティブな内容となりますので、従業員が安心して調査に協力できるよう十分に配慮して、アナウンスをしましょう。

 アンケートは紙の調査票でもインターネットでも実施することが可能ですが、回答結果の漏洩防止、回答のしやすさ、セキュリティ、集計・分析・レポ―ティングのしやすさなどを考慮すると、インターネット(WEBアンケート)での実施がスムーズです。
調査項目や内容は、社内で用意すればアンケートツール等を使って自前で実施することも可能ですが、コンプライアンス強化の一環として適切な調査設計をするためには、調査の専門知識を持つ会社に依頼されるとよいでしょう。前述のとおり、公平性を保って安心して回答してもらうためにも、調査を外部に委託するのは有効です。
また、コンプライアンス調査は一度実施しただけで終わりにせず、意識改善や対策の効果を測るためにも定期的に実施して経年比較をすることもお勧めします。

現場(実態)を見ずして、ハラスメントのない職場を実現・維持していくことは困難です。
防止対策の一つとして、ぜひコンプライアンス調査を組み込んでみてはいかがでしょうか。

執筆者

Humap編集局

株式会社アスマーク 経営企画部 Humap事業G

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