公開日:2026.06.23

障がい者インタビュー実査ガイド【障がい種別】~本音を引き出す現場の工夫を解説〜

  • マーケティングリサーチHowto

はじめに

「障がい者調査」と聞くと、特別な層に向けたニッチな調査だと感じるかもしれません。しかし、現在のマーケティングにおいて、この調査は「全ユーザーにとっての使いやすさ」を先取りする重要な役割を担っています。

例えば、ある専門家によれば、視覚障がい者の約9割がiPhoneを利用していると指摘しています。これは単なる偶然ではなくApple社が「VoiceOver(読み上げ機能)」をはじめとするアクセシビリティ(誰でも使えること)に対して、長年、多額の投資を継続してきた結果です。

この過程で磨き上げられた「直感的で迷わないインターフェース」は、結果として、障がいの有無に関わらず、世界中のあらゆるユーザーに支持される製品へと繋がりました。障がいを持つ方が直面する「不便さ」を解決しようとする試みは、ユニバーサルデザインを追求する上での「先行指標」となります。ここで得られる気づきは、すべてのユーザーにとって付加価値の高い製品開発を実現するための、非常に重要なヒントになるのです。

本コラムでは、障がい特性別に配慮すべきポイントなどについて解説します。

 
 

アンケートデータを超えた「実態」の把握

障がい者の生活実態を深く理解するためにインタビューを行うことは有効ですが、その調査が成功するかどうかは、「適切な対象者を特定できるか」にかかっています。しかし、ここには事前アンケートの数字だけでは判断しきれない、非常に繊細な難しさがあります。

例えば、事前アンケートで「スマートフォンを利用している」と回答した二人の視覚障がい者がいたとします。

Aさん Bさん
Aさんのイメージ

完璧に使いこなし、
一人で新しいアプリの階層まで
操作できる「熟練層

Bさんのイメージ

複雑な設定や初めての操作は
家族の介助が不可欠な
サポート依存層

 
このお二人は、アンケート上の属性は同じですが、デバイスの習熟度生活実態は全く異なります。もし「最新アプリの操作性」を調査したい時に、Bさんのような方をリクルートしてしまうと、実査当日に「そもそも操作ができず、評価まで辿り着けない」という事態に陥ってしまいます。これが障がい者調査における「リクルートの失敗」です。

事前Webアンケート回答内容だけに頼ることはせず、候補者一人ひとりに対して、事前の電話スクリーニングで直接お話を伺う等の工夫が有効です。

言葉の裏側にある細かな操作習慣や、普段の生活動線を確認し、調査の目的に「100%合致する対象者」を特定します。この丁寧なプロセスこそが、実効性の高いデータ収集を可能にする土台となります。
 

障がい者モニターの調査リクルート

障がい者モニターの調査リクルートのサービスの詳細はこちら

実験・試験の被験者募集支援を得意とするアスマークが、障がい者モニターとリアルなコミュニケーションがとれるパートナーと連携したリクルートサービス!多彩なリクルート手法で障がい者にアプローチ可能です。

> 詳しく見る

 
 

【障がい特性別】インタビュー実査ガイド

実査現場での適切な配慮は、対象者が抱える緊張や不安といった「心理的バイアス」を軽減し、回答の純度を高めるために不可欠です。

障がい特性別の具体的なポイントを深掘りしていきましょう。

① 視覚障がい者調査:心理的安定と「状況の言語化」


目からの情報が限られる中で、いかに「適切な介助」と「言葉による補完」を行い、対象者が思考に集中できる環境を整えるかが鍵となります。

視覚障がい者調査:心理的安定と「状況の言語化」におけるポイント
視覚障がい者調査:心理的安定と「状況の言語化」におけるポイント
  • 「アテンド」による不安の解消
    障がい者インタビューにおけるアテンドとは、単なる「付き添い」ではありません。「対象者の目となり、安全を担保すること」を指します。駅から会場までの道のり、そして会場入り口から座席までの移動において、肘や肩を貸して誘導する適切なアテンドを行います。段差の手前で一度止まる、扉が開く方向に声をかける、といった細かな配慮によって、「いつ止まるか、どこにぶつかるかわからない」という不安が取り除かれます。
    この物理的な安心感があって初めて、対象者はリサーチの課題に対してリラックスした状態で向き合うことができるようになります。
  • 「クロックポジション」を用いた空間把握のサポート
    初めての場所で、目の前に何があるかを把握するのは大きな負担です。そこで、提示物の位置を時計の文字盤に見立てて説明する「クロックポジション」を活用します。例えば、「3時の方向に試作品があります」「10時の方向に飲み物があります」といった具体的な伝え方をすることで、対象者は手探りで物を探すストレスから解放されます。
    健常者と同じように「どこに何があるか」を瞬時に理解できる状態にすることが、スムーズな評価には欠かせません。
  • 動作の逐次説明(実況解説)による信頼構築
    視覚障がい者にとって、目の前で起きている「音だけがする状況」は不安を煽ります。そのため、「今から商品の袋を開けますね」「私の右側にある別のサンプルを、今から机に置きます」といった、リサーチャー側の動作を常に言葉にします。
    周囲の状況を常に透明化(言語化)し、情報格差を埋めることで、対象者との間に強固な信頼関係を築くことができます。

 
 

② 聴覚障がい者調査:「情報の時差」を前提とした設計


手話や筆記を介することで生じる「タイムラグ」を考慮し、コミュニケーションの質を落とさないための工夫が求められます。

聴覚障がい者調査:「情報の時差」を前提とした設計におけるポイント
聴覚障がい者調査:「情報の時差」を前提とした設計におけるポイント
  • 「質問量」の調整と思考時間の確保
    手話通訳や要約筆記を介する場合、リサーチャーの質問が伝わり、対象者が内容を理解し、回答が翻訳されて戻ってくるまでに必ず数秒から数十秒の「時差(タイムラグ)」が生じます。1時間のインタビューで、健常者と同じ質問量を詰め込んでしまうと、対象者は回答を急かされているように感じ、結果として思考が浅くなってしまいます。
    「質問数は通常の半分」を目安に設計し、一つひとつの対話に十分な「間」を持たせること。これが、深いインサイトを引き出すためのプロの鉄則です。
  • 視覚情報の維持と「三角形」の座席配置
    聴覚障がい者は、手話だけでなく、相手の口の動きや表情からも膨大な情報を読み取っています。そのため、モデレーターは資料で口元を隠さないように細心の注意を払い、豊かな表情で語りかけることが求められます。また、対象者・リサーチャー・通訳者が、無理なく視線を交わせるような配置を工夫します。
    視覚的な情報の「入り口」を常にクリアに保つことが、スムーズな意思疎通の前提となります。
  • 文字情報の併用による「共通認識」の形成
    口頭だけのやり取りは、どうしても誤認のリスクを伴います。質問の要点や選択肢、今話しているテーマを、スライドやホワイトボード、タブレット等に表示し、常に視覚化しておきます。
    対象者が「今、どのポイントについて聞かれているか」をいつでも確認できる状態にすることで、文脈の取り違えを防ぎ、精度の高い回答を促します。

 
 

③ 環境配慮:回答の質を阻害する「ノイズ」の排除


特定の感覚過敏や移動の制約に配慮し、調査結果にバイアスをかける要因を丁寧に取り除きます。

環境配慮:回答の質を阻害する「ノイズ」の排除におけるポイント
環境配慮:回答の質を阻害する「ノイズ」の排除におけるポイント
  • 「感覚刺激」のコントロールと会場選定
    特性によっては、周囲の騒音、照明の眩しさ、あるいは人の混雑が、健常者の想像以上に強いストレス(ノイズ)となることがあります。例えば、ある調査で「外食をあまり好まない理由」を深掘りしたところ、当初予想されていた「多目的トイレなどの設備不足」ではなく、実は「店内の騒がしさで周囲との会話が成立しないことへの懸念」だったという発見がありました。実査会場も同様です。
    静粛性が高く、照明の明るさを調整でき、外部からの刺激が適切に管理された空間を選定することが、対象者の本来の本音を引き出すために不可欠です。
  • 会場アクセスと施設設備の徹底検証
    最寄り駅からのバリアフリー動線に段差や急な坂がないか、補助犬(盲導犬)をスムーズに受け入れられるか、多目的トイレの仕様はどうか、といった点を事前に現地で確認します。
    対象者が会場に到着するまでに心身を消耗させてしまうと、肝心のインタビューで高い集中力を維持できなくなります。会場の「外」の動線まで含めてストレスをゼロに近づける準備が、良質な調査を実現するための条件となります。

 
 

 
 

まとめ

障がい者リサーチにおいて最も重要なのは、対象者が普段通りの能力を発揮し、安心して自分の考えを言葉にできる「場」を提供することにあります。

障がい者リサーチに必要な『配慮』
配慮① 属性のラベルに惑わされない、実態に基づいたリクルート
配慮② 不安や不便を先回りして解消する、プロのアテンドと声掛け
配慮③ 「特性による時差」や「感覚の過敏さ」に配慮した、時間と空間の設計

これらの配慮は、単なるマナーではありません。調査結果を歪めるノイズを排除し、商品開発やサービス改善の指針となる「本質的なインサイト」に出会うための、科学的なアプローチです。

障がい者に向けた調査は、一般的な調査とは注意すべきポイントが大きく異なり、非常に繊細な設計と現場運営が求められます。

「調査をしてみたが、表面的な話しか聞けなかった」「当日のトラブル対応に追われてしまった」といった失敗を避けるために、専門的なノウハウを持つパートナーを活用することも一つの有力な選択肢です。

このコラムが、皆様の障がい者調査に対する理解を深め、より良い製品やサービスの開発につながる一助となれば幸いです。

当社アスマークの『障がい者調査』では、通常リクルートの難しい様々な障がい種別のリクルートが可能で、日頃から障がい者モニターの声を聞き悩みを知る調査員が設計のアドバイスも行っております。どのような配慮をすれば良いかわからない等、お困りごとがあれば是非ご相談ください。

障がい者モニターの調査リクルート


 

\ 調査の専門家に無料相談 /

ご相談はこちら

\ まずは料金を知りたい方はこちら /

見積り依頼はこちら

執筆:アスマーク編集局

執筆:アスマーク編集局

アスマーク編集局は、数多くのメーカー、官公庁、大学との広範な調査実績に基づき、実務に直結するマーケティングリサーチの知見を発信する専門組織です。単なる手法の解説に留まらず、「現場で求められる判断基準」や「実務上の留意点」を網羅した専門コンテンツを企画・制作しています。

普及活動の実績
調査・分析に関する自社セミナーは累計参加者26,000人を突破。関連資料の利用者は11,000人を超えています(※2026年現在)。

学術・教育支援
日本社会学会や日本行動計量学会等への参画、大学での講義(累計受講者1,000人以上)を通じ、リサーチノウハウの普及に努めています。また、大学等の教育機関へ1万人規模の実証データを提供し、PBL(課題解決型学習)教育の支援も行っています。

産学連携の取組み(CSR)詳細はこちら


監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)

監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)

株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー
リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。学術調査チームの立ち上げや、業界内でも難易度の高い「難病・希少疾患」「障がい者」のリクルートサービスの立案・リリースを主導。共同著者として参画した研究論文が学術誌『グローバルビジネスジャーナル』に掲載された実績を持つ。

専門領域
消費者インサイト分析、セグメンテーション。学術的根拠に基づき消費者モニターをタイプ分類する「インサイト・セグ」を開発。

発信実績
日本のマーケティングリサーチ20年の変遷」の執筆や、最新技術を網羅した「ChatGPTを調査設計・レポートに活用する検証セミナー」への登壇など、伝統的手法から最新トレンドまで幅広い知見を保有。

本記事の監修にあたって
自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。

アスマークの編集ポリシー

【障がい者調査】定性・定量別調査事例10選

【障がい者調査】定性・定量別調査事例10選

現在の日本では、障がい者の社会参加やQOL向上への意識が高まり、多様なニーズに応える製品やサービス開発が求められています。アクセシビリティやユニバーサルデザインへの配慮が注目されています。

このような状況下で、障がい当事者の生の声やニーズを正確に把握する重要性が増しており、調査は非常に重要な役割を果たします。

本紙では、障がい当事者の調査における様々なリサーチ事例を、定性/定量調査の視点で厳選した10選をご紹介します。当事者の嗜好や行動、潜在的なニーズを的確に捉え、より魅力的な製品やサービスの開発・改善に活かせる内容となっています。

下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● 障がい者調査の事例を参考に、調査設計の精度を高めたい
● 過去の障がい者調査で期待する成果が得られなかった
● 障がい者調査の経験が浅く、どのような事例があるのかを知りたい

> 詳しく見る

 

事例で学ぶ、障がい者調査に不可欠な『配慮』とは? ~実践的な調査事例10選~

事例で学ぶ、障がい者調査に不可欠な『配慮』とは? ~実践的な調査事例10選~

現在の日本では、障がい者の社会参加やQOL(生活の質)向上への意識が高まり、多様なニーズに応える製品やサービスが求められています。アクセシビリティへの配慮や、ユニバーサルデザインの導入が注目を集めています。

一方で、当事者の特性に合わせた調査方法の設計は大きな課題です。当社が障がい者に向け調査を実施する場合も、例えば、視覚障がいのある方には音声での設問、聴覚障がいのある方には手話通訳や筆談等の工夫を凝らすことは必須となっています。さらに、倫理的配慮とインフォームド・コンセントが重要であり、当事者やその支援者と信頼関係を築き、丁寧に説明しながら調査を進める柔軟性が求められます。

本記事では、障がい者調査の様々な事例を、定性・定量調査の視点から厳選してご紹介します。これらの事例は、障がい種別の配慮に基づいた調査を行い、当事者の嗜好や潜在的なニーズを捉えるヒントに満ちています。

> 詳しく見る

 

【無料視聴】視覚障がい者に聞いた「IOT家電の不変的ニーズ」に関するインタビュー調査

【無料視聴】視覚障がい者に聞いた「IOT家電の不変的ニーズ」に関するインタビュー調査

近年、スマートスピーカーや音声操作、アプリ連携などの技術革新により、家電の利便性は飛躍的に向上しています。
家電のスマート化が進むことで、ユーザーの選択肢は広がり、利便性も増しました。
しかし、視覚障がいのある方にとって、こうしたIOT家電はどれほど「使いやすい」ものになっているのでしょうか?

今回は、視覚障がいのある方に 「実際の家電利用体験」や「家電選びの基準・ニーズ」 について詳しくお話を伺いました。

下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
・家電の操作性に関する新たな市場ニーズを発掘したい
・ユニバーサルデザインの観点で企業の製品戦略を強化したい
・視覚障がい者向けのユーザビリティテストを実施・検討している

> 詳しく見る

 

【無料視聴】聴覚障がい者に聞いた「リモートワークとデバイス使い分け」に関するインタビュー調査

【無料視聴】聴覚障がい者に聞いた「リモートワークとデバイス使い分け」に関するインタビュー調査

近年、デジタルツールの大きな発展により、ネットを通じた多様な働き方が可能になりました。その一方で、オンラインでのコミュニケーションが促進される中でも、多様なユーザーに合わせたアクセシビリティやユーザビリティの向上にはまだまだ課題も残されております。

そこで今回は、聴覚障がいのある方がどのように仕事と向き合っているのか、「リモートワークの実態」についてインタビューを実施。
オンライン環境で円滑に働くための工夫、補聴器や人工内耳の活用、聞こえを補うツールへのニーズなど、幅広くヒアリングしています。

下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
・アクセシビリティを考慮したアプリ・デバイス開発を進めている
・消費者のQOL向上に繋がる、デジタルの新ニーズを発掘したい
・聴覚障がい者向けのUI/UXテストを実施・検討している

> 詳しく見る