
2025.10.29
【リサーチャーコラム】外でアルコールを飲めない理由が「騒がしさ」?~障がい者調査の真実と、健常者調査との違い~
「熱量」という健常者パネルと障がい者パネルの差 マーケティングリサーチにおいて、「インサイト」の獲得は企業の成長戦略を左右する最重要課題です。このインサイトは……
公開日:2025.11.17
2024年4月に改正障害者差別解消法が施行され、民間事業者による「合理的配慮の提供」が義務化されました。この法改正を背景に、マーケティングリサーチの現場でも、障害がい当事者の声を聞きたい、特に視覚障がい者のアクセシビリティに関する調査ニーズが顕著に増加しています。
かつては公共交通機関や大手メーカーが中心だったこの分野の調査も、昨今ではIT企業による自社アプリやWebサイトのユーザビリティ検証など、業種を問わず「自社の商品・サービスが、目の不自由な方々に正しく利用できるか」という重要な問いに応えるための依頼が急増しているのが実情です。
しかし、視覚障がい者を対象としたリサーチは、一般の消費者調査と同じ手法をそのまま適用できるほど単純ではありません。単に「見え方のバリア」を取り除くだけでなく、彼らの「直感と本音」を引き出すためには、調査の設計段階から実施に至るまで、専門的な知見と配慮に基づいたリサーチデザインが不可欠です。
本コラムでは、視覚障がい者リサーチ特有の課題と、質の高いインサイトを導き出すための専門的なアプローチについて解説します。
まず直面するのが、アンケート調査の設計です。一般調査と同様にオンラインアンケートフォームを用意した場合、それが視覚障がい者にとって回答可能とは限りません。
特に全盲の方は、スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)を用いてアンケートに回答します 。そのため、以下のような事前検証が必須となります。
これらの検証(リアルユーザーテスト)を行わずに調査を開始してしまうと、回答者が途中で脱落してしまったり、意図しない回答を誘発したりする危険性があります。調査の実現可能性を高めるためには、複雑な分岐を避け、シンプルな設問設計にすることが求められます。この検証プロセスだけでも、一般調査に比べて多くの時間と工数を要する要因となります 。
昨今主流となったオンラインインタビューも、視覚障がい者、特に全盲の方にとっては非常にハードルが高い手法です 。
第一に、オンライン会議ツール自体の操作が困難である点が挙げられます 。ログインやミュート解除といった基本操作につまずくケースも少なくありません。
第二に、ご自身のカメラ映りを把握できないという問題があります 。クライアントから「顔出しで」と要望があっても、ご自身が画面から見切れていないか、どのような表情で映っているかを認識できないのです。
さらに、調査側が画面共有で資料を見せながら意見を求める場合、その情報は一切伝わりません 。モデレーターは「画面に表示されている情報」をすべて具体的に言語化する必要があります。これらは、一般調査では想定されない、特有の壁と言えます。
オフラインインタビュー調査の品質は、モデレーターのスキルに大きく左右されます。視覚障がい者リサーチにおいては、その専門性がより一層問われます。
一般のインタビューでは、モデレーターは対象者の「目線」や表情といった非言語情報から、「今、話したがっているな」「この点に疑問を持っていそうだ」といった機微を察知し、議論を深めていきます。
しかし、視覚に頼れないインタビューでは、その手法が通用しません。モデレーターは、声のトーンや間、言葉の選び方など、目以外の情報から対象者の意図を的確に把握し、進行する必要があります。
また、指示語の使い方も異なります。「あっち」「こっち」といった曖昧な表現は禁物です 。「皆様の右手、時計の針でいう3時の方向に〇〇があります」といったように、誰もが共通認識を持てる具体的な言語化が求められます 。これは一朝一夕で身につくスキルではなく、専門的な訓練と経験が不可欠です。
「視覚障がい者」と一括りにすることは、リサーチの精度を著しく低下させます。調査目的の解像度を高め、対象者を明確に定義することが重要です。
特に、「全盲(全く見えない)」と「ロービジョン(弱視)」は、情報接触の方法が大きく異なります 。ロービジョンの方は文字や画面を拡大して「目で」情報を得る一方、全盲の方は「スクリーンリーダー(耳で)」情報を得ます。
例えば、Webサイトの「アクセシビリティ調査」が目的であれば、スクリーンリーダーで情報を取得する全盲の方の参加は必須でしょう。一方で、商品のパッケージデザインに関する調査であれば、ロービジョンの方の「見え方」が重要な論点になるかもしれません。
中には、スクリーンリーダーと拡大表示の両方を使い分ける視覚障がいの方もおり、そうした方からは複数の視点が得られるという利点もあります。調査目的と課題に応じて、対象者の条件を厳密に設計することが、有益なインサイトを得るための第一歩となります。
視覚障がい者リサーチは、その準備や実施に多くの調整ごとが発生するため、一般調査よりも時間とコストがかかることは避けられません。しかし、その「調査プロセス」自体にこそ、データ以上の価値が詰まっています。
私たちがクライアントに推奨している具体的な方法の一つに、「クライアント自身による対象者のアテンド(会場への送迎)」があります。
多くの場合、調査会場の最寄り駅から会場までのアテンドは外部に委託されますが、これをあえてクライアントの担当者様にご自身で体験していただくのです。最初は「怖い」とおっしゃる方がほとんどです。
しかし、実際に対象者と待ち合わせ、腕を貸して一緒に歩き、コミュニケーションを取る。その一連の体験を通じて、「視覚障がい者が街を歩く上で何がハードルになるのか」「どのようなコミュニケーションが必要なのか」を、知識としてではなく、生々しい「実感」として理解することができます。
このアテンド経験から得られる「気づき」は、インタビュー調査本編で得られる回答と相まって、商品・サービス開発の核となる極めて重要なインサイトを提供します。また、結果的にアテンドの外注コスト削減にも繋がります 。
視覚障がい者の直感と本音を引き出すリサーチとは、単に調査票やインタビュー項目を準備することではありません。
調査設計の段階からスクリーンリーダーの挙動を検証し、専門的なモデレーターが対象者の知覚に寄り添い 、そして調査プロセス全体をクライアント自身の「体験」の場としてデザインすること。
こうした専門的なリサーチデザインこそが、「見え方のバリアフリー」という形式的な対応を超え、真に利用者の心に響くサービスやプロダクトを生み出すための、深いインサイトを提供すると確信しています。
なぜAppleは視覚障がい者の9割に選ばれたのか? 〜障がい者調査から学ぶ、全ユーザーに響く製品開発〜
企業の新たな商品やサービス開発において、ユーザーの声を聴くことは不可欠です。しかし、既存市場の声だけでは、どうしてもアイデアが停滞しがちです。そこで、近年注目を集めているのが、「不便」を抱えるユーザーの声に耳を傾けることです。特に、障がい者の方々が日常で感じている不便さは、イノベーションのヒントに満ちています。
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【障がい者調査】定性・定量別調査事例10選
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このような状況下で、障がい当事者の生の声やニーズを正確に把握する重要性が増しており、調査は非常に重要な役割を果たします。
本紙では、障がい当事者の調査における様々なリサーチ事例を、定性/定量調査の視点で厳選した10選をご紹介します。当事者の嗜好や行動、潜在的なニーズを的確に捉え、より魅力的な製品やサービスの開発・改善に活かせる内容となっています。
下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● 障がい者調査の事例を参考に、調査設計の精度を高めたい
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● 障がい者調査の経験が浅く、どのような事例があるのかを知りたい
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難病・希少疾患患者への調査事例集
難病・希少疾患の患者に対して調査を行う場合、定量調査であれば回答数が大切になってくるため、多くの患者さんの協力を得ていくことが重要です。
アスマークでは、当社が抱えるパネルからだけではなく、患者会との連携や疾患のインフルエンサーと連携したリクルートを可能としているため、難病・希少疾患の患者さんのリクルートについても実績がございます。
本紙では、当社で実施可能な「難病・希少疾患の患者に対する調査」の事例をまとめてご覧頂けます。
下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
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● 難病・希少疾患患者への調査方法が知りたい
● 患者の声を生かしたマーケットイン開発がしたい
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【無料視聴】視覚障がい者に聞いた「IOT家電の不変的ニーズ」に関するインタビュー調査
近年、スマートスピーカーや音声操作、アプリ連携などの技術革新により、家電の利便性は飛躍的に向上しています。
家電のスマート化が進むことで、ユーザーの選択肢は広がり、利便性も増しました。
しかし、視覚障がいのある方にとって、こうしたIOT家電はどれほど「使いやすい」ものになっているのでしょうか?
今回は、視覚障がいのある方に 「実際の家電利用体験」や「家電選びの基準・ニーズ」 について詳しくお話を伺いました。
下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
・家電の操作性に関する新たな市場ニーズを発掘したい
・ユニバーサルデザインの観点で企業の製品戦略を強化したい
・視覚障がい者向けのユーザビリティテストを実施・検討している
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【無料視聴】聴覚障がい者に聞いた「リモートワークとデバイス使い分け」に関するインタビュー調査
近年、デジタルツールの大きな発展により、ネットを通じた多様な働き方が可能になりました。その一方で、オンラインでのコミュニケーションが促進される中でも、多様なユーザーに合わせたアクセシビリティやユーザビリティの向上にはまだまだ課題も残されております。
そこで今回は、聴覚障がいのある方がどのように仕事と向き合っているのか、「リモートワークの実態」についてインタビューを実施。
オンライン環境で円滑に働くための工夫、補聴器や人工内耳の活用、聞こえを補うツールへのニーズなど、幅広くヒアリングしています。
下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
・アクセシビリティを考慮したアプリ・デバイス開発を進めている
・消費者のQOL向上に繋がる、デジタルの新ニーズを発掘したい
・聴覚障がい者向けのUI/UXテストを実施・検討している
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【リサーチャーコラム】外でアルコールを飲めない理由が「騒がしさ」?~障がい者調査の真実と、健常者調査との違い~
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