公開日:2026.04.01

【リサーチャーコラム】AI時代に、リサーチャーの価値をどう捉え直すか

  • リサーチャーコラム

生成AIが広がってきたことで、マーケティングリサーチの現場も確実に変わってきています。
これまでリサーチャーが時間をかけて担っていた作業の一部は、AIを使うことでかなり早く進められるようになりました。
そうなると、「業務が効率化した」という話にとどまらず、リサーチャーの役割そのものを改めて見直す必要が出てきています。

ただ、AIがそのままリサーチャーに置き換わるかというと、実際にはそう単純ではありません。
仕事の進め方は確かに変わりますが、それによって人に求められるものも変わる、というほうが実態に近いと思います。
本稿では、実務におけるAI活用を踏まえつつ、これからリサーチャーに求められる価値について整理します。

 

AI時代に、リサーチャーの価値をどう捉え直すか

 

AI活用は、すでに業務の深部に入り込んでいる

AIの活用は、もはや一部の実験的な使い方にとどまりません。企画、調査設計、データ加工、レポーティングまで、すでに日常業務の幅広い場面で入り始めています。

たとえば企画段階では、構成のたたき台を作る、抜け漏れを確認する、表現を整える、といったことにAIを使いやすくなりました。以前なら過去案件を見返しながら時間をかけて組み立てていた部分も、まずは一定水準の案を短時間で用意できます。調査票の作成でも同じで、ゼロから考え始める負荷はかなり軽くなっています。

報告書まわりの変化も大きいです。総括の下書きを作る、記述が調査結果とずれていないかを見る、報告会で出そうな質問を洗い出す、といった作業は、AIと相性がいい場面です。複数の立場を仮想的に置いて読み直すような使い方をすると、自分一人では拾いにくい論点が見つかることもあります。

こうした変化を見ていると、AIは単なる時短ツールというより、思考を前に進めるための補助役として、すでにかなり実務に入り込んでいると感じます。

 

生産性向上は、単なる時短では語れない

AI活用の効果としてまず挙がりやすいのは、やはり時間短縮です。実際、案件ごとの作業時間が短くなったという感覚は、多くの現場で共有されていると思います。

一方で、本当に重要なのは、単に早く終わることではありません。浮いた時間を何に使えるようになったかのほうが大事です。
実務では、その余白が他案件の支援、メンバーのアウトプット確認、壁打ち、追加分析、品質の見直しといった仕事に回ることが多く、AIで生まれた余白は、単なる削減分ではなく、より付加価値の高い仕事に振り向けられているわけです。

この変化は意外と大きいと思います。目の前のタスクをこなすことに追われていた状態から、一段引いて全体を見る時間を持ちやすくなるからです。
そう考えると、AIは「作業を減らすもの」というより、リサーチャーの重心を、実務処理から品質向上へ少しずつ移していく存在なのかもしれません。

 

調査の質は、単純に上がると言い切れない

AIが入ると調査の質は上がるのか。これは、単純にそうだと言い切らないほうが実態に近いと思います。
実際に起きているのは、基本品質が安定しやすくなったことと、視点を増やしやすくなったことの二つです。

まず前者については、誤字脱字、表現の揺れ、構成の粗さ、論理の飛び方といった、成果物としての基本的な完成度は整えやすくなりました。最低限の品質を安定させるうえで、AIはかなり有効です。

もう一つは視点の広がりです。リサーチャーが一人で考えていると、どうしても経験や思考の癖に引っ張られます。AIと壁打ちすると、普段なら自分が置かない観点が返ってくることがあり、それが検討の幅を広げるきっかけになります。報告書の受け止められ方や、報告会での反応を想定しながら論点を見直すと、新しい示唆の入口が見えることもあります。

ただし、そこで返ってきた論点がそのまま価値ある示唆になるわけではありません。AIは、もっともらしい整理をするのは得意ですが、それが今回の調査に本当に合っているか、クライアントの意思決定に効くのかまでは保証してくれません。
なので、AIは示唆を自動で作る存在というより、示唆を磨くための相手として見るほうがしっくりきます。

 

独自性だけでは足りない、説明できることが求められる

示唆の価値という観点で見ると、最近は「尖っていること」だけでは足りず、「その解釈に納得できること」が以前より強く求められているように感じます。もちろん、リサーチャーならではの独自視点は大事です。けれど、独自性と独りよがりはまったく別です。意外性のある見立てでも、結果のファクトとつながっていなければ、クライアントにとっては採用しにくい提案になります。

ここでAIは、考察の飛躍を抑える補助役になります。自分の解釈が無理なく説明できるか、別の立場から見たときに違和感がないかを確かめる相手にはなってくれるからです。AIとの往復の中で、思いつきに近かった仮説が、筋道の通った考察に整理されることは実際によくあります。

つまり、AIによって示唆の価値が薄れるのではなく、むしろ「なぜそう言えるのか」がこれまで以上に問われるようになっているのだと思います。これからのリサーチャーには、独自性と説明可能性の両方が必要です。

 

最後に残るのは、やはり人の判断だと思う

では、AIが広く使われるようになった今でも、リサーチャーにしか担えないものは何か。
私は、最終的には判断と文脈理解だと思います。

AIは、与えられた情報を整理し、それらしい答えを返すことはできます。ですが、その答えを採用していいのか、このクライアントにとって意味があるのか、今回の調査目的に照らして優先順位は適切か、といった判断は別の仕事です。

実際の現場では、データだけでは見えないことが少なくありません。業界の力学、社内の意思決定の流れ、担当者の問題意識、これまでの経緯。そうした背景が、最終的な意思決定には強く影響します。
その文脈を踏まえて、「この結果をどう読むか」「どこまで言うか」を決めるのは、やはり人間です。

AIは情報整理には役立ちますが、文脈の重みづけまではしてくれません。だからこそ、データと現場のあいだをつなぎ、解釈に責任を持つ役割は、引き続きリサーチャーに残るはずです。

観点 AIができること リサーチャーの役割
情報整理 データを整理し、それらしい答えを生成できる 整理された情報の意味を読み取り、示唆に変換する
判断 複数の選択肢を提示することはできる 採用可否や優先順位を、目的に照らして判断する
文脈理解 明示された情報の範囲で解釈する 業界構造や社内事情、過去経緯を踏まえて意味づける
最終的な解釈 一般的に妥当な説明を生成する 「どこまで言うか」を含め、解釈に責任を持つ

 
 

AI時代のリサーチャーは、作業者より設計者・編集者に近い

こうして見ると、AI時代のリサーチャーに求められる役割は、むしろ以前より高度になっているとも言えます。

一つは、AIを前提に業務を組み立てる力です。どの工程でAIを使うと効果が出るのか、どこは人が責任を持つべきか、どの段階で検証を挟むべきか。こうした設計ができなければ、AIを入れても単なる時短で終わってしまいます。

もう一つは、AIが出してきた材料を、そのままではなく意味のある形に編集する力です。AIは論点を並べることはできますが、何を採用するか、どう並べるか、どこに重心を置くかは、人が決める必要があります。

そして最終的に、どんな示唆として提示するかに責任を持つのもリサーチャーです。AIは補助線は引いてくれても、結論の責任までは負いません。
そう考えると、これから重要になるのは、調査を進める力だけでなく、設計する力と編集する力なのだと思います。

 

これからの価値は、AIを使うこと自体ではなく、その先にある

今では、AIを使うことそのものは特別ではなくなってきました。一定水準の整理やたたき台づくりは、以前よりはるかに短時間でできます。
それは裏を返せば、平均的なアウトプットだけでは差がつきにくくなっている、ということでもあります。

その中でリサーチャーの価値になるのは、AIが整えた情報をもとに、どの視点を選び、どう意味づけし、どの意思決定につなげるかを判断できることです。問われるのは、AIを使えるかどうかではありません。AIを前提にしながら、最終的にどんな価値へ編集して返せるかです。
納得感のある示唆をつくることと、リサーチャーならではの視点を保つこと。その両方を成立させられるかどうかが、これからの差になるのではないでしょうか。

効率化の先で何を考え、何を判断し、どう価値として届けるのか。
そこに、これからのリサーチャーの専門性が、よりはっきり表れてくるように思います。

 
 
マーケティングリサーチのご相談はこちら>

執筆:アスマーク編集局

執筆:アスマーク編集局

アスマーク編集局は、数多くのメーカー、官公庁、大学との広範な調査実績に基づき、実務に直結するマーケティングリサーチの知見を発信する専門組織です。単なる手法の解説に留まらず、「現場で求められる判断基準」や「実務上の留意点」を網羅した専門コンテンツを企画・制作しています。

普及活動の実績
調査・分析に関する自社セミナーは累計参加者26,000人を突破。関連資料の利用者は11,000人を超えています(※2026年現在)。

学術・教育支援
日本社会学会や日本行動計量学会等への参画、大学での講義(累計受講者1,000人以上)を通じ、リサーチノウハウの普及に努めています。また、大学等の教育機関へ1万人規模の実証データを提供し、PBL(課題解決型学習)教育の支援も行っています。

産学連携の取組み(CSR)詳細はこちら


監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)

監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)

株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー
リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。学術調査チームの立ち上げや、業界内でも難易度の高い「難病・希少疾患」「障がい者」のリクルートサービスの立案・リリースを主導。

専門領域
消費者インサイト分析、セグメンテーション。学術的根拠に基づき消費者モニターをタイプ分類する「インサイト・セグ」を開発。

発信実績
日本のマーケティングリサーチ20年の変遷」の執筆や、最新技術を網羅した「ChatGPTを調査設計・レポートに活用する検証セミナー」への登壇など、伝統的手法から最新トレンドまで幅広い知見を保有。

本記事の監修にあたって
自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。

アスマークの編集ポリシー

【アーカイブ】学術調査の成果を左右する、“調査実施方法の選択”とは?セルフ型と非セルフ型の違いを徹底解説

【アーカイブ】学術調査の成果を左右する、“調査実施方法の選択”とは?セルフ型と非セルフ型の違いを徹底解説

学術研究において、調査は成果を左右する重要なプロセスです。 近年、手軽なセルフ型調査ツールが普及しており、仮説生成など多くの場面で活用されているケースも多いのではないでしょうか。

本セミナーでは、セルフ型・非セルフ型調査の特性やメリット・デメリットを比較整理。
なぜ非セルフ型調査は“研究向き”と言われるのか?その理由を、実際の支援事例を交えて紐解き、皆様がご自身の研究に最適な手法を選ぶための、具体的なヒントをお届けいたします。

下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
● 学術研究で用いる調査手法の選び方(セルフ/非セルフ)が分からない方
● セルフ型調査ツールの限界や、収集データの質に課題をお持ちの方
● 調査手法の選択を通じて、学術研究の「信頼性」を高めたい方

> 詳しく見る

 

AI時代のオフライン調査~生成AI・セルフ型調査を 超える価値とは~

AI時代のオフライン調査~生成AI・セルフ型調査を 超える価値とは~

AIによる自動化などは、効率化には貢献するものの、画一的な調査設計に陥りやすく、企業やブランド独自の課題に対応しきれない可能性があります。また、オンライン主体の調査では、回答者の表情や行動などの非言語情報が得られにくく、本音や深層心理を捉えきれないケースも少なくありません。

真に顧客を理解し、競合との差別化を図るために必要な「深層のインサイト」を獲得するには、どのような手法を用いるべきなのでしょうか?

この資料では、こういった問いに対する答えを探りながら、AI時代におけるマーケティングリサーチの新たな可能性と、オフライン調査の価値について考察していきます。

下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● マーケティングリサーチの最新トレンドをおさえたい
● AIやセルフ型調査のリサーチとオフライン調査について知りたい
● AI時代のマーケティングリサーチについて知りたい

> 詳しく見る

 

「D-Planner」脳情報を使ったクリエイティブ評価

「D-Planner」脳情報を使ったクリエイティブ評価の詳細はこちら

アスマークでは、「D-Planner」脳情報を使ったクリエイティブ評価のサービスを提供しております。

脳活動から仮想脳を作り出し、人がクリエティブを見た際の脳活動(反応)を予測し、その予測された脳活動とアンケートデータや実測データを学習させることで、定量的に多角的な予測ができるソリューションです。

※D-Plannerは、NTTデータ社のNeuroAIの技術を活用したクリエイティブ評価分析ツールです。

> 詳しく見る