公開日:2025.06.24

交絡とは何か?見かけの因果関係を生む錯覚のしくみ

  • マーケティングリサーチ用語解説集

ビジネスにおける意思決定やマーケティング施策の根拠として、調査データは非常に重要な役割を果たします。
しかし、データを見誤ることで、誤った因果関係を信じてしまうリスクもあります。その代表例が「交絡(こうらく)」です。

この記事では、「交絡とは何か?」という基本から、ビジネスシーンでありがちな錯覚のしくみ、交絡を避けるための調査設計のポイントまでを分かりやすく解説します。
調査初心者はもちろん、調査結果を正しく読み解きたい中級者にも役立つ内容となっています。
 
 

交絡とは何か

交絡(こうらく)とは、本当の原因ではないものを原因だと勘違いしてしまう現象です。
一見すると「AがBを引き起こしているように見える」データでも、実は、AとBの両方に影響を与えている“第三の要因”が裏に潜んでいることがあります。

たとえば、次のようなデータを見たとき、あなたはどう感じるでしょうか?

よく運動をする人:100ss
そのうち心疾患を患った人:30ss

 
この数字だけを見ると、「運動すると心疾患のリスクが高まるのでは?」と思ってしまうかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか?

 
 

交絡因子とは?

ここで重要になるのが「年齢」という要素です。
高齢になると、健康維持のために運動を始める人が多くなります。
同時に、年齢が上がるにつれて心疾患のリスクも自然と高くなる傾向があります。

つまり、「運動」と「心疾患」の間に直接的な関係がなくても、年齢という第3の要因の影響によって、両者に関連があるように見えてしまうのです。

図 典型的な交絡の例
図 典型的な交絡の例

 
このように、原因と結果の両方に影響を及ぼす要因を「交絡因子」と呼びます。
交絡因子が入り込むと、まったく無関係な2つの項目の間に、見せかけの因果関係が生まれてしまいます。
 
 

交絡はバイアスの一種?

交絡は、バイアス(bias)の一種として位置づけられています。
特に疫学や統計学の分野では、交絡バイアス(confounding bias)と呼ばれ、体系的な分類の中に含まれています。

バイアスとは何か?

バイアスとは、調査や分析結果が、真の値や関係性から体系的にずれてしまうことを指します。
これは偶然の誤差ではなく、調査の設計・実施・測定の過程で起こる偏りによるものです。

バイアスの種類と交絡バイアスの位置づけ

バイアスにはさまざまな種類があり、交絡もそのひとつとして位置づけられます。
ここでは代表的なバイアスを比較してみましょう。

バイアスの種類 定義
交絡バイアス 第3の因子が介在し、見かけ上の因果関係を生む
選択バイアス 調査対象の選定に偏りがあり、標本が母集団を代表しない
情報バイアス 測定や回答、記録などの不正確さによってデータに偏りが生じる

 
こうした分類からも分かるように、交絡バイアスは、単なる「データの偏り」ではなく、因果構造そのものに深く関わる誤りである点が特徴的です。
選択バイアスや情報バイアスは、主に「誰を対象に調査したか」「どのように情報を得たか」に起因する調査設計や測定の精度の問題に分類されます。
これに対して、交絡バイアスは、Aという要因がBに影響を与えたように“見える”が、実際にはCという別の要因がAとBの両方に影響していた、という因果推論の誤りを引き起こします。

このため、交絡バイアスを放置すると、施策の評価や意思決定が根本から誤った方向へと導かれてしまうリスクがあります。
とくにマーケティングリサーチや医療研究など、因果関係の正確な理解が求められる場面においては、交絡因子を見極め、適切にコントロールする設計・分析が極めて重要です。
 
因果構造に介入するバイアスであるがゆえに、交絡バイアスは他のバイアスとは性質も対応策も異なる、より慎重な取り扱いが求められるバイアスといえます。
 
 

ビジネスにおける交絡の例

交絡は学術研究に限らず、日常のビジネス判断でも頻繁に起こりうる錯覚です。
 
たとえば、ある商品の広告を出した直後に売上が伸びた場合、多くの人は「広告が売上に貢献した」と考えがちです。
しかし、広告出稿のタイミングが繁忙期(季節的需要のピーク)だったとしたらどうでしょうか?
繁忙期という時期的な要因は、広告出稿の判断(原因)にも、売上の伸び(結果)にも影響する可能性があります。

このように、原因と結果の両方に影響を与える「時期」という交絡因子が介在することで、「広告 → 売上」という見せかけの因果関係が成立してしまうのです。
顧客属性や時期などの交絡因子を考慮せずに判断すると、誤ったマーケティング戦略につながるリスクがあります。
したがって、表面的なデータの因果関係に飛びつかず、「他に影響している要因はないか?」を常に検討する視点が重要です。
 
 

調査設計で注意すべき6つのポイント

交絡やバイアスを避けるためには、調査設計の段階で以下の点に留意する必要があります。

  1. 交絡因子の想定
    • なぜこの関係が成立しているのか、他に影響する要因がないかを事前に洗い出す。
      例:広告と売上 → 「時期」「客層」「外部イベント」などが影響していないか?
    • 過去の調査や研究事例を活用して、交絡因子の候補を整理する。
  2. 交絡因子のデータを収集する
    • 想定した交絡因子は、必ず調査項目に含める(アンケート項目や属性データ)。
    • データがないと、交絡の統計的補正ができない。
  3. 対象の抽出方法に注意する(選択バイアスの防止)
    • 母集団から偏りなく抽出する。
    • 特定の層(意識が高い人、既存顧客など)に偏ると、一般化できない結果となる。
  4. 測定方法を標準化する(情報バイアスの防止)
    • 質問文・尺度を統一し、回答者の解釈ブレを防ぐ。
    • デジタルログなども、取得ルールの一貫性が重要。
  5. 時期や外部環境を考慮する
    • 調査時期や市場の動向が、結果に影響していないかを確認。
    • 時系列調査や季節商品では、調査時期自体が交絡因子になり得る。
  6. 分析可能な設計になっているかを確認する
    • 交絡因子を多変量解析・層別分析などでコントロールできる前提があるか。
    • サンプルサイズや項目間の相関も事前にチェック(例:多重共線性の回避)。

 
 

最後に

交絡は、一見すると確かに見える因果関係を、見せかけにすぎないものへと変えてしまう力を持っています。
そしてそれは、バイアスの一種として、調査や意思決定の精度を大きく左右します。

調査設計の段階で交絡やバイアスの可能性を丁寧に検討することが、信頼できる分析結果と、正しい施策判断への第一歩となります。

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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