公開日:2025.02.03

【アメリカ・中国・日本】マトリクス設問の回答傾向は国ごとで異なる?

  • マーケティングリサーチHowto

企業が市場で競争力を得たり、保ち続けたりするためには、データに基づく分析が欠かせません。
特に、グローバル市場で多様な背景を持つ方々を対象とする際には、調査手法や設問設計が結果に大きな影響を与える可能性があります。
 
そこで、本記事では結果に影響を与えるかどうか、大きく以下2点について検証結果を紹介します。

・マトリクス設問において、巨大マトリクス群(15社) と 4社のみ縦マトリクス群で国ごとに回答傾向が異なるのか?
・7段階評価(リッカート尺度)において、国ごとに両極選択肢の選択傾向は異なるのか?

 

 
 

調査概要について

まず、マトリクス設問や7段階評価(リッカート尺度)について調査するために、実際に行った概要が下表となります。
 

表 調査概要
項目 内容
調査目的 日本・米国・中国におけるアンケート回答実態を比較、回答精度を検証する。
海外調査において気を付けるべきポイントについての具体的事例を提示できるようにする。
調査概要 マトリクス設問の回答傾向の違いを確認
 →海外の方が両極につきやすいのか?ダミー設問の正答率は?など
動画設問の離脱率検証
 →埋め込みの場合とURLリンクの場合で、離脱率に差があるのか?
改ページ前にFAがあるケース、別ページでFAがあるケースで、記載の量や内容に差がでるのか?
④ 選択肢数の違いによる影響比較
 →日本と比べて、海外は選択肢が多いと選択率が落ちるのか?
⑤ 注釈をちゃんと読むのか?海外の方が読まないのではないか?
⑥ その他、調査品質に関わるデータに関して
調査手法 Webアンケート
対象者条件 性別 男性、女性
年齢 20~60代
地域 全国
その他条件 スマートフォンまたはPCでアンケートを回答していること
回収数 本調査 800サンプル
割付 図 割付
調査期間 2023年5月16日(月)~ 2023年5月19日(木)
調査機関 株式会社アスマーク(旧マーシュ)

 

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マトリクス設問の回答傾向の違いを確認

「マトリクス設問を使い回答傾向の違いを確認」について解説します。
 

『巨大マトリクス群(15社) vs 4社のみ縦マトリクス群』編

まず、マトリクス設問は、下図のような表形式の設問のことです。
当てはまるところを選んでもらいます。
 

図 PCとスマホでの巨大マトリクス設問の見え方
図 PCとスマホでの巨大マトリクス設問の見え方

 
縦に 『企業』が並び、横に 『その企業に対して持っているイメージ』を選んでもらうように配置しました。
例えば、Appleの当てはまるイメージとして、 「親しみがもてる」「センスがよい」など、当てはまるものをチェックしてもらいます。
 
また、この図の左側のマトリクス設問は、PCで見たときのイメージとなります。
PCは、ディスプレイサイズが大きいので、このように大きく見えるのですが、右側のスマホで見たときのイメージでは、ディスプレイが縦長となるので、横の項目は全部を見ることができません。
そのため、こういった場合、過去に「横スクロールが発生するためチェックの数が減ります」などと言ってきました。これを改めて「3か国で比較した」というのがポイントになります。

この巨大マトリクスがどれだけ回答率を落とすのか比較するために、もう1つのグループでは、下図のように企業を4社に絞り、スマホでも縦スクロールのみで選択できるように設問を用意しました。
 

図 企業を4社に絞ったマトリクス設問のPCとスマホでの見え方
図 企業を4社に絞ったマトリクス設問のPCとスマホでの見え方

 
縦スクロールは、普段から皆さまスマホで操作しておりますので、抵抗なく回答することができます。
 
チェック数の違い
これら2つのグループの結果をまとめた表が下図になります。

図 チェック数の3か国比較
図 チェック数の3か国比較

 
スコアが高い低いで、のグラデーションで表現をしています。
上側にあるのが「巨大マトリクス」を回答したグループとなり、下側にある「4社のみ縦マトリクス」を回答したグループとなります。
 
上側を見ると、下側と比べ赤が少なく、青が多いことがわかります。
 
また、右側に「平均選択数」というのも用意しており、これらの数値は『その企業に対して持っているイメージ』をチェックした平均値になります。
例えば、4社のみ縦マトリクスの場合、Appleに対してアメリカの平均選択数は約10個となり、巨大マトリクス(15社提示した中の1社Apple)では5個となり、半分減っていることがわかります。
そのため、やはり企業数が多いとチェック数が減るというのがハッキリと表れています。顕著に表れているのが、海外となりました。
4社のみ縦マトリクスの場合、たくさんチェックが付きますが、巨大マトリクスの場合、チェックが減っていることが見えます。
日本と比べ中国とアメリカの方が、よりチェック数の低下傾向が大きいということがわかり、 「海外での巨大マトリクスの利用は選択数の大きな低下につながる」ということがわかりました。
 
 
回答傾向の違い
続いて、この調査の結果を別の視点でも確認しております。この3か国を合算し、1200人の回答として見たときの結果が下図となります。
 

図 3か国合算
図 3か国合算

 
この図では、以下のようにTOP3へそれぞれ色を付けています。
 

最もスコアの高いイメージ   :オレンジ
2番目にスコアの高いイメージ :ベージュ
3番目にスコアの高いイメージ :イエロー

 
この色を見てみると、例えばAppleやサムスン、Sonyなどは「技術力がある」や「品質がよい」といったところがTOP3に入っており、下側の4社に絞った方でも、「技術力がある」や「品質がよい」といったところが上位のスコアになっております。
そのため、「上位になるようなイメージ項目は、企業数を絞っても変わらないかもしれない」ということが今回わかりました。
 
この結果の背景には、「そもそも分割しない方がよいのではないか」「相対的にイメージはつくので、巨大マトリクスで実施しないといけないのではないか」という疑問がありました。
ですが、今回の結果で、4社に絞った場合でも上位になるようなイメージ項目は変わらないかもしれないというのが見えてきたので、巨大マトリクスはそもそも使わず、複数の設問に分けてイメージを聴取した方が良いと言えると考えます。
 

『7段階評価(リッカート尺度)』編

次に、本題の検証ポイントである「ポジティブな回答傾向」「両極選択肢の選択傾向」について調査するため用意した設問が下図です。
 

図 7段階評価(リッカート尺度)による設問
図 7段階評価(リッカート尺度)による設問

 
考え方や行動について当てはまると思う度合いを7段階で選んでいただく設問を用意しました。
内容としては、適性検査などビッグファイブ(人の性格が5つの因子の組み合わせで決まることを説明する学説)的なものを測ろうとするような項目となります。
この結果が下図です。
 

図 性格傾向_3か国合算ver.
図 性格傾向_3か国合算ver.

 
これは、3か国のデータを合算し、2,400名の結果となります。
 
まず、項目に注目してみると、「活発で、外交的だと思う」と「ひかえめで、おとなしいと思う」は、「活発で、外交的だと思う」で当てはまらない場合、「ひかえめで、おとなしいと思う」では当てはまるといったパターンとなり得そうな設問の構成になっております。
次の「他人に不満をもち、もめごとを起こしやすいと思う」と「人に気をつかう、やさしい人間だと思う」もそういったパターンになり得そうだと論理的に考えられると思います。
つまり、論理的には「あてはまる」寄り、「あてはまらない」寄りが交互に選ばれると予想される設計となっております。
これは、「両極選択肢の選択傾向」の後に紹介させていただく、「ストレート回答率」に関して「ストレート回答があるとおかしい」という検証を行うため、こういった項目にしました。
そして、右側には「あてはまらない計」と「あてはまる計」を算出し、スコアの高低を赤と青のグラデーションで表現しております。
 
両極選択肢の選択傾向
次に、3か国の結果を比較してみたのが下図です。
 

図 性格傾向_3か国比較ver.
図 性格傾向_3か国比較ver.

 
このデータは、3か国の性格傾向の違いを比較するだけでも、興味深いデータとなっていると思いますが、「欧米と比べ、アジアの国は両極を選びづらい」という言説について、この実データを基に検証をしていきます。
右側の当てはまる計、当てはまらない計は、右から3つと、左から3つのポイントを合計となり、これを見てみると「各国で傾向の違いがありそう」というのが見えてきます。
例えば、中国では濃淡がハッキリしており、モニター800人の傾向として、「こっち寄りの人が多い」といったことがわかりやすいかと思います。
 
一方で、日本では濃淡が薄いことから、大きな偏りがないことがわかります。
これは「どちらともいえない」が多いというのが影響していそうです。
 
 
続いて、「両極」「どちらともいえない」に絞ったグラフが下図となります。
 

図 「両極」と「どちらともいえない」に絞ったグラフ
図 「両極」と「どちらともいえない」に絞ったグラフ

 
これを見てみると、右端「非常によくあてはまる」の「人に気をつかう、やさしい人間だと思う」において、アメリカだと約44%の人が選択しており、他の国と比べ抜きんでています。
また、ほかの項目を見ても、どちらかといいますと、アメリカの選択率が多いように感じます。
そして、左側「全くあてはまらない」も同様でアメリカが多いように感じます。
そのため、両極を選びやすいのはアメリカという結果が見えてきました。
 
そして、中央「どちらともいえない」は、いずれも日本が一番高く、日本人が一番曖昧な回答をしている傾向があるということがわかります。
 
ストレート回答率
最後に「ストレート回答率」についてです。
この「ストレート回答率」を調査するために、繰り返しになりますが、論理的には「あてはまる」寄り、「あてはまらない」寄りが交互に選ばれると予想される設計となっております。
そして、選択肢は「全くあてはまらない」~「非常によくあてはまる」の7種類となるため、何種類か選ばれるのが自然だと考えます。
その何種類選ばれたのかを項目別に表したのが下図です。
 

図 国別×選択した種類の数
図 国別×選択した種類の数

 
この図の上部分の棒グラフに注目すると、4~5種類選んだ方が多いことがわかります。
そして、1種類のみ選択したかたは約5%いたことがわかります。
 
精度を検証するという意味で、下部分の「アンケート回答時間」、つまり、どれだけ回答終了までに時間をかけたか、というのを分析軸として用意しました。
この時間で比較をしてみると、3分未満で回答している方は、1種類~3種類の割合が多いことがわかります。
この3分未満で回答している方自体は、全体の2%未満となります。
そして、すばやく設問を理解し回答できる方もいるかもしれませんが、「多くの方はしっかりと考えず、テキトーに選んでいるケースではないだろうか」と考えられるエビデンスがここからも見えてきます。
 

 
 

まとめ

ここまで、マトリクス設問や7段階評価(リッカート尺度)における回答傾向の違いについて解説してきました。
 
巨大マトリクスでは、「海外での巨大マトリクスの利用は選択数の大きな低下につながる」ことと、「4社に絞った場合と上位になるようなイメージ項目は変わらないかもしてない」ことがわかりました。
そのため、巨大マトリクスを使う必要はない可能性があります。
 
そして、7段階評価では、両極を選びやすいのはアメリカとなり、「どちらともいえない」は日本が選びやすい傾向があることがわかりました。
さらに、3分未満で回答している方は少ないですが、1~3種類の割合が多く、すばやく設問を理解し回答できる方もいるかもしれませんが、「多くの方はしっかりと考えず、テキトーに選んでいるケースではないだろうか」と考えられるエビデンスがここからも見えてきました。
 
ぜひ、この記事の結果を参考にして、競争力の強化へ繋げていきましょう。
次回は「【アメリカ・中国・日本】動画の見せ方、FAの回答場所によって回答傾向は国ごとで異なる?」について紹介します。
 
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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

 
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