公開日:2025.02.20

社会調査におけるコーディング(≒アフターコーディング)とは?

  • マーケティングリサーチHowto

社会調査※1では、アンケートやインタビューを通して大量のデータが集まります。これらのデータを分析し、有益な情報を得るためには、データを分類・整理することが重要です。特に、自由回答(FA)のアンケートやインタビューで得られた情報は、そのままでは分析が難しい場合が多く、回答を分類・関連付け・比較する作業が必要です。そのための分類作業を「コーディング」と言い、社会調査において、とても重要な役割を担っています。
※1 社会調査は、私たちの暮らしをより良くするために、自治体や官公庁が行う政策決定、企業における商品開発、学術調査による社会現象の解明など、様々な場面で活用されています。
 
この記事では、社会調査におけるコーディング、特にアフターコーディングについて焦点を当て、その定義からメリット・デメリット、具体的な流れまでを解説します。

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社会調査とは?

社会調査とは、人々の意識や行動、社会現象を科学的に分析するために、体系的にデータを収集・解析する調査です。統計学や社会学、心理学などの分野で広く活用され、アンケート調査やインタビュー、観察調査、実験など、多様な調査手法が用いられます。
 
社会調査の主な目的は、特定の社会問題や現象を明らかにし、データに基づいた意思決定や政策立案を支援することです。調査結果は、政府や自治体の政策立案、企業のマーケティング戦略、学術研究など、様々な分野で活用されます。
 
また、社会調査は大きく分けて、量的調査と質的調査の2つに分類されます。量的調査は、アンケート調査や統計データの分析などの数値で表せるデータを収集できる手法であり、質的調査は、インタビューや観察などで人々や集団の行動や意識を深く理解することに重点を置いた手法です。

 
 

社会調査で用いるコーディングとは?

社会調査を行うことで得られた自由回答(FA)のアンケートやインタビューで得られ情報は、そのままの状態で十分な分析をすることが難しいです。十分な分析をするためには、「コーディング」という作業が必要になります。
 

コーディングとは?

コーディングとは、アンケートの自由回答(FA)やインタビューで得られたテキストデータなどを、分析しやすいように分類・整理し、数値や記号を付与する作業です。生のデータに含まれる情報を、分析可能な形に変換する作業とも言えます。また、作成されたものをアフターコードと言います。
 
具体的には、収集したデータをカテゴリーやテーマごとに分類していきます。例えば、顧客の製品に関する意見を「肯定的」「否定的」「中立的」に分けたり、「品質」「価格」「デザイン」などの具体的な要素に分けたりします。
 
また、コーディングの目的は大きく分けると以下となります。
データの整理:複雑で多様なデータを、一定のルールに基づいて整理し、分かりやすくする。
データの数量化:質的なデータを数量化することで、統計的な分析を可能にする。
分析の効率化:データを整理・数量化することで、分析作業を効率化し、客観的な分析を可能にする。
 
コーディングによって得られたデータは、より深く分析しやすくなります。例えば、「回答者の年齢や性別、居住地といった属性と回答との関連性」「複数の質問への回答を組み合わせた分析」など意見の背景にある複雑な要因を分析することが可能です。
 
また、コーディングは下表の「プレコーディング」と「アフターコーディング」の2種類があります。

表 コーディングの種類
コーディングの種類 内容
プレコーディング 事前に選択肢を設定するコーディング方法。アンケート調査で選択肢を設ける質問がこれに当たります。事前にコーディングルールを明確にすることで、データ収集の段階から分析を意識できます。
アフターコーディング データ収集後に、得られた回答を分類・整理し、コードを付与する方法。自由回答形式のアンケートやインタビューの分析に用いられます。

 
コーディングを行う際は、社会調査の目的やデータの性質に応じて、適切な方法を選択することが重要です。
 

自由回答(FA)とは

ここまで、「自由回答(FA※2)」と何度か記載しながら解説をしてきましたが、改めて「自由回答(FA)」というのは、アンケート調査においてあらかじめ選択肢を用意せず、回答者に自由に意見や考えを記述してもらう回答形式のことです。
※2 FAとはFree Answer の略で、OA(Open Answer)とも呼ばれます。
 
この回答形式を使用することで、定量的なデータだけでは捉えきれない、回答者の生の声を収集することができます。
 
また、自由回答では、回答者が自分の言葉で自由に回答できるため、以下の様なメリットがあります。
深い洞察を得られる:回答者の本音や詳細な意見、背景にある考えなどを把握できます。
新たな発見がある:予想外の意見や視点を得ることができ、新たな課題やニーズの発掘につながります。
柔軟性が高い:質問内容に合わせて自由に回答の長さや形式を調整できるため、回答者の意見をより引き出しやすくなります。
 
一方で、選択肢形式の質問に比べて、コーディングが必要などにより分析に手間がかかったり、専門的な知識やスキルが求められたりするのがデメリットとして挙げられます。
 

Tips:テキストマイニングとの違い
コーディングと似た言葉に「テキストマイニング」があります。どちらもテキストデータを分析する手法ですが、そのアプローチは異なります。テキストマイニングは、大量のテキストデータから、コンピュータを用いて自動的に単語やフレーズを抽出し、出現頻度や関連性などを分析する手法です。例えば、SNSの投稿や顧客からのレビューなどを分析し、製品に対する評判や顧客のニーズを把握するために用いられます。

コーディングとの違いをまとめると、下表のようになります。

表 コーディングとテキストマイニングの違い
項目 テキストマイニング コーディング
手法 コンピュータによる自動処理 人間の解釈に基づき、データを分類・整理
データ量 大量のデータ 比較的少量のデータ
分析の焦点 単語の出現頻度、共起関係 テキストの意味内容、文脈
必要なスキル プログラミング、統計解析 専門知識、分析力

コーディングは、人間の解釈に基づいてテキストデータを分析するため、文脈を考慮した深い分析が可能です。一方、テキストマイニングは、大量のデータを高速に処理できる点が強みです。

このように、コーディングとテキストマイニングはそれぞれ異なる特徴を持つため、分析の目的やデータの特性に合わせて使い分けることが重要です。

 
 

アフターコーディングのメリット

アフターコーディングは、自由回答を分析しやすくする以外にも、様々なメリットがあります。主なメリットとして、下表のような点が挙げられます。

表 アフターコーディングのメリット
メリット 内容
回答者の生の声を把握できる 自由回答形式で得られたデータは、回答者の生の声であり、貴重な情報を含んでいます。アフターコーディングによって、これらのデータを体系的に整理すれば、より深い分析が可能となり、データの本質を見抜けるようになります。
柔軟な分析が可能になる 事前に選択肢を設定するプレコーディングとは異なり、アフターコーディングでは、データ収集後に柔軟にカテゴリーを設定できます。そのため、予期せぬ意見や新しい視点が出てきた場合でも、それらを適切に分類し、分析に活かすことが可能です。
質的なデータを定量化できる アフターコーディングによって、質的なデータを数値化し、定量的な分析を可能にします。これにより、統計的な手法を用いて、より客観的な分析結果を得ることができます。例えば、意見の出現頻度や、意見と回答者の属性との関連性などを統計的に分析することが可能です。
複雑なデータの可視化 自由回答形式のデータは、そのままでは複雑で解釈が難しい場合があります。このような場合に、アフターコーディングによってデータを整理・分類すれば、全体像を把握しやすくなり、グラフなどによる可視化もしやすくなります。

 
 

アフターコーディングのデメリット

アフターコーディングは、自由回答を分析する有効な手法ですが、下表のようなデメリットも存在します。

表 アフターコーディングのデメリット
デメリット 内容
時間と労力がかかる 自由回答の内容を一つひとつ確認し、適切なカテゴリーに分類していく作業は、かなりの時間と労力を要します。特に、大量のデータや複雑な内容の回答を扱う場合は、作業負担がとても大きくなり、分析に多大な時間が必要です。
主観が入る可能性がある コーディング作業は、人間の判断に基づいて行われるため、どうしても主観が入ってしまいます。そのため、同じ回答についても分類者によって解釈が異なり、異なるカテゴリーに分類される可能性が発生します。特に、抽象的だったり、あいまいな表現を含んだりする回答は、解釈の相違が生じやすくなります。
コストがかかる コーディングは専門的な知識やスキルを持つスタッフが、時間をかけて作業する必要があります。そのため、作業の実施には、相応のコストが求められます。特に、大規模な調査や質の高い分析を求める場合は、コストが高額になるケースもあります。
回答のニュアンスが失われる可能性 コーディングは、自由回答をカテゴリーに分類する過程で、回答の細かなニュアンスや文脈が失われてしまう可能性があります。また数値化やカテゴリー化によって、回答の持つ情報が単純化されてしまう場合もあります。

 
 

アフターコーディングの流れ

アフターコーディングの流れとして、以下の4つの段階に分けられます。

  1. FA回答集の作成
    まず、アンケートやインタビューで得られた自由回答をすべて集約し、FA回答集を作成します。この際、回答内容を正確に把握するために、原文のまま転記することが重要です。

    図 FA回答集のイメージ
    図 FA回答集のイメージ
  2. コーディング
    FA回答集の内容を、意味の似通ったカテゴリーごとに分類し、コード化していきます。この作業がアフターコーディングの最も重要なステップとなります。同じような意味を持つ回答をグルーピングし、それぞれのカテゴリーに適切な名称を付けます。例えば、「地域の活性化のために、どのような取り組みが必要だと思いますか?」という質問に対し、「もっとイベントを増やしてほしい」「魅力的なイベントが少ない」「季節ごとのイベントを開催してほしい」といった回答があった場合、「イベントの充実」というカテゴリーにまとめ、コードを付与します。

    図 コーディングのイメージ
    図 コーディングのイメージ
  3. 件数表の作成
    コーディングされた各カテゴリーの回答件数を集計し、件数表を作成します。これにより、どのカテゴリーの意見が多いのか、全体的な傾向を把握できます。

    図 件数表のイメージ
    図 件数表のイメージ
  4. クロス表の作成
    性別や年齢、地域などの属性別に、コーディングされたデータを分析したい場合は、クロス表を作成します。クロス表を用いることで、例えば「若い世代では『イベントの充実』を求める意見が多い」といった、属性と意見の関連性を明らかにできます。

    図 クロス表のイメージ
    図 クロス表のイメージ

 
 

アフターコーディングの注意点

アフターコーディングは、分析の精度を左右する重要な工程です。そんな、アフターコーディングには、注意すべき点がいくつかあります。

図 アフターコーディングの注意点
図 アフターコーディングの注意点

 

  1. コーディングのルールを明確にする
    コーディングのルールがあいまいだと、担当者によって解釈が異なり、分析結果に一貫性がなくなる可能性があるので、コーディングを開始する前に、カテゴリーの定義や分類基準などを明確に定め、共有しましょう。
  2. 客観性を意識する
    コーディングは、どうしても主観が入ってしまう作業です。しかし、分析結果の信頼性を確保するためには、できるだけ客観的な視点を持つことが重要です。だからこそ、事前にコーディングのルールをしっかりと把握して、自分の意見や解釈を反映させすぎないように意識する必要があります。
  3. 複数人でチェックを行う
    コーディングのミスを減らし、客観性を高めるには、複数人によるチェック体制を整えることが効果的です。異なる視点を持つ人がチェックすれば、見落としや誤りを軽減させることができます。
  4. カテゴリー数を調整する
    カテゴリーの数が多すぎると、分析が複雑になり、全体像を把握しにくくなります。逆に、少なすぎると、重要な情報を見落としてしまう可能性があります。分析の目的やデータの特性に合わせて、適切なカテゴリー数を設定することが重要です。
  5. 回答の文脈を考慮する
    回答を断片的にとらえるのではなく、前後の文脈を踏まえて解釈することが求められます。回答の意図を的確に理解できれば、適切にカテゴリーを分類することができます。

 
 

まとめ

ここまで、社会調査におけるコーディング、特にアフターコーディングについて解説してきました。
 
アンケートの自由回答やインタビューで得られた回答は、数値化されたデータだけでは見えてこない回答者の本音や生の声を反映した重要な情報です。これらの情報を的確に分析できれば、新たなインサイトを得られ、より深いレベルで社会現象を理解することが可能です。
 
コーディングは、自由回答のような質的データを分析するための効果的な手法です。しかし、適切な分析につながるコーディングを行うには、ルールや手順、そして注意すべき点をしっかりと理解する必要があります。
 
この記事で紹介した内容を参考に、適切なコーディングによって質の高い分析を行い、社会調査を成功へと導いていきましょう。
 
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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

 
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