公開日:2025.10.29

【リサーチャーコラム】外でアルコールを飲めない理由が「騒がしさ」?~障がい者調査の真実と、健常者調査との違い~

  • リサーチャーコラム

「熱量」という健常者パネルと障がい者パネルの差

マーケティングリサーチにおいて、「インサイト」の獲得は企業の成長戦略を左右する最重要課題です。このインサイトは、時に市場の「不満」という形で顕在化します。私たちが提供する障がい者調査は、この「不満」を単なるデータではなく、ビジネスを磨き上げる「熱量の高いインサイト」へと昇華させる独自の可能性を秘めています。

健常者パネルと障がい者パネル。両者に対する調査を実施する際、リサーチャーとしてまず驚くのが、障がい者パネルのデータ・アウトプット量の多さです。これは単に回答数が多いという表面的な事実ではなく、その根底にある「熱量」が決定的な違いを生んでいます。

その熱量の源泉は、日常生活における「不満」や「不便」のインプット量にあります。健常者にとって「当たり前」の日常は、障がい当事者にとっては常に小さな、あるいは大きなハードルの連続です。この日常で積み重ねられる「こうなればいいのに」というインプットが、調査の場で「改善点や気づき」という形で質の高いアウトプットとして溢れ出てくるのです。

さらに特筆すべきは、調査への参加意識です。健常者パネルが謝礼や興味を動機とすることが多いのに対し、障がい者パネルには「自分の意見が商品やサービスを磨き、社会を良くすることに繋がる」という、より高次の貢献意識を持つ方が多い傾向にあります。この「熱量」こそが、調査で求められる深層的な意見の原動力となり、企業に深層的なインサイトを提供する、というビジネス価値に直結するのです。

 
 

健常者パネル調査では見落としがちな「複合的なバリア」

あるアルコール飲料メーカーの調査では、屋外での飲食に関するアンケートを実施した際、フリーアンサーが必須項目ではないにもかかわらず、回答者の約68%(193件中132件)が具体的なバリアについて回答しました。この回答率の高さは、当事者の「伝えたい」という熱量の高さを示しています。

寄せられた声の中には、予想されていた「バリアフリートイレの不足」といった施設的な問題だけでなく、健常者パネルでは見落とされがちな複合的なバリアに関する指摘がありました。
それは、「屋外での飲酒を避ける理由」として、「騒がしさ」が高い割合で挙げられた点です 。これは、聴覚過敏や、自身の声が小さいために会話が通じないことへの懸念など、複数の要因が絡み合って生じる心理的・感覚的なバリアであり、単なる物理的なバリアフリー化だけでは解決できない深層的な課題です。

また、インタビューでは「グラスが重くて持てない」という、上肢の障がいを持つ方ならではの視点や、視覚障がいを持つ方から「店内のメニューのコントラストが低くて見えにくい」という指摘がありました。これらのインサイトは、「ユニバーサルデザイン」の視点を提供し、力の弱い女性や高齢者など、健常者の中にも潜在的なニーズを持つ層へのサービス改善に繋がる、極めて汎用性の高いビジネス価値を生み出します。

 
 

障がい者パネルだからこそのリスクへの対策

障がい者調査では、高い熱量がメリットである一方、健常者調査とは異なる実務上のリスクへの慎重な対応が求められます。

「当日キャンセル」への対策

最大の懸念は当日キャンセルリスクです。体調の急な変動や、排泄処理に2時間かかるなど、やむを得ない理由がある場合もあり、調査企画者には現場感のある知見が必要です。当社では、過去の調査やこれまでのやりとりの履歴に基づき、キャンセル歴のない「信頼できる人」を可能な限り優先的に選定する独自の運用ノウハウを持っています。また、調査の信頼性を高めるため、予備の方にもご協力をお願いするケースもあります。万が一キャンセルが発生しなかった場合でも、正規の参加者としてご参加いただくか、あるいは不参加となる場合でも、一定額の謝礼をお渡しすることで、ご協力いただいた時間に対し補償させていただきます。この「予備リクルート」の運用により、データの欠損リスクを最小限に抑える工夫をしております。
宿泊を伴う調査では、車椅子ユーザーのトイレ利用の制約(自力で立てるかなど)まで考慮し、バリアフリールームと一般室へのアサインを細かく決定するなど、細部にわたる配慮が不可欠です。
 
 

モデレーターの専門性

そして、最も重要なのがモデレーターの専門性です。参加者が「モデレーターに理解されていない」と感じた瞬間、本音を話してくれなくなり、調査の価値が失われてしまいす。障害特性に関する情報を持たないモデレーターでは、参加者の発言の偏りや進行の速さへの不満が出るリスクが高いのです。障がい者パネル向けの調査では、障害に対する深い知見と配慮を持つモデレーターの選定が、インサイトの質を決定づけると言っても過言ではありません。

 
 

インサイトを提供するための「障がい者」調査・マネジメント

障がい者調査は、単に「社会的弱者」を対象とする調査ではなく、企業に本質的な改善点を提供する極めて価値の高い調査です。それは、「社会を良くしたい」という高い社会貢献意欲と、健常者の日常においては潜在化している本質的な「不満」を持つ、価値ある意見提供者を対象とする調査なのです。

この熱量を、深層的なインサイトへと確実に昇華させるプロセスにこそ、我々リサーチャーの専門性が求められます。具体的には、障がい者調査ならではのリスクを管理し、障がい特性に合わせた実務設計と細心の配慮を行うこと。これこそが、健常者パネルと障がい者パネルの決定的な違いを生む構造であり、我々が果たすべき重要な役割なのです。

障がい者パネルの「不満」は、リサーチャーの知見をもって扱うことで、企業の商品・サービスを磨き上げ、市場全体に通用する真のインサイトを提供する宝の山となる可能性を秘めているのです。

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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事例で学ぶ、障がい者調査に不可欠な『配慮』とは? ~実践的な調査事例10選~

事例で学ぶ、障がい者調査に不可欠な『配慮』とは? ~実践的な調査事例10選~

現在の日本では、障がい者の社会参加やQOL(生活の質)向上への意識が高まり、多様なニーズに応える製品やサービスが求められています。アクセシビリティへの配慮や、ユニバーサルデザインの導入が注目を集めています。

一方で、当事者の特性に合わせた調査方法の設計は大きな課題です。当社が障がい者に向け調査を実施する場合も、例えば、視覚障がいのある方には音声での設問、聴覚障がいのある方には手話通訳や筆談等の工夫を凝らすことは必須となっています。さらに、倫理的配慮とインフォームド・コンセントが重要であり、当事者やその支援者と信頼関係を築き、丁寧に説明しながら調査を進める柔軟性が求められます。

本記事では、障がい者調査の様々な事例を、定性・定量調査の視点から厳選してご紹介します。これらの事例は、障がい種別の配慮に基づいた調査を行い、当事者の嗜好や潜在的なニーズを捉えるヒントに満ちています。

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【障がい者調査】定性・定量別調査事例10選

【障がい者調査】定性・定量別調査事例10選

現在の日本では、障がい者の社会参加やQOL向上への意識が高まり、多様なニーズに応える製品やサービス開発が求められています。アクセシビリティやユニバーサルデザインへの配慮が注目されています。

このような状況下で、障がい当事者の生の声やニーズを正確に把握する重要性が増しており、調査は非常に重要な役割を果たします。

本紙では、障がい当事者の調査における様々なリサーチ事例を、定性/定量調査の視点で厳選した10選をご紹介します。当事者の嗜好や行動、潜在的なニーズを的確に捉え、より魅力的な製品やサービスの開発・改善に活かせる内容となっています。

下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● 障がい者調査の事例を参考に、調査設計の精度を高めたい
● 過去の障がい者調査で期待する成果が得られなかった
● 障がい者調査の経験が浅く、どのような事例があるのかを知りたい

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「疾患・携帯キャリア(デバイス)」スペシャルパネル集計表

「疾患・携帯キャリア(デバイス)」スペシャルパネル集計表

アスマークが保有する「疾患・携帯キャリア(デバイス)」に関する特別パネルの属性情報をまとめています。

主に以下のパネルデータをご覧いただけます。※一例
【疾患】・・・本人/同居家族の「現在の疾病名」「既往症」「介護状況」など
【携帯キャリア(デバイス)】・・・「保有する携帯キャリア」「キャリア別・保有デバイス」

本紙には、単純集計(GT)表とローデータが含まれます。

下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● 「疾患・携帯キャリア(デバイス)」に関する調査を検討している
● アスマークがの自社モニターの特別属性の情報が知りたい
● 出現が難しいテーマで集められる対象者数を確認したい

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難病・希少疾患患者への調査事例集

難病・希少疾患患者への調査事例集

難病・希少疾患の患者に対して調査を行う場合、定量調査であれば回答数が大切になってくるため、多くの患者さんの協力を得ていくことが重要です。

アスマークでは、当社が抱えるパネルからだけではなく、患者会との連携や疾患のインフルエンサーと連携したリクルートを可能としているため、難病・希少疾患の患者さんのリクルートについても実績がございます。

本紙では、当社で実施可能な「難病・希少疾患の患者に対する調査」の事例をまとめてご覧頂けます。

下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● メディカルリサーチを担当している
● 難病・希少疾患患者への調査方法が知りたい
● 患者の声を生かしたマーケットイン開発がしたい

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【無料視聴】視覚障がい者に聞いた「IOT家電の不変的ニーズ」に関するインタビュー調査

【無料視聴】視覚障がい者に聞いた「IOT家電の不変的ニーズ」に関するインタビュー調査

近年、スマートスピーカーや音声操作、アプリ連携などの技術革新により、家電の利便性は飛躍的に向上しています。
家電のスマート化が進むことで、ユーザーの選択肢は広がり、利便性も増しました。
しかし、視覚障がいのある方にとって、こうしたIOT家電はどれほど「使いやすい」ものになっているのでしょうか?

今回は、視覚障がいのある方に 「実際の家電利用体験」や「家電選びの基準・ニーズ」 について詳しくお話を伺いました。

下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
・家電の操作性に関する新たな市場ニーズを発掘したい
・ユニバーサルデザインの観点で企業の製品戦略を強化したい
・視覚障がい者向けのユーザビリティテストを実施・検討している

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【無料視聴】聴覚障がい者に聞いた「リモートワークとデバイス使い分け」に関するインタビュー調査

【無料視聴】聴覚障がい者に聞いた「リモートワークとデバイス使い分け」に関するインタビュー調査

近年、デジタルツールの大きな発展により、ネットを通じた多様な働き方が可能になりました。その一方で、オンラインでのコミュニケーションが促進される中でも、多様なユーザーに合わせたアクセシビリティやユーザビリティの向上にはまだまだ課題も残されております。

そこで今回は、聴覚障がいのある方がどのように仕事と向き合っているのか、「リモートワークの実態」についてインタビューを実施。
オンライン環境で円滑に働くための工夫、補聴器や人工内耳の活用、聞こえを補うツールへのニーズなど、幅広くヒアリングしています。

下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
・アクセシビリティを考慮したアプリ・デバイス開発を進めている
・消費者のQOL向上に繋がる、デジタルの新ニーズを発掘したい
・聴覚障がい者向けのUI/UXテストを実施・検討している

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ペイシェントジャーニーとは?実例や必要性、解決課題と企画への取り入れ方など紹介

ペイシェントジャーニーとは?実例や必要性、解決課題と企画への取り入れ方など紹介

患者さんは、ご自身の病気や治療と向き合う中で、本当の気持ちに蓋をしてしまうことがあります。そのような繊細な心情を丁寧に解きほぐし、真のニーズを理解するために有効な事前課題が「ペイシェントジャーニー」です。

本記事では、患者さんの経験や感情の変遷を可視化するペイシェントジャーニーについて、その基本的なことから、製薬会社が抱える代表的な課題と解決策、マクロペイシェントジャーニーとミクロペイシェントジャーニーの実例、調査設計のポイントまで解説します。

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