公開日:2025.01.06

アンケート設問文の表現の違いで回答傾向は変わるのか?実データから考察を紹介

  • マーケティングリサーチHowto

アンケートによる調査において、設問(質問)内の言葉の違いが回答傾向にどのような影響を与えるかを知ることは、得られるデータの質を向上させるうえで重要なことです。
 
本記事では、下記2つのテーマについて実データを用いて考察を紹介していきます。

  • 設問文で用いる「最大」という言葉の有無で回答傾向が違うのか
  • 「重視点」と「期待点」、「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」、表現の違いで回答傾向に差が出るのか

 

 
 

調査概要について

まず、設問の文言による違いが回答傾向にどのような影響を与えるか調査するために、実際に行った概要が下表となります。
 

表 調査概要
項目 内容
調査目的 「聞き方の違い」でどの程度調査結果が変わるのか?
実データによる具体例を提示し、調査設計上考えるべき点について考察を行う。
調査概要 ① NPSとNRSによる結果の比較
 ・ 商材によって、それぞれの手法のプラスマイナスの出やすさの違いを検証
 ・ NPSの計算式は、日本においても海外と同様のロジックでよいのか?についての考察
「最大」という言葉がつく、つかないで、回答傾向が違うのか
聞き方の違いによる結果への影響
 ・ 商品購入時の「重視点」と「期待点」
 ・ 「決め手になるもの」と「最も参考にするもの」
調査手法 Webアンケート
対象者条件 性別 男性、女性
年齢 20~50代
地域 全国
その他条件 有職者(パート・アルバイト含む)
パソコンまたはスマートフォンでアンケートを回答している
回収数 本調査 800サンプル
割付 図 割付
調査期間 2022年5月16日(月)~ 2022年5月19日(木)
調査機関 株式会社アスマーク(旧マーシュ)

 
補足として、割付は性年代20~30代男性、40~50代の男性と分けており、さらにA群・B群があります。このA群・B群の割付は、別記事で解説する検証にて用いる予定であり、本記事では触れませんのでご了承ください。
 
 

「最大」という言葉が付く、付かないで、回答傾向が違うのか?

この「最大」という言葉が付く、付かないで、回答傾向が違うのか調査するために、以下のようにグループ①、②で提示する文章を分けました。
 
グループ① 「あなたはどのくらいの金額であれば利用したいと思いますか。」
グループ② 「あなたは最大でもどのくらいの金額までであれば、利用したいと思いますか。」
 
上記および選択肢のイメージが下図となります。

図 「最大」という文言有無による設問と選択肢
図 「最大」という文言有無による設問と選択肢

 
 
これを実際に行ってみた結果、定額制サービスのニーズとして、「映像配信サービス」が下表のように最も高く3割強でした。次に「音楽配信サービス」「電子書籍・雑誌・電子コミック」が1割台で続きます。

図 「最大」という文言有無による各定額制サービスの選択率
図 「最大」という文言有無による各定額制サービスの選択率

 
 
また、利用意向者が少ない定額サービスの場合、nが少数となってしまい、グループ間の差以上にグループ内での個人差による影響が大きくなってしまう懸念があるため、利用意向者が10%を超えた3つのジャンル「映像配信サービス」「音楽配信サービス」「電子書籍・雑誌・電子コミック」に絞り、金額データを比較することにしました。そうして比較をしてみると、「映像配信サービス」「電子書籍・雑誌、電子コミック」において、下表のようにグループ②(「最大」ありのグループ)の標準偏差がグループ①より小さい、という結果が得られました。

図 「最大」という文言有無による各定額制サービスの金額データ比較
図 「最大」という文言有無による各定額制サービスの金額データ比較

 
 
一方で、グループ①で「最小値1、最大値10,000」という外れ値があることが気になります。これにより「標準偏差が大きくなっただけ」という可能性もあるので、外れ値を除外し、再度標準偏差を確認することにしました。外れ値を除外した結果が下表になります。

図 「最大」という文言有無による各定額制サービスの金額データ比較(外れ値除外ver.)
図 「最大」という文言有無による各定額制サービスの金額データ比較(外れ値除外ver.)

 
 
これをみると、「映像配信サービス」「音楽配信サービス」の標準偏差はほぼ同じ結果になっていることがわかります。そして、「電子書籍・雑誌、電子コミック」は、グループ②の標準偏差がグループ①と比べて小さい結果となり、グループ①の最大値6,000が結果に大きく影響している結果と考えられます。
 
今回の結果からは、「『最大でも』という聞き方で回答のばらつきが抑えられるのでは?」といった仮説を立てるのは難しそうです。一方、「『最大でも』と記載して意識させることが、『最大値』の外れ値抑制効果につながるのでは?」という仮説が立てられる可能性があります
 

 
 

聞き方の違いによる結果への影響

続いて、①「重視点」と「期待点」、②「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」という2つ聞き方の違いによる結果への影響について、解説していきます。
 

「重視点」と「期待点」

この「重視点」と「期待点」という言葉の違いで、回答傾向が違うのか調査するために、以下のようにグループ①、②で提示する文章を分けました。
 
グループ① 「商品を購入する際の重視点としてあてはまるもの、最もあてはまるものを教えてください。」
グループ② 「商品を購入する際の期待点としてあてはまるもの、最もあてはまるものを教えてください。」
 
上記および選択肢のイメージが下図となります。

図 「重視点」と「期待点」という言葉の違いによる設問と選択肢
図 「重視点」と「期待点」という言葉の違いによる設問と選択肢

 
 
この設問は、「電化製品の購入」というところで、ある程度お答えやすい内容だと考え用意しました。これを実際に行ってみると、以下図のように①「重視点」、②「期待点」の両グループで回答傾向は、似通う結果となりました。

図 「重視点」と「期待点」という言葉の違いによる「電化製品の購入」における各選択率
図 「重視点」と「期待点」という言葉の違いによる「電化製品の購入」における各選択率

 
 
そして、差がやや見えるところとして、「価格の安さ」で-3.8pt、「デザイン」で5.3pt差が挙げられます。この差があるかどうかを検定してみると、統計的に有意な差とは言えない結果となりました。上図の下部分にある「両側P値」を注目してみると、検定の結果としてこれぐらいの差が出る確率が「価格の安さ」では、約27%、「デザイン」では約13%あることがわかります。そのため、今回は「重視点」と「期待点」という聞き方の違いで、回答に大きな違いがでることはないと、考えることにします。
 

「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」

こちらも、「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」という言葉の違いで、回答傾向が違うのか調査するために、以下のようにグループ①、②で提示する文章を分けました。
 
グループ① 「あなたが商品を購入する際の決め手になるものを教えてください。」
グループ② 「あなたが商品を購入する際に最も参考にするものを教えてください。」
 
上記および選択肢のイメージが下図となります。

図 「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」という言葉の違いによる設問と選択肢
図 「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」という言葉の違いによる設問と選択肢

 
 
これを実際に行ってみると、下図のように①「決め手になるもの」、②「最も参考にするもの」の両グループで回答傾向は、似通う結果となりました。

図 「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」という言葉の違いによる「電化製品の購入」における各選択率
図 「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」という言葉の違いによる「電化製品の購入」における各選択率

 
 
そして、ややスコアに差がみられたのは「商品パッケージの説明、店頭の情報」で-4.7pt、「メーカー・ブランドや店舗のホームページ」の3.8ptでした。こちらも先ほど同様検定をしてみると、統計的に有意な差とは言えない結果となり、「決め手になるもの」「最も参考にするもの」という聞き方の違いで、回答に大きな違いがでることはないと考えることにします。
 

 
 

まとめ

本記事では、設問(質問)の文言による違いが回答傾向にどのような影響を与えるかについて、実際のデータを用いて解説してきました。
 
「最大」という言葉を含めることで、外れ値が抑制される可能性があることがわかりました。そして、「重視点」と「期待点」、「決め手になったもの」と「最も参考にしたもの」といった聞き方の違いによる回答傾向の差は、いずれも統計的に有意な差がある結果とは言えませんでした。
 
他の業界(分野)でも同様なことが言えるのか、調査を行う必要がありますが、設問の文言による違いがある可能性は、やはりありそうです。そのため、文言のニュアンスによってデータの解釈に影響を及ぼす可能性があるため、文言の選定は調査の目的やターゲットに応じて慎重に行う必要があります。
 
ぜひ、この記事で紹介した内容を参考に、設問の文言についてもよく考え、得られるデータの質向上につなげていきましょう。
 
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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

 
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