公開日:2025.08.19

バイアスはゼロにならない!だからこそ重要になる調査設計

  • リサーチャーコラム

調査をしていると、必ずといっていいほど出てくる言葉があります。それが「バイアス」です。
バイアスとは、調査結果に影響を与える偏りのこと。統計や心理学の分野では、さまざまな種類のバイアスが知られています。

例えば、回答者が本音ではなく、世間的に望ましいとされる回答を選びやすくなる傾向は「社会的望ましさバイアス」と呼ばれます。
実際に下記のような事例が、実際のアンケート調査でも発生している事でしょう。

環境意識の調査で「環境問題に関心がありますか?」と尋ねれば、多くの人が「はい」と答えます。ところが、いざ店頭で少し割高なエコ商品を目にすると、購入をためらう人も少なくありません。
言葉と行動の間に生じるこのギャップこそ、社会的望ましさバイアスの典型です。

 
 

バイアスは排除しきれない

まず大前提として、バイアスを完全にゼロにすることは不可能です。
オンライン調査であれば、その時点で「インターネット利用者」という属性に偏っています。
さらに、多くの場合は調査会社のパネルに登録している「WEBアンケートモニター」が対象になります。
世の中の20代男性と、WEBアンケートモニターとして登録している20代男性では、生活習慣や価値観に何らかの違いがあるのではないか?とアンケートの結果をみていると感じることもあります。

すでにWEBアンケートモニターという属性によるバイアスがかかっているわけです。
この現実を前提にすれば、バイアスをなくすことより、どのようなバイアスがかかっているのかを理解し、それを踏まえて結果を解釈することの方が重要です。
 
 

質問設計でできる工夫

バイアスを完全に消すことはできませんが、影響を小さくする工夫はあります。
社会的望ましさバイアスの場合は、特に質問の聞き方が鍵です。

一つは、「意識」ではなく「行動」を聞く方法です。
例えば「環境意識がありますか?」と聞くのではなく、「マイバッグを週に何回使っていますか?」といった具体的な行動を尋ねます。
行動は意識よりも事実に近く、建前で飾られにくいからです。

ちなみに、社会的望ましさバイアスに関しては、調査員が介在しない分、WEB調査のほうが低減できているのではないかと個人的には感じています。
 
 

排除できるバイアスは減らす

一方で、オーダーバイアス(選択肢の提示順序による偏り)のように、設計で抑えられるバイアスもあります。
具体的には、選択肢の順番をランダマイズ(無作為化)すれば、特定の項目が常に上位に表示されて選ばれやすくなる現象を防げます。
製品比較テストであれば、試食や試飲の順番を変えることで、順序の影響を軽減できるでしょう。

また、調査品質を保つための工夫も欠かせません。
例えばダミー質問(トラップ設問)を入れて、注意深く読まずに答えている人を除外する方法です。
これはバイアス対策というよりは、データの信頼性を確保する施策ですが、結果として偏りの影響を減らすことにもつながります。
 
 

結果の解釈で意識すべきこと

調査結果をクライアントに報告する際は、「この結果はどのようなバイアスの影響を受けている可能性があるか」を説明します。
例えば、オンラインモニターを対象とした趣味調査で「ポイ活」が1位になった場合、それは調査対象の特性を反映している可能性が高いと説明します。
結果そのものよりも、「なぜその結果になったのか」を理解してもらうことが重要です。

また、WEB調査で得られた結果を絶対値として正しいものという見方はせず、スコアの差や傾向に着目することが結果の有効活用のために重要なことだと考えています。
例えば、あるテーマの認知率がWEB調査で50%と出ても、それが現実社会の数値と一致する保証はありません。
WEB調査では50%台だった一方、訪問面接では10%という結果が出る可能性もあります。
こうした理由から、年代や性別などで比較した際の差や傾向に注目したほうが、より有用な示唆が得られるのです。
 
 

バイアスを味方にする発想

実は、バイアスは必ずしも悪者ではありません。
あえてバイアスをかけて、特定の回答者層を炙り出す調査設計もあります。
例えば、事前に「世の中ではこの意見が主流です」と提示してから質問し、それでも反対する人の意見を深掘りしたい場合です。
この場合、バイアスをあえてかけてスクリーニングとして機能させることになります。
 
 

おわりに

どのようなバイアスがあるのかに関して知識を得ることは重要です。
WEB調査もバイアスがかかっていると考えておいた方がよいでしょう。
重要なのは、それをゼロにしようとするだけでなく、どのようなバイアスがあり、それが結果にどう影響しているかを把握し、調査設計と解釈に活かすことです。

排除できるバイアスは設計で抑え、避けられないバイアスは理解して説明する。
そして時には、そのバイアスをあえて利用して目的に合ったデータを得る。
それが、現場で調査を設計する立場としての、私なりのバイアスとの付き合い方です。
 
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執筆者
里村 雅幸(さとむら まさゆき)
株式会社アスマーク リサーチソリューショングループ リサーチャー
弘前大学大学院人文社会科学研究科社会心理学専攻修士。 大手チェーンストアで売場を5年経験後、2011年中途入社。アンケート画面作成・データチェック・集計を担当後、現在は定量調査の企画・設計から分析・報告書作成までを主に担当。 生のデータを扱ってきた経験から、調査の品質に関心を持ち、自社の実験調査企画や、他社との共同調査に関わる。 また、JMRAにおける公的統計基盤整備委員会の委員も担い、社内外のデータ活用にも積極的に研究を進めている。

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