
2024.05.20
ホームユーステスト(HUT)プロフェッショナルに聞く 「HUTの全工程解説と注意すべきポイント」
ホームユーステスト(HUT)は、消費者の日常生活の中で商品を試用・試食し、そのフィードバックを収集する重要な調査手法です。アスマークではHUT業務を円滑に進める……
公開日:2025.08.01
「コストを抑えつつ、生活者のリアルな意見を幅広く集めたい」というニーズから、ネットリサーチで自由記述(Free Answer)を多く使いたいというご相談をいただくことがあります。しかし、リサーチャーの視点から見ると、これは単純な「是」とは言えない、非常に悩ましいテーマです。
従来、ネットリサーチのような定量調査において、自由記述の設問を多用することは推奨されてきませんでした。その背景には、いくつかの明確な理由があります。
定量調査の役割
定量調査の主な目的は、「〇〇と回答した人が何%」というように数値を元に意思決定を行うことです。
自由記述は本質的に定性的な情報であり、その集計・分析には多くの手間がかかるため、定量調査の主役にはなりにくいと考えられていました。
| 項目 | 定量調査(選択式) | 自由記述(Free Answer) |
|---|---|---|
| 目的 | 数値で全体傾向を把握 | 回答者の生の声や意図を深掘りする |
| 分析方法 | 集計・統計分析 | アフターコーディング・テキスト分析 |
| メリット | 比較・分布・傾向が明確 | 新たな気づき、インサイトが得られる |
| デメリット | 質的情報が得にくい | 集計コストが高く、バラツキが大きい |
| 回答者負担 | 少なめ | 多め(特に長文の場合) |
回答の質と負担
ネットリサーチのアンケートモニターは、多くの調査に回答しています。
そのため、記述量の多い調査では、一人ひとりがどこまで深く考えて回答してくれるかという品質の問題や、回答者への負担の大きさという課題が常に付きまといます。
特に、「言われてみればそうだ」と感じるような潜在的な意識は、自由記述では言語化されにくい傾向があります。
実際、ある実験調査では、「アンケートで何に負担を感じますか?」という問いに対し、自由記述で「同じような設問が繰り返されること」と回答した人はほとんどいませんでした。
しかし、選択肢として提示したところ、最も多くの人がその項目をチェックしたのです。このことからも、回答者が自ら言語化することの難しさがうかがえます。
しかし、最近は少し流れが変わってきたのかもしれません。
その最大の要因が、生成AIの進化です。
これまで自由記述の分析で最も時間とコストを要していたのが、回答内容を分類・集計する「アフターコーディング」と呼ばれる作業でした。
このプロセスがAIの活用によって劇的に効率化され、スピーディーに傾向を掴めるようになってきたのです。
これにより、定量調査でありながら、インサイトを探ることを目的とした、新しいリサーチの形が生まれる可能性が出てきました。
従来のリサーチの形


ただし、自由記述を増やせば自動的に有益なデータが得られるわけではありません。
その価値を最大限に引き出すためには、緻密な「調査設計」が不可欠です。

明確な目的を持つこと
選択肢を考えるのが難しいから、といった理由で安易に自由記述を用いるのは避けるべきです。
飲食店に置かれているお客様アンケートを例に考えてみましょう。
ただ「ご意見をどうぞ」と欄を設けるだけでなく、「満足している人と不満な人の意見の違いは何か」「時間帯や年代によって意見の傾向は変わるか」といった分析の仮説を持つことで、集まった意見は次の施策に繋がる貴重なデータに変わります。
何を知りたいのか、その目的を明確にすることが全ての出発点となるでしょう。
回答の質を高める工夫を凝らすこと
質の高い記述をしてもらうためには、それ相応の工夫が必要です。
具体的には、通常の調査よりも多くのポイントを付与したり、「この調査は記述量が多い」ということを事前に伝え、同意を得た上で参加してもらうといった手法が考えられます。
こうした一手間が、回答者のモチベーションを高め、結果的に得られるデータの質を左右するでしょう。
「言語化の壁」を意識した設問設計
前述の通り、回答者が意見を言語化するには多大な労力がかかります。
そのため、例えば選択式の設問で回答してもらった内容について、そのすべてに理由を尋ねるような設計は、回答者の負担を増大させ、「なんとなく」といった本質的ではない回答を誘発する可能性があります。
本当に深掘りすべきはどこなのかを見極め、ピンポイントで自由記述を活用することが重要です。
自由記述設問が多いネットリサーチは、依然として慎重な設計が求められる手法です。
しかし、生成AIという強力なツールを得た今、その可能性は大きく広がりつつあります。
目的を明確にし、回答者の負担を考慮した上で、戦略的に自由記述を組み込む。
そして、集まった膨大なテキストデータからAI技術を駆使してインサイトを抽出する。
これからのリサーチ会社には、こうした自由記述を有効活用するためのノウハウが一層求められるようになるでしょう。
私たちも、テクノロジーの進化を積極的に取り入れながら、お客様のマーケティング課題を解決する、より価値の高い調査を提供していきたいと考えています。
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