公開日:2025.08.08

良いリサーチャーを見極める3つの視点

  • リサーチャーコラム

リサーチャーとしてのキャリアを重ねる中で、たびたび「統計知識はどこまで必要か?」という問いに出会うことがあります。
数字を扱い、データを解釈し、レポートにまとめる私たちにとって統計知識は当然欠かせないものです。

けれど、それが「良いリサーチャー」の条件かと言われると、答えは少し違ってきます。
今回は私自身の経験をもとに、「統計知識の必要性」と「良いリサーチャーに求められる素養」について考察してみたいと思います。

 
 

良いリサーチャーとは?

まず前提として、私が考える「良いリサーチャー」とはどのような人物かをお伝えします。

一言で言えば、「お客様の調査課題を正しく整理し、その課題解決に向けて適切な手法や分析を選定・実施できる人」。
その根本には、課題の本質をつかむ力と、生活者視点を併せ持っていることが重要だと考えています。

生活者視点というのは、単に「自分も生活者である」という感覚にとどまりません。
例えば、案件で取り扱う商品を実際に購入・体験してみたり、売り場に足を運んで店頭状況を観察したりするなど、生活者としての実感を持って調査に向き合う姿勢のことです。

ある案件では、調査結果として「ファミリー層に人気がある」と示された企業イベントがありました。
数字だけを見ていた当初はピンと来なかったのですが、実際に足を運んでみると家族連れでにぎわっており、「なるほど、これは本当だったのか」と実感したことがあります。
この「自分の目で確かめる」ことも、リサーチャーとしての大切な視点だと強く感じた出来事です。
 
 

統計知識は「武器」ではなく「装備品」

統計知識の重要性については、まさに「あるに越したことはない」といったスタンスが私の基本的な考え方です。

リサーチを行う際には、調査設計や集計仕様の作成、レポート分析など、統計的な観点が関わる業務が多々あります。
たとえば、集計表に出てくる数値の見方一つ取っても、それが何の指標で、どのような意味を持つかを理解できなければ、見当違いの解釈をしてしまう危険性があります。

特に、「100%の評価を得た」という結果が出ても、調べてみると実はサンプル数が1件だけだった。
というケースでは、統計的に信頼できるとは言えません。
こうした基本的な判断をするには、統計の初歩的な知識は必須です。

ただし、私が「武器」ではなく「装備品」と表現する理由は、統計知識が主役ではないからです。
それは、選択肢を広げ、アプローチの幅を広げてくれる便利な装備にすぎません。
調査課題を解決するために、どう使いこなすかが問われるのです。
 
 

「統計だけ」では足りない場面

一方で、統計知識だけでは不十分だと感じたエピソードもあります。

ある定点調査で、前回と今回の結果が大きく乖離していたことがありました。
最初はサンプリング誤差などの統計的観点から分析を進めていましたが、なかなか納得のいく説明がつきません。
よくよく調べてみると、実施時期が「クリスマス前」と「クリスマス後」であったことがわかり、特に購買意識に関する設問ではこの季節要因が大きく影響していたと推察されました。

このように、数字だけでは見えない「生活者心理」や「行動文脈」を読み解くためには、生活者理解や消費行動への感度も必要です。

また、自由回答コメントの分析においても、「件数が少ないから無視」とはなりません。
お客様からは「たった1件の声でも、私たちの施策のヒントになる」と言われたこともあります。
このような「N=1の示唆」に気づけるかどうかも、リサーチャーの重要な資質だと感じています。
 
 

統計知識を「伝える力」

もう一つ、リサーチャーに求められるのは、統計的な知識を「分かりやすく伝える力」です。

分析レポートは、お客様の多くが統計の専門家ではないことを前提に作る必要があります。
私が意識しているのは、難しい分析手法を用いた際には、解釈ページを設けて背景や前提条件を丁寧に説明すること。
図表のラベルを工夫したり、コメントに例え話を入れて視覚的・直感的に理解しやすくしたりすることです。

また、報告会ではお客様だけでなく、その先にいる社内の関係者にも結果を伝える必要があります。
ですから、「誰が聞いてもわかる説明」に仕上げることが欠かせません。
これは、リサーチャーが成果物を「伝える立場」である以上、常に意識しておくべきポイントだと思います。
 
 

AI時代のリサーチャーに求められること

AIや自動分析ツールの進化により、統計知識へのアクセスはこれまで以上に容易になりました。
私自身も、自由回答の分類や分析ではAIの力を借りることが増えていますし、スピードや正確性の面でも非常に助かっています。

しかし、いくら便利なツールがあっても、使い手の解釈力や知識が伴わなければ、本質的な価値にはなりません。

たとえば、AIが出してきた分析結果を、「それっぽい」だけで鵜呑みにするのではなく、「これは意味があるのか?」「本当に使える示唆か?」とジャッジできるのは、やはり人間の経験と知識です。
ツールの活用が進むからこそ、その最終判断を下せる力が、今後のリサーチャーにはますます求められると思います。
 
 

まとめ:良いリサーチャーを見極める3つの視点

リサーチャーとして活躍するために必要な要素は多々ありますが、私が特に重要だと考えるのは、以下の3つの視点です。

1. 伝える力
どれほど高度な分析ができても、それをお客様に「伝わる形」にできなければ意味がありません。
データの背景を理解し、専門的な内容をかみ砕いて説明し、関係者全員が共通理解を持てるように工夫する力。
これは、レポートや報告会においてお客様の意思決定をサポートするために不可欠なスキルです。

2. 生活者目線
私たちが向き合っているのは、数字の向こう側にいる人の意識や行動です。
リサーチの結果をただ解釈するのではなく、自分自身が一生活者として商品やサービスを体験し、現場を観察することで、より本質的な理解に近づくことができます。
この視点は、数字では捉えきれない「肌感覚」を補う、非常に重要なリサーチャーの資質です。

3. 統計知識
統計知識は、リサーチの「設計」「分析」「解釈」の精度を高めるための基盤です。
サンプルサイズ、誤差、平均・中央値の意味、有意差の判断といった基礎的な理解がなければ、誤った解釈や不適切なレポートにつながる恐れもあります。
ただし、統計知識は万能の武器ではなく、課題解決のために使いこなすべき装備品。その活用の仕方こそが、リサーチャーとしての力量を左右します。

この3つの視点がそろってはじめて、リサーチの現場に真に貢献できる「良いリサーチャー」と言えるのではないでしょうか。
 
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執筆者
吉田 圭祐(よしだ けいすけ)
株式会社アスマーク リサーチソリューショングループ リサーチャー
大学卒業後、新卒でメディア調査サービス会社に入社し、広告統計に関する業務に関わる。
業務では、グループ会社実施の全国規模の大型調査の調査票作成や、 各種アンケート調査や広告統計の集計、レポート作成などに従事。
その後、地元の広告代理店勤務などを経て、2022年にアスマークに入社。
現職では、リサーチャーとして幅広い業界の調査企画から設計・分析・レポート 作成までの業務を担当。

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