市場調査・マーケティングリサーチ会社のアスマーク

公開日:2026.09.28

「ペルソナ活用」の形骸化を防ぐ。商品開発フェーズに応じた顧客理解とブランドの再定義

  • リサーチャーコラム

「ペルソナを作ったものの、結局どこにでもいるような平均的な人物像になってしまった」「実務でどう活用すればいいのか分からない」――。マーケティングの現場で、こうした悩みは絶えません。

多くの人が「ペルソナ=一人の人間を詳細に描き出すこと」だと考えていますが、実はそこに落とし穴があります。形だけのペルソナが量産される背景には、顧客理解の「深さ」の捉え方や、ブランド戦略との接続に根本的なズレがあるからです。

本コラムでは、実効性のある顧客理解、そして形骸化しないペルソナ活用とはどうあるべきか、2つの本質的な視点から紐解きます。

【本コラムの要点】


  • 上流工程におけるペルソナの限界
    コンセプト開発などの上流工程で架空のペルソナをベースにすると、一般論に偏りやすくなります。インサイトの発見には、「実在する特定の1人(n=1)」の生の声にフォーカスするアプローチが有効です。
  • ペルソナは「チームの翻訳機」として機能する
    ペルソナが真価を発揮しやすいのは、パッケージやデザインなど下流工程において、関係者の認識を揃える「共通言語」として活用する場面です。
  • 同質化を防ぐポジショニングの再定義
    ペルソナが競合や自社ブランド間で似通ってしまう場合、機能や価格のスペックではなく、生活者の「体験価値」を基点にブランド戦略を見直すことが解決の糸口となります。

 

 
 

商品開発の上流工程における「ペルソナ活用」の限界と真の役割

架空のプロフィールが生み出す「想定内のコンセプト」

ペルソナを設定する理由は、ターゲット像を具体化して、チーム全体で「誰のどんな悩みを解決するか」の認識を完全に一致させるためだ、と考える方は多いでしょう。チームで共通認識を持ち、パッケージデザインやコミュニケーション施策などの判断の拠り所とするためにペルソナは重要です。しかし、商品開発のすべてのフェーズにおいて、ペルソナをベースにすることが正しいとは限りません。

特に注意したいのは、商品開発のより上流にあたる「コンセプト開発」などのフェーズです。このフェーズでペルソナをベースにしてしまうと、生活者が求めている本質的なニーズとズレが生じやすくなります。それはペルソナという手法そのものの特性に理由があります。

ペルソナは、複数のリサーチ結果やデータ、ターゲット像の共通項(最大公約数)を組み合わせて、だれが見てもイメージしやすいようにキレイに整えられた「一つのキャラクター」です。どれほど精密に作り込まれていても、それは実在しない人物のプロフィールシートに過ぎません。

コンセプト開発など商品開発の上流で必要とされるのは、生活者自身もまだ気づいていないような「欲しい」という気持ち(インサイト)を汲み取ることです。架空の一つのキャラクターをベースに議論をしてしまうと、メンバーのアタマの中にある「きっとこういう人はこう思うだろう」などという各々の過去の経験や一般論を出し合うことになります。

結果として、出来上がるコンセプトも「どこかで見たことがある想定の枠を出ないもの」となってしまいます。「架空のプロフィールを見る→ ニーズを推察する→ 各々の過去の経験や知見がもとになってしまう」という思考の構造に陥ってしまうのです。
 

 
 

インサイト発見の拠り所となる「n=1」と、「翻訳機」としてのペルソナ

だからこそ、上流のコンセプト開発において拠り所にすべきなのは、綺麗にまとめられたペルソナではなく、デプス調査や行動観察で出会った「実在する特定の誰か(n=1)」の生々しい発言や生活背景なのです。泥臭い情報こそが重要になります。

筆者には、「ストアチェックに行って誰が買っているか見てきなさい。その中で買ってほしい人が買っているのかを確認するだけでなく、あなたが買ってほしいと思う人を見つけてきなさい」という現場の教訓があります。実在の誰かを見つめることの重要性が、ここには表れています。

では、ペルソナはどのように使うのか。一言で言うと、「ペルソナとはインサイト発見器ではなく、チームの翻訳機である」ということです。

本当はデプス調査などを全員が聞ければいいのですが、社内の他部署やクリエイティブ、広告代理店など全員を巻き込むのは不可能です。また人は複雑ですから、発言録などのデータを渡すだけでは解釈がブレます。そんな時に役立つのが、ペルソナという共通言語、つまり「翻訳機」なのです。

ペルソナは「このデザインはターゲットに響くかな?」などと迷ったときの判断基準として、コミュニケーション戦略やデザインを考えるなどのフェーズ(下流)で使うのは極めて有効なアプローチです。

では実務において、ペルソナをどう作れば、チームの共通言語・翻訳機として機能するのでしょうか?
よくある失敗は、複数人のインタビューの共通項をパズルのように組み合わせて、最大公約数のクローンみたいなペルソナを作ってしまうことです。

それを回避し、チームの共通言語・翻訳機として機能するペルソナを作る手順は以下の通りです。

  1. まず、デプスインタビューなどで「最も強いインサイトを持っていた、実在するAさん」を丸ごとベースにします。
  2. 次に、Aさんのインサイトや価値観は一切いじらず、チームメンバーがパッとイメージしやすいように、名前や最低限の属性(年齢や職業など)だけを少しだけマイルドにして記号化してあげます。

つまり、1人の実在する人(インサイトや価値観)に、共通認識を持ちやすくするための最適な服を着せてあげる」という視点が重要になります。

 
 

ブランド間の同質化を脱するポジショニング戦略

スペック先行の開発が陥る「記号化された顧客像」の罠

ペルソナ活用におけるもう一つの大きな悩みが、「競合や自社ブランド間で差がないペルソナができてしまう」という問題です。 特に日用品などのカテゴリーにおいて、ブランド間での差が出ず、結果としてペルソナも似たようなものになってしまうケースが見受けられます。また、ブランドリニューアルの際、既存顧客をベースにペルソナを作ろうとすると複数に分かれてしまい、ターゲットが絞りきれないという課題も頻出します。

ブランド間で差がないペルソナができてしまう場合は、ペルソナの作り方以前に、ブランドのポジショニング自体を見直す必要があります。これは「ブランドの立ち位置が被ってしまっている」状態であり、それが結果として顧客像の同質化を引き起こしているのです。
 

「機能」ではなく「体験価値」からポジショニングを再定義する

こうした状況を打破するためには、機能と価格(スペック)でポジショニング決めるのではなく、「生活者の悩み」や「使った時の感情」「ありたい姿」といった生活者視点(感情価値・体験価値)でポジショニングを作成し直すことが有効です。生活者視点で立ち位置を整理したうえでブランドを当てはめれば、自ずと各ブランドの顧客像が差別化され、詳細のペルソナを作成すれば被ることはないと考えられます。

コンセプト(商品アイデア)ベースで開発が進む場合であっても、「誰にどんな風になってもらいたいか」や「誰のどんな悩みを解決して理想の姿になってもらいたいか」を常に念頭に置くべきです。
スペックのみで出来上がったコンセプトについて、生活者はスペックそのものにはあまり興味がなく、そのスペックがもたらす「体験や価値」が重要なので、結果として響かないものになってしまいます。良いモノが売れるという前提が成立すればスペックそのもののコンセプトでも通用しますが、なかなかプロダクトアウトが通用しない現状においては難しいといえるでしょう。
生活者の体験や価値をコンセプトに入れ込めば、必然的に仮の顧客像(=戦略ターゲット像)が設定されるはずです。そのターゲットに対してコンセプトチェックを行い、検証とブラッシュアップを重ねていくことが成功の近道です。
 
 
ブランドリニューアル時のペルソナ(ターゲット像)の扱い方
ブランドをリニューアルする際、複数ペルソナを作るべきか悩むケースがあります。ここで立ち返るべきは、リニューアルに至った「理由」です。

  • スペックの問題か、ターゲット設定の誤りか?
    例えば売上が芳しくない原因がスペック差別化の欠如にある場合、商品を改善してもターゲット像自体は大きく変わりません。一方、ターゲット設定の誤りであれば、市場データを今一度見直し、購入層やヘビーユーザー層を明らかにして、ターゲット像をブラッシュアップする必要があります。
  • 市場に浸透している場合のリニューアル
    売上が順調な浸透期のリニューアルでは、既存顧客ベースのターゲット像は維持しつつ、リニューアルによって「新たにどこを戦略ターゲットとして獲得しに行くのか」という視点で検討することが推奨されます。
  • なお、ブランドのリポジショニングの場合は違うアプローチになります。また、ペルソナとターゲット像は異なる概念であることにも留意が必要です。

     
     

    まとめ:ビジネスを動かす顧客理解のアプローチ

    ペルソナは、作成すること自体が目的ではありません。属性情報の羅列に終始せず、その裏側にある感情や生活の文脈を読み解く姿勢が不可欠です。

  • 商品開発の上流(コンセプト):架空のペルソナではなく、実在する「n=1」の生の声を思考の拠点にする。
  • 商品開発の下流(デザインやコミュニケーション):チームの認識を揃える「翻訳機」としてペルソナを活用する(実在の人物のインサイトに最適な服を着せる)。
  • ペルソナの同質化の解消:スペック(機能価値)ではなく「生活者の体験価値」からブランドのポジショニングを再定義する。
  • これらの視点を持ち、適切なフェーズで正しい顧客理解のアプローチを選択することが、形骸化したペルソナをビジネスを動かす強力なツールへと変える鍵となります。

    本コラムで述べた『ペルソナ活用』をはじめ、貴社のマーケティング領域における課題について、専門のリサーチャー(モデレーター)が直接ご相談を承ります。
    また、リブランディングや顧客理解について、さらに深く知りたい方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
     
     

    執筆:小関 久美(こせき くみ)

    執筆:小関 久美(こせき くみ)

    合同会社あかつき
    大手広告代理店マーケティングプランナー、化粧品メーカーでのPM、BMを経験後、定性調査を基盤としたマーケティング会社を起業し、定性調査の遂行だけでなくマーケティングコンサルを手掛けた。その後大手調査会社のリサーチャー、マーケティングコンサルを経て、現職。定性調査歴は30年以上に及ぶ。エスノグラフィーや行動観察を得意とし、生活者視点での商品・サービス開発を一貫してサポートしている。モデレーターやWSファシリテーターの経験も多数。セミナー登壇、記事執筆、YouTubeなども実施。伴走するマーケターとして定評がある。


    監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)

    監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)

    株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー
    リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。学術調査チームの立ち上げや、業界内でも難易度の高い「難病・希少疾患」「障がい者」のリクルートサービスの立案・リリースを主導。共同著者として参画した研究論文が学術誌『グローバルビジネスジャーナル』に掲載された実績を持つ。

    専門領域
    消費者インサイト分析、セグメンテーション。学術的根拠に基づき消費者モニターをタイプ分類する「インサイト・セグ」を開発。

    発信実績
    「日本のマーケティングリサーチ20年の変遷」の執筆や、最新技術を網羅した「ChatGPTを調査設計・レポートに活用する検証セミナー」への登壇など、伝統的手法から最新トレンドまで幅広い知見を保有。

    本記事の監修にあたって
    自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。

    アスマークの編集ポリシー
     

    「ペルソナを作る=ひとりの人を深く知る」って思い込んでいませんか?リサーチで深める顧客理解とペルソナ活用の再考

    「ペルソナを作る=ひとりの人を深く知る」って思い込んでいませんか?リサーチで深める顧客理解とペルソナ活用の再考

    商品開発やマーケティングで「ペルソナ」を設定することは、もはや当たり前になりました。しかし、「作ったはいいものの、うまく活用できていない…」と感じている方も多いのではないでしょうか。

    本セミナーでは、「ターゲット」と「ペルソナ」の明確な違いを整理し、ペルソナが本当に有効なフェーズとそうでないフェーズを具体的に解説します。

    下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
    ● ペルソナ設計が社内で形骸化していると感じている方
    ● マーケティングにおける「生活者理解」のアプローチを見直したい方
    ● 顧客のニーズが掴みきれず、商品・サービス開発の方向性に迷いや不安がある方

    ※無料会員登録でご視聴可能です。

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    マーケティングにおけるペルソナの正しい捉え方。「ペルソナに聞きたい」は間違い?

    マーケティングにおけるペルソナの正しい捉え方。「ペルソナに聞きたい」は間違い?

    近年、商品開発やマーケティングの現場では「ペルソナ」という考え方が広く使われるようになりました。
    しかしその一方で、「ペルソナに合う人を集めたい」「ペルソナ本人に話を聞きたい」といった声も多く、ペルソナの使い方をめぐって混乱が生じる場面も少なくありません。
    本記事では、「ペルソナ該当者に聞きたいは非現実的なのか?」という疑問から出発し、ペルソナとターゲットとの違い、商品開発におけるペルソナ活用の最適フェーズ、そして実際の活用事例までを体系的に整理して解説します。

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    ユーザー視点を促進する「ペルソナ作成・ポイントとコツ」

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    ペルソナとは、製品が売れるための仕組み作りに向けて思い描く、非常に詳細な人となりまでを想定した、具体的人物像のことを指します。
    施策毎に描くことにより、具体的なマーケティング戦略立案が実現し、ユーザー目線での訴求方法の理解を極めることができます。

    本資料では、ユーザー視点を促進し、戦略立案に活かせるペルソナ作成のポイントとコツについて、実務的プロセスで解説いたします。

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