公開日:2025.10.15

購入者データ×AIでペルソナをつくることは可能か?

  • リサーチャーコラム

結論から言えば、購入者データをAIで分析してペルソナをつくることは十分に可能です。
ただし、購買履歴や行動ログといったデータのみをAIで分析するだけでは「Why(なぜ)」の理解が弱く、人間性を単純化してしまうリスクがあります。そのため、デプスインタビュー(DI)との併用が最も効果的です。

近年、弊社でもAIや生成AIを積極的に業務に取り入れていますが、その結果、大規模なデータ分析を通じて客観的なパターンを迅速に把握するなど、従来の分析手法を一段と高いレベルに引き上げることが可能になりました。ペルソナ設計もまさにその典型例であり、「AIをどう使い、どこで人の解釈を加えるか」が重要になります。

 
 

AIによるペルソナ設計の利点

従来のペルソナ設計は、定性調査、特にデプスインタビュー(DI)をもとに行うことが一般的でした。
しかしAIを導入することで、以下のような利点が得られます。

  • 大量の「人(対象者)」のデータを短時間で分析できる
  • 客観性を確保しやすい
  • 時間やコストの制約を大幅に軽減できる

特に購買データや行動データをもとにしたパターン抽出は、データドリブンな意思決定を強力に後押しします。AIが得意とするのは「誰が」「何を」したかという行動パターンの抽出です。
 
 

留意すべき3つの課題

  1. データの偏り
    購買履歴が特定の層に偏っていれば、ペルソナは一面的になります。非利用者や潜在顧客を考慮できない点にも注意が必要です。また、最新の行動が反映されているか、ペルソナの設計目的に沿ったデータと紐づいているかもチェックすべきです。
  2. Whyの不足
    AIは「Who・What」の分析は得意ですが、「Why(なぜその行動をしたか)」の理解は不得意です。これを補うには、

    • デプスインタビュー(DI)で動機や感情を直接探る
    • レビューやSNS投稿などのテキストデータをAI分析する
    • 購入チャネル選択や検索履歴、時系列や外部環境(天候など)といった周辺データと相関分析する

    といったアプローチが有効です。AI単独では難しい「動機の解釈」に、人間の目が不可欠なのです。

  3. 人間性の単純化
    AIが作るペルソナは、複雑な人間性を過敏に単純化してしまうリスクがあります。
    たとえばAIが導いた「高価格帯コスメをECサイトのセールでまとめ買いする30代女性。動機はコスパ重視。」というペルソナ。実際には「ECサイトのセールは忙しい自分へのご褒美時間であって、最高の体験を最適に手に入れる喜びである」という動機が潜んでいるかもしれません。ここを読み解けるのはマーケター自身の人間理解です。

    実際、購買データや行動データといった一部のデータだけでは、ペルソナの深掘りには限界があります。AIによるペルソナ設計を最大限に活かすには、テキストデータや周辺環境データなどと紐づけた総合的な分析、すなわちビッグデータ分析が不可欠です。ビッグデータ分析は、従来の定性調査では見つけにくい予期せぬ相関や潜在ニーズを発見できる点で、ペルソナ設計に極めて有効なのです。

 
 

ベストプラクティスは「AI×DIのハイブリッド」

AIとデプスインタビュー(DI)は対立するものではなく、補完関係にあります。

  • AIでパターンを抽出し、仮説を立てる
  • デプスインタビュー(DI)で仮説を検証し、動機や感情を深掘りする

この往復プロセスこそが、スピードと共感性を兼ね備えた「実務で使えるペルソナ」を生み出します。AIは分析対象を効率的に絞り込み、デプスインタビュー(DI)はその人の本質を理解する――この組み合わせが最適解です。
 
 

まとめ

  • AIによる購買データ分析はペルソナ設計に有効
  • 留意すべき課題として、以下3点に注意が必要
    1. データの偏りや網羅性によるペルソナの一面化
    2. Why(動機)理解のための時系列・外部環境といったコンテキストデータによる補完の必要性
    3. 多角的なビッグデータ分析の導入による人間性の単純化の回避
  • AI×デプスインタビュー(DI)のハイブリッドが現時点でのベストプラクティス
    •  
       
      AIはスピードと客観性をもたらし、人は本質的理解と共感性を加える。両者を掛け合わせることで、マーケティングに本当に生かせる「実効性の高い、多角的なペルソナ」が完成します。これこそが、今後のペルソナ設計における強力なアプローチの一つといえるでしょう。

      本コラムで述べた『AI×購買データ分析によるペルソナ設計』をはじめ、貴社のマーケティング領域における課題について、専門のリサーチャー(モデレーター)が直接ご相談を承ります。
      また、購買データの活用や消費者の動機理解について、さらに深く知りたい方は、ぜひお気軽にご連絡ください。

       

      執筆者

      合同会社あかつき 小関 久美 (こせき くみ)

      大手広告代理店マーケティングプランナー、化粧品メーカーでのPM、BMを経験後、定性調査を基盤としたマーケティング会社を起業し、定性調査の遂行だけでなくマーケティングコンサルを手掛けた。その後大手調査会社のリサーチャー、マーケティングコンサルを経て、現職。定性調査歴は30年以上に及ぶ。エスノグラフィーや行動観察を得意とし、生活者視点での商品・サービス開発を一貫してサポートしている。モデレーターやWSファシリテーターの経験も多数。セミナー登壇、記事執筆、YouTubeなども実施。伴走するマーケターとして定評がある。

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