公開日:2025.12.10

ベンチマーク調査とは?調査手法や指標、分析方法など解説

  • マーケティングリサーチHowto

企業が市場において競争優位性を築き、持続的に成長していくためには、自社の現状を客観的に把握し、「今よりも良い状態」を目指して改善を続けていくことが大切です。その際、改善の方向性や具体的な目標を定めるうえで、特に効果的な手法がベンチマーク調査(ベンチマーキング)です。

ベンチマーク調査とは、自社の製品・サービス・業務プロセス・戦略などを、業界トップ企業や競合他社のベストプラクティス(最優良事例)と比較・分析することです。これにより、企業は自社の強み・弱みや、改善すべきギャップを明確にできます。

この記事では、このベンチマーク調査の基本的な定義から、具体的な調査手法、設定すべき指標、効果的な分析方法、さらには調査を成功に導くためのポイントについて解説します。

 
 

ベンチマーク調査とは?

ベンチマーク調査とは、自社の製品・サービス・業務プロセス、さらには経営戦略などを、同業界の競合企業や特定分野で高く評価されている企業と比較・分析する調査手法です。

この調査手法には、特定の課題を解決するために一度だけ行うアドホック調査(単発調査)と、市場での立ち位置を継続的に把握するパネル調査(定期調査)の2種類があります。

また、ベンチマークの対象は大きく2つに分類されます。

  • 企業全体(または部門・プロセス)を対象とするもの
    他社の優れた経営戦略や業務効率、生産性などを比較し、自社の運営改善につなげるものです。
  • 商品・サービスを対象とするもの
    消費者視点から競合製品の機能、価格、品質、顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)などを比較し、市場での競争力を分析します。

※ ここでいう「ベンチマーク」とは、自社の業績や商品の性能を評価し、改善の方向性を定めるための基準・指標のことを言います。
 
こうした比較を通じて、自社が目指すべき水準や、競合他社との具体的なギャップを明確に把握できるようになります。

 
 

ベンチマーク調査を行う目的

ベンチマーク調査を実施する目的は、自社の競争優位を高め、持続的な成長につなげることです。具体的には、以下の2点に集約できます。

  • 自社の現状を客観的に把握し、戦略立案に活かす
    自社の製品・サービス・業務プロセス・コスト構造などを、トップ企業や競合他社の客観的データと比較することで、「どこが優れているのか(強み)」と「どこが遅れているのか(弱み・ギャップ)」が明確になります。こうして可視化されたギャップは、自社が優先的に取り組むべき改善課題であり、内部では気づきにくいボトルネックの発見や、経営資源の配分や事業戦略の方向性を決める際の信頼できる根拠として役立ちます。
  • ベストプラクティスを自社の戦略に取り入れる
    ベンチマーク調査では、優れた企業の成功要因(ベストプラクティス)を深掘りします。たとえば、・なぜその企業が特定分野でトップに立てたのか?・どのような革新的プロセス・技術・組織体制を採用しているのか?という点を分析し、その本質を探ります。ここで重要なのは、こうした事例を単純に真似るのではなく、自社の文化・戦略・リソースに照らしてどう応用すべきかを検討することです。そのうえで、自社に最適化した改善施策やアクションプランへとつなげていきます。

 
 

ベンチマーク調査で押さえる項目

ベンチマーク調査を効果的に進めるためには、比較対象とする企業や事業について、多角的かつ網羅的に情報を収集し、整理することが大切です。特に、初期段階のデスクリサーチでは、以下の項目から自社が抱える戦略的課題に応じて取捨選択し、必要に応じて詳細化していくことが重要です。
※ デスクリサーチは、既存の公開情報や二次資料を収集・分析する調査方法です。新たにフィールド調査を行わず、公的統計や業界レポート、新聞・雑誌記事、企業の公開情報などを活用します。
 
企業全体・経営戦略に関する項目

項目 具体的な内容
企業概要 設立年、資本金、従業員数、拠点、沿革、経営理念、ビジョンなど
財務状況 売上高、営業利益率、純利益、成長率、株価推移、主要な投資活動(M&A等)
事業ポートフォリオ 主要事業、事業構成比、市場シェア、収益源の分散状況
組織・人材 組織体制図、部門間の連携、育成制度、採用戦略、平均勤続年数
コーポレート戦略 中期経営計画、IR資料、トップメッセージから読み取れる重点戦略

 
 
マーケティング・市場に関する項目

項目 具体的な内容
ターゲット顧客 主な顧客層
・デモグラフィック(年齢・性別・収入・職業・家族構成など)
・ジオグラフィック(地域・国・都市規模・気候など)
・サイコグラフィック(価値観・ライフスタイル・性格・興味関心など)
・ビヘイビアラル(実際の行動・購買パターン・使用頻度など)
プロモーション戦略 CM、Web広告、SNS(フォロワー数・エンゲージメント)、プレスリリース、広報活動
ブランドイメージ 企業や商品の認知度、ブランドパーソナリティ、顧客ロイヤルティ
流通チャネル 小売店、EC、直営店、代理店など、販売経路の構成と特徴
価格戦略 主力商品の価格帯、値引き・キャンペーンの頻度と内容、競合との価格比較

 
 
商品・サービスに関する項目

項目 具体的な内容
製品構成 ラインナップ、主力商品の特徴・機能、技術的優位性、特許
デザイン・ユーザビリティ デザイン評価、UI/UX、パッケージング
サプライチェーン 製造拠点、調達方法、物流体制、在庫管理の効率性
カスタマーサポート 問い合わせ窓口(電話・チャット・FAQ)、対応時間、レビュー評価
新製品開発 開発スピード、研究開発投資、開発プロセスの特徴

 
 
ベストプラクティス(業務プロセス)に関する項目
効率化やコスト削減を重視する場合、以下の業務プロセスに関する情報が特に重要です。

営業プロセス:リード獲得方法、商談管理、受注までのフロー、営業効率
生産・オペレーション:生産性(投入量あたりの産出量)、品質管理、コスト構造
ITシステム:基幹システム、CRM/SFAの導入状況と活用度
イノベーション:新技術や新ビジネスモデルの導入事例、その成功・失敗要因

 
 
調査項目の補完(消費者視点の項目について)
ここまでの情報は、主に公開資料や専門レポートから入手できるデスクリサーチ中心の項目です。しかし、商品やサービスの「真の市場価値」や「消費者の評価」(顧客満足度、購買決定要因、他社との機能比較など)は、デスクリサーチだけではなかなか把握できません。
こうした“生活者のリアルな声”を得るためには、定量調査(アンケート)定性調査(インタビュー)といった実査を取り入れる必要があります

 
 

ベンチマーク調査における主な調査手法

ベンチマーク調査を成功させるには、設定した調査項目に対して、最も適した情報収集手法を選ぶ必要があります。その際、知りたい情報が「客観的なデータ」なのか、「消費者の生の声」なのかによって、選択すべきアプローチは大きく変わります。

通常、主な調査の種類として、デスクリサーチ・定量調査・定性調査の3つが挙げられます。それぞれ収集できる情報の種類や深さが異なるため、必要に応じて複数の手法を組み合わせることで、より多面的で深みのある洞察を得られます。

この章では、ベンチマーク調査で広く活用されるこれら3種類について、その特徴と取得できる情報の内容を解説します。
 
 

デスクリサーチ

デスクリサーチは、社内外で既に存在する公開情報を収集・分析するベンチマーク調査の初期段階で最も重要な方法です。他社の戦略やパフォーマンスの全体像を、短期間かつ低コストで把握できる点が大きなメリットです。

この方法では、まず企業の公開情報(IR資料、有価証券報告書、アニュアルレポート、中期経営計画、プレスリリースなど)から、財務状況や経営戦略、将来の方向性といった経営レベルの情報を収集します。加えて、業界レポートや統計資料(市場調査会社のレポート、業界団体の白書、公的機関のデータ)を活用することで、市場全体の構造や業界トレンドを把握できます。
さらに、WebサイトやSNSを通じて、企業の情報発信の特徴や顧客とのコミュニケーション状況を確認し、ニュース記事や学術論文からは技術動向や新規ビジネスモデルに関する最新の知見を得ることが可能です。

こうして得られた情報は、次の段階である定量・定性調査の仮説づくりや、調査項目の絞り込みに役立つ基礎データとなります。ただし、公開情報だけでは消費者の本音や企業内部の具体的なプロセスまでは把握できないため、他の調査手法と組み合わせて活用することが大切です。
 
 

定量調査

定量調査は、数値データをもとにして市場における自社および競合製品・サービスの立ち位置を客観的かつ統計的に把握するための調査です。一般的にはアンケート形式で実施され、多数の消費者から意見を収集できる点が最大の強みです。

この調査の目的は、「誰が」「どれくらい」「なぜ」その行動や評価をしているのかを数値として測定することにあります。特に、ベンチマーク調査では、以下の項目の測定に活用されます。

項目 測定すること
認知度・利用経験 ブランドやサービスが市場でどの程度浸透しているか?
顧客満足度(CS) 総合評価に加え、機能・価格・サポートなど項目別の満足度
購買意向・推奨度 将来の購入意向や、NPS® (ネット・プロモーター・スコア)による推奨度
比較評価 類似する複数の競合製品を対象に、価格・機能などの要素を点数化し、競争優位性やギャップを測定

 
定量調査は、統計的な裏付けをもって課題を特定できるため、経営層への報告資料や改善目標の設定にとても効果的です。ただし、「なぜその評価に至ったのか」といった背景や深層心理まではとらえにくいため、必要に応じて定性調査と組み合わせることが重要です。

 
 

定性調査

定性調査は、定量調査だけでは明らかにできない「なぜ(Why)」や「どのように(How)」といった、消費者の深層にある動機・意見・感情・行動の背景を深く掘り下げるための調査です。主にデプスインタビューやグループインタビューといった対話形式で実施されます。

この調査では、少数の対象者と直接やり取りすることで、利用シーンの具体的な描写や“生の声”をていねいに拾い上げ、表面的には見えにくい課題や潜在的なニーズを明らかにします。特に、ベンチマーク調査においては、次のような情報を把握するうえで重要です。

情報 把握すること
満足・不満足の根本原因 定量調査で低評価となった理由を、具体的な体験談や感情の動きを通じて把握する
競合優位性の源泉 競合製品が「優れている」と評価される背景や、ユーザー体験(UX)の強みを言語化する
購入決定プロセス 認知から検討、購入に至るまでの思考の流れや、意思決定の決め手を探る

 
定性調査で得られる深い洞察は、定量調査結果の検証や具体化、さらには改善施策のアイデア創出に直結する重要な役割を果たします。

 
 

ベンチマーク調査における主な指標

ベンチマーク調査の成果は、何を測定し、何を比較するかによって大きく左右されます。ここでは、主に商品・サービスを消費者視点で比較する際に重要となる主要指標を紹介します。
 
 
認知度・関心度に関する指標
これらの指標は、市場におけるブランドやサービスの「浸透度」と「魅力度」を測定するためのものです。

主要指標 説明
認知度 消費者がブランド名や製品を知っているかを測定(純粋想起・助成想起)
興味度 認知者のうち、製品に対して「もっと知りたい」「魅力的」と感じる人の割合
認知経路 テレビCM、SNS、口コミなど、どのチャネルが認知に寄与しているかを把握
イメージ評価 革新的、信頼性が高い、低価格といったブランドイメージを測り、理想像とのギャップを確認

 
 
利用実態に関する指標
市場での実際の競争力や消費者行動を捉えるうえで必要な指標群です。

主要指標 説明
購入経験 過去に自社・競合製品を購入したことがあるか?
購入頻度 購入経験者がどの程度の頻度で製品を購入しているか?
購入意向 今後、自社または競合製品を購入したいかの意向
再購入意向 一度購入した顧客が、再び同製品を選びたいと思うかどうか?

 
 
満足度・ロイヤルティに関する指標
顧客満足と推奨意向を通じ、長期的な成長可能性を評価します。

主要指標 説明
顧客満足度(CS) 製品全体、機能、価格、サポートなどの総合評価
CSAT
  • CSATは、Customer Satisfaction Scoreの略称で、顧客満足度スコアとも言う
  • 特定の取引や利用体験直後の満足度を測る代表的指標
NPS®
  • NPS®は、Net Promoter Scoreの略称
  • 顧客を推奨者・中立者・批判者に分類し、「このブランドを友人に薦めたいか」でロイヤルティを数値化(−100〜+100)

 
 
これらの指標を競合と比較することで、自社の課題が「認知」なのか、「利用促進」なのか、「ロイヤルティ向上」なのかを明確にし、取り組むべき戦略の優先順位を的確に定められます。
 
 

ベンチマーク調査における主な分析手法

ベンチマーク調査で得られる膨大なデータ(特に定量調査の結果)を戦略的な示唆へと変換するには、目的・サンプル数・データの種類(定量/定性)に応じて、適切な分析手法を選択することが必要です。
この章では、ベンチマーク調査で特に効果の高い多変量解析の代表的手法を中心に解説します。
 
 
コレスポンデンス分析
コレスポンデンス分析は、複数項目の関係性(類似性)を2次元マップ上に可視化する多変量解析手法です。単なるクロス集計や比較グラフだけではとらえにくい複雑なポジションの違いを把握したい場面で効果を発揮します。

活用例


ブランドイメージのポジショニング
自社・競合ブランドと、消費者のイメージワード(例:「高級感」「親しみやすさ」「機能性」など)を同一マップに配置することで、市場内での自社位置づけやターゲット層とのイメージギャップを直感的に理解できます。

キャンペーン効果の分析
施策の実施前後で、ブランドとイメージワードの距離がどう変化したかを比較し、マーケティング施策がイメージ形成に与えた影響を定量的に評価します。

詳しい「コレスポンデンス分析」については、以下コラムで解説させていただいております。
「コレスポンデンス分析とは?活用事例や分析の方法について解説」はこちら>

 
 
クラスター分析
クラスター分析は、互いに似た特徴を持つデータを一つのグループ(クラスター)としてまとめる手法で、データの背後にある構造やパターンを抽出できるという特徴があります。

活用例


顧客セグメンテーション
満足度・利用頻度・重視点など複数項目への回答パターンが似ている顧客をグループ化し、「競合ブランドの熱心なファン」「自社に関心の薄い層」といったセグメントを明確化します。
これにより、各クラスターに最適化したマーケティング戦略を立案することが可能です。

商品・サービスの分類
例えば家電市場において、冷蔵庫・洗濯機・テレビ・掃除機・キッチン家電などのカテゴリーを分類し、売上データや顧客評価を掛け合わせることで、
・どのカテゴリーが強みとなっているか?
・どの領域に経営資源を集中すべきか?
・競合との差がどこで生じているか?
を明確に把握できます。
家電以外の分野についても、化粧品、飲料、金融サービスなど、幅広い業界で同じ手法を応用できます。

詳しい「コレスポンデンス分析」については、以下コラムで解説させていただいております。
「クラスター分析とは?分析の手順や注意点、具体例まで解説」はこちら>

 
 
その他の代表的分析手法
上記の分析手法の他に、属性別の特徴や傾向を把握するクロス集計や、複数の要因が結果(例:満足度、購入意向)に与える影響の強さを分析する回帰分析などがあります。
 
 

ベンチマーク調査の流れ

ベンチマーク調査は、データを集めて比較するだけの活動ではありません。
「目的を明確にする段階」から「戦略的な改善策を実行する段階」までを一つの流れとして設計し、計画的に進めることが大切です。プロセス全体をていねいに設計・管理することで、調査結果の客観性や信頼性が高まり、意思決定への効果も大きく向上します。

この章では、ベンチマーク調査を効果的かつ効率的に進めるために、上流工程から下流工程までの具体的な8つのステップについて、順を追って解説します。

図 ベンチマーク調査の流れ

 

  1. 調査企画を設計
  2. 比較対象(ベンチマーク先)の決定
  3. 調査対象者の決定
  4. 事前準備
  5. 調査実施
  6. 集計や分析
  7. 報告
  8. 戦略策定へ

 
 

①調査企画を設計
ベンチマーク調査の第1ステップは、調査の「核」となる企画をしっかりと設計することです。この段階の質が、その後の調査全体の方向性と成果を大きく左右します。

まず、「なぜベンチマークを行うのか」「どの課題を解決したいのか」を具体的に言語化し、調査目的現状課題を明確にします。例としては、「競合と比べて自社の顧客満足度が低い原因を特定したい」といった目的設定が挙げられます。

次に、その目的を踏まえて仮説を立てます。「顧客満足度が低いのは、競合よりサポート体制が劣っているからではないか?」といった形で、調査で検証すべき仮説を事前に設定しておけば、無計画な情報収集を避けられ、注力すべきポイントを絞り込めます。また、ポイントなのが、仮説は1つだけではなく、複数立案しておくことが重要です。

そして、目的や課題、仮説に基づき、
・調査の最終ゴール(例:競合との差を縮めるための改善施策リストの作成)
・その達成に必要なスケジュール、予算、体制・リソース
を具体的に定義・設定していきます。
これらを丁寧ていねいに設計することで、以降のステップがスムーズに進めやすくなります。
 

②比較対象(ベンチマーク先)の決定
ベンチマーク調査の有効性は、「誰と比較するか」によって大きく左右されます。このステップでは、前のステップで整理した調査目的・課題・仮説に基づいて、比較対象(ベンチマーク先)を慎重に選定します。
比較対象は、大きく次の3タイプに分けられます。

競合ベンチマーキング
自社と同じ市場で競合する企業や、同一セグメントで成功している企業を対象とし、市場シェアや顧客獲得力などの優位性を比較します。
業界内ベストプラクティス
事業領域は異なっていても、ロジスティクスやカスタマーサービスなど、特定の業務プロセスが業界内で高く評価されている企業を選び、そのプロセスの効率性や仕組みを比較します。
ロジスティクスとは、商品・サービスが顧客にとどくまでの一連のプロセス全体を管理、最適化する戦略的な取り組みを言います。
業界外ベストプラクティス
自社とはまったく異なる業界であっても、Webサイトのユーザビリティや請求処理スピードなど、特定の機能で卓越した実績を持つ企業を対象とし、新たな発想や革新的なアイデアのヒントを得ます。

 
ここで重要なのは、単に規模や知名度で選ぶのではなく、自社が目指す目標水準にとって「最適な手本」となり得るかどうかを基準に選定することです。
 

③調査対象者の決定
適切な調査対象者を選ぶことは、ベンチマーク調査の結果の妥当性・信頼性を担保するうえで欠かせません。このステップにおいても調査目的・課題・仮説をふまえて、「誰に意見を聞くべきか」を明確に定義します。
たとえば、「製品のユーザビリティにおける課題を特定したい」という目的であれば、実際に自社製品や競合製品を利用しているユーザーを対象とする必要があります。一方、「営業プロセスの効率性を比較したい」のであれば、競合企業の営業担当者や、そのサービスを利用した法人顧客が調査対象となります。
具体的には以下の要素を設定します。

属性(デモグラフィック):年齢、性別、職業、世帯構成など
行動・価値観(サイコグラフィック):利用頻度、購入動機、重視点など
調査対象者数:定量調査なら必要なアンケートなどに答えていただく人数、定性調査ならインタビュー人数

 
また、自社と競合を適切に比較するには、同質の属性を持つ対象者を揃える必要があります。これにより、データの偏りを防ぎ、調査結果から導かれる示唆の精度を高めることが可能です。
 

④事前準備
調査を実施する前に、データの品質と調査全体の効率を最大化するための準備が必要です。この段階では、設定した調査目的や仮説に基づき、具体的な「調査ツール」を設計・作成します。
調査の種類によって必要なものが異なっていきますので、ここからは、定量調査はアンケート調査を想定し、定性調査はインタビュー調査を想定して、解説をしていきます。
 
アンケート調査を行う場合は、調査票(質問紙)の作成が必要です。質問の順序や設問形式(択一式、評価尺度、自由記述など)、選択肢について、ベンチマーク指標を的確に測定できるよう設計します。
 
インタビュー調査を行う場合は、インタビューフロー(質問項目と進行の流れ)を作成します。ここでは、回答を誘導しないオープンな質問を中心に構成し、調査対象者の深層心理や具体的な利用体験を自然に引き出せるよう工夫します。
加えて、調査対象者のリクルート(候補者の抽出・依頼)、調査会社の選定・契約、録音機器やWeb会議システムなどの必要なツールを準備し、最終的なスケジュールを確定するといった実務面の段取りもこの段階で整え、スムーズに調査実施フェーズへ移行できる状態をつくります。
 

⑤調査実施
事前準備が整ったら、いよいよ設計したプランに基づき、ベンチマーク調査を実施します。

アンケート調査では、パネルなどを通じて、多数の対象者から回答を収集します。この際、データの信頼性を確保するために、回答の完了率や極端なばらつき、不自然な選択パターンなどをリアルタイムでモニタリングし、不適切なデータを排除する品質管理が重要となります。

インタビュー調査においては、モデレーター(聞き手)がインタビューフローに沿って対象者と対話を進め、深層心理や具体的な体験談を引き出します。インタビューでは状況に応じて質問内容を柔軟に掘り下げ、対象者が自然に語れる環境をつくることが、高品質な洞察を得るためのポイントです。

調査期間中は、進捗状況を定期的に確認しながら、必要に応じてリクルート数の調整や軽微な質問内容の修正を行い、計画通りにデータを収集できるよう管理します。

⑥集計や分析
調査の実施が完了したら、収集されたデータをもとに、戦略的な洞察を生み出すための集計・分析フェーズへ移ります。

アンケート調査のデータは、まず単純集計とクロス集計を行います。

単純集計
データ(数値)を一覧表にまとめることで「どのような回答をした人がどのくらいいるのか」を視覚的に分かるようにする集計のこと

クロス集計
単純集計で得た数値に対して、性別・年代などを掛け合わせてその違いを読み取ることができる集計のこと

 

これらを行ったうえで、必要に応じてコレスポンデンス分析、クラスター分析などの多変量解析を用いて統計的に処理します。

加えて、定期的に調査を実施している場合は、今回と過去の結果を比較し、
・競合との差が拡大しているのか縮小しているのか
・自社施策が市場にどのような影響を与えたか
を時系列で把握することが重要です。
 
 
一方、インタビュー調査で得られた発言データは、録音内容を文字起こしして、コーディングやKJ法といった手法を用いて整理します。これにより、共通する意見・潜在的な動機・具体的な利用体験などを抽出し、構造化します。
 
 
このステップの最終的な目的は、「なぜ競合が優位に立っているのか」「自社の弱みはどこにあるのか」といったステップ1で立てた仮説の検証を行い、戦略設計の根拠となる結論を導き出すことです。
 

⑦報告
分析で得られた知見は、経営層や関係部門に対して戦略的な意思決定に活用できる形で伝える必要があります。そのため、このステップでは調査結果を分かりやすく整理し、報告書やプレゼンテーション資料としてまとめます。
報告書を作成する際は、以下の流れで構成することが重要です。

  1. サマリー:調査目的と最重要結論(競合との最大ギャップなど)を簡潔に提示
  2. 調査概要:手法・対象者・期間など、結果の信頼性を示す基礎情報
  3. 詳細分析:仮説検証の結果や主要指標(NPS® 、CSATなど)の競合比較
  4. 戦略的示唆:分析に基づく具体的なアクションプランや改善提案

 
加えて重要なことが2つあります。
まず、経営層だけでなく現場の担当者や主要取引先など、意思決定に関わるステークホルダーが同じ前提で議論できるよう、メッセージや図表の構成を工夫することも重要です。
そして、報告する際には、なるべく多くのステークホルダーに参加していただくことが重要です。つまり、経営層だけではなく、現場の担当者や意思決定に関わる部署の担当者など参加いただくことが望ましいです。
 

⑧戦略策定へ
ベンチマーク調査は、得られた分析結果を具体的な行動と戦略に落とし込み、実行へつなげてこそ発揮されます。そのため、最終ステップでは、明らかになった競合との差分やベストプラクティスをもとに、改善のための実行計画を策定します。

戦略策定には、主に次の要素が含まれます。

目標設定
競合を基準とした具体的な数値目標を再定義します(例:NPS® を〇〇ポイント改善)。

改善アクションの特定
最大のギャップを生んでいる要因に対して、「何を」「誰が」「いつまでに」行うかを明確にしたアクションプランを策定します。(例:サポート体制の強化、特定機能の改善や追加など)

リソース配分
行動計画を実現するために必要な予算や人員、スケジュールを具体的に割り当てます。

 
そして最も重要なのは、この改善プロセスを一度きりではなく、定期的なベンチマーク調査へとつなげ、継続的な改善サイクルとして組み込むことです。そうすることで、ベンチマーク調査は、一時的な分析ではなく、企業競争力を高めるための「仕組み」として定着します。

 
 

ベンチマーク調査を成功させるためのポイント

ベンチマーク調査をデータ収集だけでなく、事業の実質的な改善につなげるためには、以下のポイントを押さえる必要があります。

図 ベンチマーク調査を成功させるためのポイント
図 ベンチマーク調査を成功させるためのポイント

 
目的と仮説を明確にする
最も重要なのは、「何のために調査を行うのか」という目的と課題、そして「何を検証したいのか」という複数の仮説を事前に明確化することです。目的があいまいなまま調査を進めると、収集すべき情報が定まらず、「データはあるが改善策が導けない」という結果になりがちです。

比較対象を多角的に選ぶ
比較対象を直接の競合企業に限定せず、異業種のベストプラクティス企業も含めることで、革新的なプロセスや改善のヒントが得られる可能性が高まります。最も参考になる実例は、必ずしも同業界にあるとは限らないものです。

継続的なプロセスとして組み込む
ベンチマーク調査は単発で終わらせず、市場変化や自社施策の効果を追うための定期的な定点観測として実施することが大切です。これにより、一過性ではなく、持続的な競争優位を生み出すための「仕組み」として定着させられます。

アクションプランに落とし込む
分析で明らかになった問題や課題を報告するだけでは、なかなか具体的アクションにはつながりません。「誰が」「何を」「いつまでに」行うのかを明確にアクションプランへ落とし込むことが重要です。
また、得られた知見は関連部門と共有し、連携したマーケティング施策を実行できる体制を構築しましょう。
 

 
 

まとめ

この記事では、ベンチマーク調査の基本的な定義から、具体的な調査手法、主要な指標、そして戦略への活用方法までを体系的に解説しました。

ベンチマーク調査は、企業を「現状維持」から「戦略的な成長」へと導く羅針盤です。競合との差を埋めるための確かな競争優位性を見出し、顧客の真のニーズに応えることでロイヤルティを大きく向上させ、さらには全社的な改善文化を根づかせることにもつながります。

企業の継続的な成長を実現するために、ぜひベンチマーク調査を積極的に活用していきましょう。

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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マーケティングで良く用いられる「クラスター分析」。言葉は聞いたことがあるけど、難しくて内容が良くわからないという方が多いのではないでしょうか。
クラスター分析はデータを統計・分析する数学的手法のため、その解説には数学用語がたくさんでてきます。これは数学になじみがない人にとっては外国語も同然。数学用語を見ただけで、「私には無理…」と感じてしまうでしょう。
ですが、クラスター分析はマーケティングにおいて、とても優れた分析手法です。この分析手法をうまく活用できれば、今まで単なる数字の集まりだったデータから、貴重なマーケティング情報を手に入れられるようになります。

そこで今回の記事では、初めての方でも理解できることを目指して、できるだけ難しい言葉を使わずクラスター分析の優れた点を分かりやすく解説します。

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【目的別】定量調査-虎の巻セット

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『ブランド認知』『コンセプト』『パッケージ』『顧客満足度』—マーケティングリサーチにおける代表的な4つの調査と、分析の元となる『アンケート集計』について、実務で役立つ以下の情報を網羅的に掲載した【虎の巻】を全て一括でダウンロードいただけます。
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【アンケート集計】虎の巻

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アンケートの結果を分析する際に、どのような集計をする必要があるのか迷ったことはありませんか。本資料では、『単純集計』や『クロス集計』について、網羅的に基礎知識~集計方法、『ウエイトバック集計』などを解説しています。この資料1つでマルっと『集計』についてわかる内容となっておりますので、集計時に欠かせない参考資料として、ぜひアンケート調査の成功へお役立てください。

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「分析・設計の前提」が分かる正しいデータの見方とは

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