公開日:2025.04.17

訪問調査(ホームビジット)とは?メリットや事例、注意点、流れなど紹介

  • 定性調査

対象者のリアルな生活から、無意識な行動の背景にあるインサイトを抽出

対象者のリアルな生活様式を垣間見て、「なぜ」を探ることができる訪問調査は、無意識な行動の背景にあるインサイトの抽出に大変優位性がある調査手法です。

 
 

訪問調査(ホームビジット)とは

訪問調査とは、生活者の自宅へ調査員が伺い実施するアンケート調査のことを指します。本記事では「マーケティングリサーチ」における「訪問調査」について解説します。(※要介護認定のため市町村が被介護者の自宅へ訪問することを意味する訪問調査については、取り扱いません。)
 
マーケティングリサーチ領域における訪問調査は、世論調査を目的として生活者の自宅訪問により量的回答を得る定量調査と、生活者の行動を観察し掘り下げることへ焦点を当てた定性調査の2種類があります。更に、定量調査は下図の通り「訪問留置調査」と「訪問面接調査」の2タイプに分けられます。

図 訪問調査(ホームビジット)とは
図 訪問調査(ホームビジット)とは

 
しかしながら量的な訪問調査の実施は、個人情報保護の観点やインターネットの大幅な普及により敬遠されつつあり、現在は後者の定性的な訪問観察調査が一般的です。本記事では、以降「訪問観察調査」のことを「訪問調査」とし、解説していきます。
 
 

訪問調査のメリットとデメリット

訪問調査は、他の調査手法に比べ得られる成果や気付きが多く、応じてオペレーションを綿密に組む必要があります。理由をメリット、デメリットと共に解説します。
 

訪問調査ならではの最大の魅力は、対象者の生活様式を実際に観察することにより、精度の高いエスノグラフィ調査を行える点です。訪問調査は調査側が対象者の自宅や職場まで出向きインタビューを行います。事前に対象者の許諾さえ取れていれば、対象者宅のキッチンやリビング、寝室など、プライベートシーンにかかわる領域において、ヒアリングしながら観察を行うことができます。
 
また普段の生活行動を直接視ることもできます。調理や掃除の動線観察や衣類の収納術まで考察することができるため、写真データなどでは図れない生活スタイルの示唆を得ることもできます。また、これらの観点により海外の調査元が日本の生活実態を知りたいときにも、訪問調査は非常に有効であり、近年需要が増えています。
 

ネガティブポイントとしては対象者の調査への参加同意(許諾)が得られにくい点が挙げられます。訪問調査は通常インタビュアー(モデレーター)、アテンドスタッフ(調査員)、調査元、など複数のスタッフで参加するため、総勢3-5名程度。かつ、前述の通り海外の調査元も参加するケースもあるため、対象者の了承を得難い部分が難点です。そのため、ストリートキャッチ※1では参加合意に至りづらく、対象者の獲得は難しいです。
 
プレリクルート※2を行い、webアンケートによる対象者呼集などに適した調査形態です。また、事前の行程準備や前後の対象者とのスケジュール調整に手間がかかりますので、対象者選定を見誤った場合、コストや時間に見合った価値を得られないリスクが生じます。調査として得られるメリットが多い反面、こうしたデメリットがあることも念頭に置き、綿密な準備計画を行いましょう。
上記の通りメリット/デメリット両面から、訪問調査は手間がかかる分、得られるものも大きいという特徴を持ち合わせる、魅力的で興味深い調査といえます。
※1 街頭で調査対象者を募る方法
※2 事前に許諾を得た対象者に、調査協力を依頼する方法
 
 

訪問調査と会場インタビュー(デプスインタビュー)との違い

では、訪問調査と他の調査手法はどのように使い分ければよいのでしょうか?単純にインタビューを「自宅で行う」ことだけが特徴でしょうか?
例えば、同じ個人に対して行う「デプスインタビュー(個別インタビュー)」の特徴と比較してみましょう。

表 訪問調査とデプスインタビューの違い
調査概要 訪問調査 デプスインタビュー
適したテーマ 家事(炊事、洗濯、掃除)や生活に密着した実態を視ながらヒアリングすべき課題に強い 保険や不動産、金融資産や、病気、身体的不調など、他者に口外しづらいセンシティブなテーマに強い
所要時間/
謝礼額相場
60-120分/12,000-18,000円 前後 ※一例 45-90分/8,000-12,000円 前後 ※一例
1日あたりの
調査可能人数
最大3名程度 ※一例 最大4-6名程度 ※一例
メリット ・対象者の生活実態を視認し、示唆が得られる
・発言で得られなかった気付きを掘り下げることができる
・予備調査や発言では図れない生活環境理解ができる
・普段の家事の再現等、自宅(職場)ならではの理解ができる
・調査会場において、かつ1人に対して実施できるため
あらゆるバイアスが排除できる
・1人に対し質問を掘り下げられるため(ラダリング)
ジャーニーマップなどの作成に有効
・会場設備を用いた実機の準備等によりUIUX調査が可能
デメリット ・当日の天気や交通機関の状況に調査側が左右されやすい
・対象者の協力率が劣る
・当日の天気や交通機関の状況に対象者側が左右されやすい
・対象者の発言は記憶頼りとなるため、人により信ぴょう性に欠ける
共通点 ・1人に対しかかる調査コストが高く、また所要スケジュールが長くかかる
・地理的要因で調査ができるモニターが限定される
・グループダイナミクスの分析ではなく個々の分析によるサマリー作成が必要であり、アウトプット作業に時間がかかる
・調査目的に合った対象者でない場合、調査の質が下がる(リクルート要件の難易度が高い)

 
所要時間やサンプル数はあくまで一例ですが、特に調査テーマにおいては調査手法相互におけるカラーが分かれます。また、いずれも一名を対象とする調査とはいえ、調査を行う会場や環境に応じて対象者から得られる気付きは異なります。
訪問調査の最大の特徴は対象者の生活実態と実際に接触できる点です。調査手法毎の利点を上手く活用し、テーマと目的や課題に応じて使い分けましょう。

 
 

訪問調査の事例

本人が無意識に取る行動の観察にも価値がある
前述の通り、訪問調査は生活者に寄り添うべき調査テーマと、相性が良い性質にあります。

例えば、過去に「独身男性の洗濯実態」について訪問調査を行いました。
 
本調査では実際に対象者の自宅にて、洗濯~干すまでの日常の一連動作を行っていただき観察・インタビューを行っています。
実際に日常使いする洗濯環境において、どこに洗濯洗剤を収納しどのようなモードを選択し、どこに干すのか、このようなリアルな実態観察ができる点は自宅訪問の強みです。
また、本人が無意識に取る行動の観察にも価値があるため、顧客の潜在ニーズの仮説を掴めます。(≒エスノグラフィ)

「子育て主婦の電子レンジ利用実態」といった調査実績においては、ホームユーステスト目的も兼ねて実施しています。
テスト品である電子レンジを自宅調理に試用する様子を観察し、ユーザビリティの掘り下げによりテスト品自体の評価も取りつつ、電子レンジ調理の実態把握へ役立てています。
 
 
このようにインタビューの発言で得られる発見以上に、慣れた環境下で日常生活を再現してもらう中で、都度気付きを得てインサイトを掘り下げられる点が訪問調査最大の強みです。

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    今回は実際に調査モニターが保有する”自家用車”にフォーカスを当て、日常使いしている自家用車内について、車内での過ごし方や気分~内装~お気に入りのカーアクセサリーの使われ方までを、カメラが潜入して調査!

 
 

アスマークの訪問調査

訪問調査は一般的に他人を生活圏内に招き入れる必要がある分、対象者リクルートのハードルが高いといえます。
 
アスマークでは業界屈指であるモニターリクルート実績を活かし、調査形態による対象者クオリティのムラが生じないよう、質の担保と向上に努めています。参加者側・調査側、両者において有意義な調査ができるよう、アスマークでは対象者自身の不安や懸念は事前に解消し、万全なサポートを行います。また多数のパートナーの中から、訪問調査テーマに即した最適なモデレーターのアサインや、経験豊富な調査員のアテンド同行など、コミュニケーションを活かしたフレキシブルな訪問調査のアレンジメントが可能です。
 
対象者の自宅ではその日初めて見つける発見が多数あります。その場でつぶさにプローブできるよう、『追加インタビュー』や『動画・写真で記録に収める』など、アスマークでは当日の対象者環境に応じた、臨機応変な検証とアウトプットの姿勢で調査を実現しています。

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アスマークでは、エスノグラフィ調査(訪問観察調査)のサービスを提供しております。この調査は、生活者の行動を「見る」「観察する」ことに重きを置く『定性調査』です。

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訪問調査の流れ

訪問調査は各種ある調査の中でも接触する情報が多いため、センシティブに組み立てる必要があります。下図の大枠フローを追って、訪問調査をイメージしてみましょう。

図 訪問調査の流れ
図 訪問調査の流れ

 

  1. 調査設計
    ・調査目的・調査課題の整理
    ・対象者条件・割付の設計
    ・サンプル数・スケジュールの調整
    ・スクリーナー(予備調査票)作成
  2. 対象者リクルート
    ・スクリーニング(予備)画面作成
    ・対象者の選定
    ・条件確認架電
    ・行程スケジュール設定
  3. 準備
    ・インタビューフロー(ガイド)設計・作成
    ・マテリアル準備(提示素材)
    ・機材準備(ビデオカメラ・三脚・ICレコーダー等)
    ・訪問準備(行程表作成・スリッパ・謝礼等)
    ・当日シミュレーション(移動方法等)
  4. 実査
    ・対象者自宅へ移動
    ・インタビュー
    ・謝礼進呈
    ・デブリーフィング(ラップアップ)
  5. アウトプット
    ・発言録(速記録)作成
    ・写真や動画の集約
    ・成果物作成 ※後述
    ・調査目的の達成・活用

 
上記は一般的な調査の流れとなりますが、フェーズ毎に留意すべきポイントも抑えましょう。
 
例えば、もし1日に数軒を経由するのであれば、次の対象者の実査時間との間隔に余裕を持った行程スケジュールを組みましょう。実査当日の工程における「デブリーフィング(ラップアップ)」は、各対象者のインタビュー終了時に毎回時間を設けて実施することをおすすめします。関係者同士で記憶が鮮やかな内に対象者の気付きを共有し、各対象者をソートし要約することで、アウトプットの工程がスムーズに進められます。
 
また、訪問調査の場合においても、近年はデバイスを用いた対象者のUI/UX調査の実施が増加傾向です。もしPCやスマホを用いるのであれば、充電の確認やWi-Fiの準備、電源の確保など、当日は調査に集中できるよう、万全にシュミレーションしておきましょう。
 
 

訪問調査の成果物・納品物

調査目的に応じ納品サンプルは異なりますが、訪問調査では下記のような成果物を得ることが可能です。

表 訪問調査で得られる成果物
成果物 概要
事前~事後
アンケート・課題
対象者リクルート時に許諾を得て、インタビュー時間外においてアンケートや課題による対象者の付帯情報として情報を得る。紙のアンケートはもちろん、動画や写真の事前/事後回収も、デバイスの普及に応じて協力が得れるようになってきた。
生活実態の
動画や写真
冷蔵庫やクローゼット、その他対象者自宅内における収納庫など、字面で再現しづらい箇所はビジュアルでの補完が有効。事前に必ず許諾を取り、かつ必要な部分はマスキング(目隠し)を掛け慎重に取り扱う。
発言録(速記録) 訪問調査の場合、書記の同席はレアケースであり基本的に音声起こしで作成。ICレコーダーを準備し音声取得の許諾を得て記録する。音声起こしは時間がかかるため(平均2日間前後)余裕を持った全体スケジュールの想定が求められる。
レポート(報告書) 代表的なサマリーレポート一例
・個票~カスタマージャーニーマップ
・エグゼクティブサマリー
・ペルソナ作成

 
自宅内の情報をアウトプットするためマスキング(目隠し)を施すことや、発言録(速記録)については、音声起こしで作成するケースが大半なため、全体的に各工程において余裕を持ったスケジュール設定が必要です。
 
 

訪問調査の注意点

訪問調査は、現地での観察や対話を通じて生活者のリアルな姿を捉える手法ですが、その分、実施には丁寧な準備と高い配慮が求められます。ここでは、調査を成功に導くために特に押さえておきたい2つの視点をご紹介します。
 

  1. 訪問前の準備が、調査の質を左右する
    大前提、調査の目的や質問内容を整理するのは重要かつ必須事項です。それ以外の部分で、訪問先の対象者と信頼関係を築くためのスキルや経験も重要です。たとえば、訪問前に簡単なご挨拶や実施意図を伝えるだけでも、対象者の協力姿勢はぐっと高まります。
    加えて、現場で対応する調査員には、臨機応変に動ける力が求められます。決まった質問をこなすだけでなく、相手の反応を見ながら言葉を選び、状況に応じて対応を微調整する判断力も必要です。
    また、調査場所の地域性や生活文化をあらかじめ把握しておくこともポイントです。例えば、訪問時間帯への配慮や、家の中に上がるときのマナーなど、些細な違和感が調査への協力度を左右することもあります。
  2. プライバシーへの配慮と情報管理を徹底する
    訪問調査では、対象者の自宅や生活空間に立ち入るため、日常の中にあるプライベートな情報と直接向き合う機会が多くなります。だからこそ、調査を行う側には高い倫理意識と情報管理が求められます。
    収集したデータの取り扱いは、細心の注意を払います。社内での保管体制やアクセス権限の管理、保存期間や廃棄方法までを含めたルールを整備しておくことが、信頼性のある調査運営に直結します。
    調査対象者のプライバシーを守るという姿勢は、単に義務を果たすだけでなく、良好な関係を築き、より率直で正確な回答を引き出すための『信頼の土台』にもなります。こういった積み重ねが訪問調査の成功へとつながっていきます。

 
 
このように、「事前の準備」と「プライバシーへの配慮と情報管理」が、訪問調査を円滑に進めるためのカギになります。現場での『細やかな配慮』が、調査結果の信頼性を高める近道といえるでしょう。
 
 

まとめ

訪問調査はデプスインタビューと似て、ペルソナの構築~カスタマージャーニーマップの作成に有効です。しかし、「自宅」という生活に最も密接した空間に入り込み、対象者一人一人のウォンツをヒアリングしながら、深く丁寧に掘り下げるにあたり、本質的ニーズの発見に辿り着き、デプスインタビューよりも精度の高いアウトプットを行うことができます。
 
インタビュー発言や回収した動画や画像だけでは図れない、「生活者の環境実態」が調査課題であるケースで是非活用してみましょう。
 
訪問調査(ホームビジット)についてのご相談はこちら>
 

執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク 営業部 マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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