公開日:2025.07.09

カークリニックとは?調査方法や活用シーン、できることを解説

  • マーケティングリサーチHowto

新製品開発、特に自動車のような大型製品において、ユーザーの「生の声」をいかにして正確に収集し、開発に活かすかは、プロジェクトの成否を分ける重要な鍵となります。しかし、開発段階の試作品やモックアップに対するリアルな評価を、情報漏洩のリスクを抑えながら得ることは容易ではありません。

こうした課題を解決する手法として注目されているのが、実物やモックを競合製品と並べて評価してもらう「カークリニック調査」です。クローズドな環境でターゲットユーザーに製品を直接評価してもらうことで、アンケートだけでは見えてこない深層心理や、客観的な優位性・劣位性を明らかにすることができます。

この記事では、自動車開発の精度を高める「カークリニック」について、その基本から目的、具体的な手法、流れまでを解説します。

 
 

カークリニックとは?

カークリニックとは、新車開発や商品改良のために行われる会場調査の1つです。自動車クリニックやカークリニック市場調査、カークリニック調査などとも呼ばれます。

この調査は、試作段階の外観を確認する「クレイモック」や、実際に着座可能な「内装モック」などを、ベンチマークとなる競合他車と並べて会場内に展示するなどし、ターゲットとなるユーザーに実機を直接評価してもらうのが特徴です。

Tips:会場調査とは
会場調査(CLT:Central Location Test)とは、あらかじめ用意した会場に調査モニターを案内し、製品や広告などに対してアンケートで評価を聴取する定量調査です。

「競合商品との比較評価」「コンセプト評価」「パッケージ評価(デザイン評価)」「テイストテスト(試飲・試食)」などを目的として実施されます。「食べてもらいたい」「飲んでもらいたい」「見てもらいたい」「触ってもらいたい」「香りを嗅いでもらいたい」といった際に、調査対象者のリアルな反応をその場で確認できるため、気になる反応を示す調査対象者へは、その理由をリアルタイムでヒアリングすることができます。
また、全員に対して同一環境下で調査を行なうことができるため、アンケートを回答する際の外部環境による影響(バイアス)をなくすことができ、精度の高い評価データを集めることができます。そのため、均一の保存状態/加工状態でテストできる飲食物や、心理バイアスを揃えることができる広告・パッケージなど、同一環境で評価する必要がある対象物の際に多く用いられます。

当社の会場調査(CLT)について
会場調査(CLT)はこちら>
会場調査(CLT)の費用はこちら>

 
 

カークリニックの調査目的:なぜ実施するのか?

カークリニックは、主に下表のような目的で実施されます。

表 カークリニックの調査目的
目的 解説
新開発モデルの受容性評価 市場に投入する前の新型車が、ターゲットユーザーに受け入れられるかを確認します。
競合車との比較評価 自社の車が競合製品に対してどの点で優れ、どの点で劣っているのかを客観的に把握します。(ベンチマーキング)
改良ポイントの抽出 モデルチェンジやマイナーチェンジの際に、どの部分を改良すべきかの具体的な指針を得ます。
価格設定の妥当性検証 デザインや性能、装備などから、ユーザーが感じる価値を測定し、適切な価格設定の参考にします。

 
ユーザーのリアルな声を開発の初期段階で取り入れることで、メーカー目線のみの製品開発を防ぎ、市場投入後の失敗リスクを最小限に抑えることが最大の狙いです。
 
 

カークリニックの活用シーン

カークリニックは、自動車開発の様々なフェーズでその価値を発揮します。少々、前章と類似する部分ありますが、よりイメージしやすくなると思いますので、具体的な活用シーンを下表、用意しました。

表 カークリニックの活用シーン
活用シーン 解説
フルモデルチェンジ前のコンセプト評価 開発の初期段階で、複数のデザイン案やコンセプトモデルを提示し、ターゲット層に最も響く方向性を見極めます。「先進性」を追求すべきか、「親しみやすさ」を重視すべきかといった、開発の根幹に関わる意思決定に活用されます。
マイナーチェンジ・一部改良点の探索 現行モデルのユーザーを集め、「どこに満足し、どこに不満を感じているか」を深掘りします。これにより、ピンポイントで顧客満足度を高める改良点(例:収納の追加、スイッチの配置変更など)を発見できます。
新規市場・セグメント参入時の戦略立案 これまで参入していなかった国や地域、あるいは新しい車両セグメント(例:コンパクトSUV市場への新規参入)で調査を実施。その市場のユーザーが車に求める独自の価値観や、現地での有力な競合車の実力を把握し、成功確率を高めます。
ブランドイメージの定点観測 自社および競合の最新モデルを並べ、各ブランドがユーザーにどのようなイメージ(例:高級、スポーティ、信頼性が高い)を持たれているかを調査します。これは、長期的なブランド戦略を構築する上で重要なデータとなります。

 
 

カークリニックでできること

カークリニックでは、車両を多角的な視点から評価します。単なるアンケートの「はい/いいえ」だけでなく、インタビューも組み合わせることで「なぜそう感じるのか」という深層心理まで探ることも可能です。

表 カークリニックでできること
評価カテゴリ 主な調査項目
デザイン評価 ・第一印象(好き嫌い、先進性、高級感など)
・各パーツ(フロントグリル、ライト、ホイール等)のデザイン
・カラーバリエーションの受容性
機能性・操作性評価 ・乗降性、運転席からの視界
・ナビやスイッチ類の操作性(UI/UX)
・シートアレンジや荷室の使い勝手(ユーティリティ)
知覚品質評価 ・内外装の素材の質感(触り心地、見た目)
・チリ合わせ(部品と部品の隙間調整)の精度
・ドアの開閉音、スイッチの操作感(フィーリング)
購入意向・価格評価 ・「この車をいくらなら買いますか?」(価格受容性)
・購入したいと思うか、その理由
・どのグレードやオプションに魅力を感じるか

 

 
 

カークリニック実施の流れ

カークリニックは、繰り返しになりますが、一般的に会場調査と呼ばれる形式で実施されます。

調査の流れ

  1. 調査企画・設計
    目的を明確にし、仮説決定、調査対象者、評価項目、スケジュールなどを設計します。
  2. 会場・車両の手配
    守秘性が高く、複数の車両を展示・試乗できる広さの会場(イベントホールやテストコースなど)と、調査対象となる自社車両・競合車両を準備します。
  3. 対象者のリクルーティング
    年齢、性別、居住地、現在の所有車種、ライフスタイルといった条件で、調査協力者を募集します。このリクルーティングの精度が、調査の質を大きく左右します。
  4. 実査(調査当日)
    会場に対象者を集め、実車を評価してもらいます。評価はアンケートやインタビュー形式で収集します。
  5. 集計・分析
    回収したデータを集計し、定量・定性の両面から分析を行います。
  6. レポーティング
    分析結果を報告書にまとめ、開発チームや経営層にフィードバックします。

 

 
 

まとめ

本記事では、自動車関係の開発に欠かせないカークリニックについて、その目的から具体的な手法、活用シーン、流れまでを解説しました。

クローズドな環境で、実物やモックアップを競合製品と比較しながら評価してもらうカークリニックは、ただのアンケート調査だけでは得られない、ユーザーのリアルな本音や無意識のインサイトを引き出す上で非常に有効です。

開発の初期段階でユーザーの「生の声」を正確に捉え、製品に反映させることが、市場に受け入れられるヒット商品を生み出すための最も確実な道筋と言えるでしょう。
製品開発における意思決定の精度を高めるためにも、カークリニックを行っていきましょう。

会場調査についてのご相談はこちら>
 

執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

アスマークの編集ポリシー
 

失敗しない会場調査 6 つのポイント

失敗しない会場調査 6 つのポイント

アスマークの会場調査専門の実査責任者が、これまで数多くの会場調査に携わってきた中で得た経験・知見をまとめた11ページのレポートです。
全ての対象者に同条件下で製品の試飲・試食調査ができ、また秘匿性高い提示物を厳重に管理できる「会場調査(CLT)」について、実施のポイントや実務の注意点をまとめています。

> 詳しく見る

 

マイカー購入を経験した共働きママにインタビュー~家庭での「大きな買い物」の意思決定~

マイカー購入を経験した共働きママにインタビュー~家庭での「大きな買い物」の意思決定~

マイカー購入、子どもの教育費、資産運用など、家庭における「大きな買い物」の意思決定は、それぞれの家庭のライフスタイルによって大きく異なります。
特に夫婦間での役割分担や、家族構成の変化は、意思決定プロセスにどのような影響を与えるのでしょうか。

そこで今回は、実際にマイカー購入を経験した共働きママにインタビューを実施しました。

下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
● 子育て世帯の消費行動に興味がある方
● 家庭内の意思決定における夫婦の役割分担について知りたい方
● 新規顧客獲得や既存顧客との関係強化のためのヒントを得たい方

> 詳しく見る

 

会場調査(CLT)

会場調査(CLT)

会場調査(CLT)とは、あらかじめ用意した会場で、調査対象者から、製品、または広告等についての評価を聴取し、定量的にデータとして収集する手法です。
対象者が実際に製品や対象物に触れることで、よりリアルな評価を得られることができ、比較的短期間に、定量的に把握することができます。具体的には、試飲・試食を伴う調査や発売前のパッケージ調査など、実際に対象者に「食べてもらいたい・飲んでもらいたい」「見てもらいたい」「触ってもらいたい」場合に向いています。簡単なアンケートやインタビューを同時に行うことが多いです。

> 詳しく見る

 

会場調査(CLT)の費用

会場調査(CLT)の費用

会場調査(CLT)の費用について、基本料金やリクルート料金、オプション料金、料金例などご紹介します。

試飲や飲食、CPテスト、ユーザビリティテスト、CM評価など多様なニーズに対応。企画設計から報告書までのトータルサポートでご好評いただいております!

> 詳しく見る

 

会場調査(CLT)とは|定義・調査の流れ・メリット・成功のポイントを紹介

会場調査(CLT)とは|定義・調査の流れ・メリット・成功のポイントを紹介

現代マーケティングにおいて商品や広告に対する高い評価を得るには、事前に消費者の反応を調査して、そのフィードバックを活かすことが効果的です。そのための有効な調査手法として用いられているのが、「会場調査(CLT)」です。

この記事では、会場調査の定義や調査の流れ、メリット、成功のポイントについて解説します。

> 詳しく見る

 

「子ども・住居・車」スペシャルパネル集計表

「子ども・住居・車」スペシャルパネル集計表

アスマークが保有する「子ども・住居・車」に関する特別パネルの属性情報をまとめています。

主に以下のパネルデータをご覧いただけます。※一例
【子ども】・・・同居している子供の「学齢」「性別」など
【住居】・・・「ハウスメーカー」「リフォーム時期」「購入予定」など
【車】・・・「車の運転頻度」「保有している車のメーカー・車種」など

下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● 「子ども・住居・車」に関する調査を検討している
● アスマークが保有するスペシャルパネルの情報が知りたい
● 特定テーマにおいて集められる対象者属性・数を確認したい

> 詳しく見る