公開日:2025.10.07

自社顧客の理解を深めるための定性調査とは?購買プロセスや競合企業のベンチマークなどについて解説

  • マーケティングリサーチHowto

自社の顧客を理解しようとするとき、ご友人や知人にインタビューして、その結果をユーザー像として置いていないでしょうか?
また、自社商品ユーザーと競合商品ユーザーといった具合に、対立構造で分析をしようとしていないでしょうか?

これらを行うと、間違った顧客理解をしてしまう可能性があります。

まず、顧客を理解しようとするときには、生活者は複数の選択肢を行き来し、時にA社を選び、別の日にはB社を選んだりしており、顧客は必ずしも自社商品だけを購入するのではなく、「競合商品が提供している価値=ベネフィット」を横断的に享受している存在だという前提に立つ必要があります。
ここで重要になるのが、“競合企業をベンチマークする”という視点です。単に「ライバル企業の同行を確認する」ことが目的ではありません。

生活者は何と何を比べて、自社商品を選んでいるのか?
競合が提供している価値は何で、それがどのような文脈で支持されているのか?
これらを一つずつ解き明かすことで、顧客理解は一気に立体化していきます。

本コラムでは、競合企業のベンチマークの方法から、購買プロセスからユーザー理解を深める方法、さらには消費者特性のつかみ方まで、ご紹介していきます。

 
 

競合企業をベンチマークしよう

自社顧客の理解をするにあたり、「同カテゴリーでの売上やターゲット層でベンチマークしている競合企業はどこなのか?」これをしっかり整理することが重要です。

整理することで、比べることができるようになります。
具体的には、A社という企業をベンチマークしたことにより、「A社の商品と自社商品を生活者はどこを比べて、選んでいるんだろう?」「A社が提供している価値と自社が提供している価値は、どこが違うんだろう?」などを一つ一つ解き明かしていくことができ、市場の理解が進みます。

また、もしベンチマークしている企業がないときは、生活者にとって自社商品が何と比べているかを整理することで、競合企業が分かる場合があるので、おすすめです。
そして、ベンチマーク、つまり基準となるような競合企業を設定していきましょう。

ベンチマークした競合企業の商品

競合企業をベンチマークしたら、その企業の商品がユーザーからどんなふうに評価されているのかを把握していきましょう。
例えば、「価格、機能、買いやすさ」など、どの要素が競合商品の購入決定要因になっているかを調査し、分析していきましょう。そうすることで、“打ち手”というところにも繋がりやすくなります。

また、こういった分析をするときのフレームワークとして、4Pもおすすめです。
4Pは、マーケティング戦略の基盤をなす代表的なフレームワークで、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の4つの視点から成り立っています。
例えば、流通(Place)の視点に立つと、「競合他社はどういった流通戦略で製品をお客様に届けているか?」を調べる必要があり、「なぜ買いやすいのか?」といったことも明らかになってきたりします。

 
 

競合ユーザー

ここで、競合ユーザーという言葉を敢えてあえて使いますが、この競合ユーザーという考え方が重要です。
競合“の”ユーザーというと、「競合商品を利用しているユーザー」と思うと思いますが、競合ユーザーは違います
競合ユーザーは、競合商品を提供するベネフィットを享受きょうじゅするユーザーとのことを言います。
つまり、A組、B組、C組といった形に分類しているわけではないということです。競合商品を使っているかといって、必ずしも競合商品を使っていないかというと、そうではないかと思います。
シャンプーひとつとっても、普段はAシャンプーを使っているが、気分を上げたい日はBシャンプー、髪が傷んだ日はCシャンプーといった具合に、複数使っている人もいるでしょう。
そのため、単に「競合商品を利用しているユーザー」と捉えず、「競合商品を提供するベネフィットを享受するユーザー」と捉えることで、視野が広がるため、重要なのです。

ここで理解したいのは、以下についてです。

  • 競合商品が本質的に提供している価値が何のか?
  • その提供価値が利用者にとって、どのように役立っているのか?

 
これらの理解を深めるには、購入前の期待値と購入後の満足度といったところを調査し、把握するのがオススメです。

 
 

購買プロセスからユーザー理解を深める

この章では、ユーザーの購買行動から、より深くユーザー理解を深めていく話をしていきます。

ユーザーが自社商品を購入するまでに、どんなプロセスを経たのかを理解することは非常に重要です。
例えば、下図のような簡単な購買プロセスを見ていきましょう。

図 簡単な購買プロセス
図 簡単な購買プロセス

 
左から、きっかけ→調査→検討→購入→…と続く購買プロセスとなり、そのポイント、ポイントで深掘りをしてことが大切です。
まず、「きっかけ」において、購入するまでに至った「きっかけ」は何だったのか? DMだったのか? 友人からの紹介だったのか?…

次に、「調査」。ネットで調べたのか? SNSで調べたのか?最近ですと、「Amazonで検索して調べた。そういった商品についてはGoogle検索を基本しません」といった話もあったりしますので、以下のようなポイントを押さえることが重要です。

  • 何が知りたい?
  • どこで調べた?
  • 何を調べた?

 
例えば、化粧水であれば、「保湿成分がどう?」や「テクスチャーは柔らかいのか?硬いのか?」、「香りはどうなのか?」、「ニキビ対策はできるのか?」など、何が知りたくて、その行動をとっているのか? というところを把握していきましょう。

続いて、「検討」。どういったポイントで検討をしたのか?
例えば、他商品と比較検討をしたのか? デザインを重視したのか? 費用を気にしたのか? など、どういったポイントで検討をしたのか押さえていきます。

最後に、「購入」。どうやって購入したのか? すぐ購入したのか? どういったポイントで購入することがを決めたか? などを押さえていきます。

これらを先ほどの図に軽くコメントを入れた図が下図です。

図 簡単な購買プロセス+コメント
図 簡単な購買プロセス+コメント

 
こういった形で、それぞれのポイントでユーザーの情報をイメージできるようにすることが求められます。
そのため、行動の背景に、どんな心理が隠されているのかを押さえていく必要があるため、定性調査であるインタビューがおすすめになってきます。
また、インタビューを実施する場合には、モデレーターに、「こういうことを聞きたい」と、インタビューフローに落としていくことが重要です。
「まず何で調べているのか?」→「Amazonで調べています」や「Googleで調べています」といった行動面だけではなく、「口コミが見たいからです」や「口コミでマイナス要素を見て、これは自分にとって違うかな? といったことで参考したい」など、そういった部分まで逐一追っていく必要があり、そうすることで、そのユーザーを理解することにつながっていきます。
ここで1つポイントなのが、『ユーザー(対象者)の行動や気持ちに共感できなくても良い』ということです。
例えば、自動車に対して「大好き」という人ではない人が、「便利だから」という理由で、買っている人がいたとき、「なんで好きじゃないんだ!」などと感じず、ユーザーがどういう行動をして、どんな気持ちなのか? というのを理解していくことが大切ということです。つまり、「共感すること」は目的ではありません

 

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自社製品固有の消費者特性のつかみ方

この章では、自社製品固有の消費者特性のつかみ方について話をしていきます。

思い込みを外すこと
まず、そのつかみ方として、一番難しいところかもしれないのですが、『思い込みを外すこと』、これがスタートです。

色んなメーカーの担当者様とお話をすると、「うちの商品を買ってくれる人は、○○を求めていて、○○という価値観に共感しているから、○○というシーンで自社商品を利用してくれているんだよね」といった内容をお話いただけることがあります。そして、さらにお話を伺っていくと、ご担当者様のご友人に色々尋ねた結果から、その内容がわかった、と言う話もあったりします。つまりは、自社で調査されているパターンです。
ここで注意したい点として、『自分の周りの人は、自分に近しい属性の人』という可能性がある点です。

例えば、食品会社に勤めていらっしゃる方が、「自分の知り合いにちょっと聞いてみたんだよ」としたときに、その人に聞いたこと自体は良いのですが、その人も食品会社の人で、プロフェッショナルのレベルで詳しい。どういう作り方があって、どういう製法で、どういうふうな成分が入っていて…といった具合で。
そして、こういった場合に注意が必要なのです。
一般の人となると、残念ながらそこまで知らない、興味がない、といった部分があり、「○○ということを求めていて」といったことを言語化できる人、論理的に説明できる人はほぼいないと考えられます。
そのため、もしご友人や知人といったご自身に近しい人に尋ねた場合は、『自分の属性に近い人たちで調査している可能性がある』といったことを必ず認識した上で、その情報を取り扱う必要があります。そうしない場合、単なる『思い込み』のイメージ像となり、それは実際の市場との乖離を生んでしまう可能性があり、非常に危険です。ご自身に近しい人に尋ねた場合は、仮説として置いておき、それが本当に一般の人たちにも当てはまるのか? といったところを調査することがオススメです。

次に、『自社ユーザーは競合ユーザーに比べて、若い』といった単純化したユーザー像も注意が必要です。
具体的には、「自社ユーザーのコンセプトやペルソナが「若め」の設定であり、ブランディングも若い人向けに押し出しているから」という理由から、上記のようなユーザー像としている場合は注意が必要です。
もしそういった場合であれば、「商品を実際に買っている人が若い」というデータから見て判断しましょう。また、データを見るときも、人口構成比的に考えて、年配の人が多い中で、20代の割合が多いのか? というとこも気を付けなくてはいけません。意外とこういったことを織り込まずに、自社内のデータだけ見て、「20代の割合が多いから『若い人』がユーザー像だ」となってしまっているケースがありますので、合わせて注意しましょう。
 
 
自社顧客として見るのではなく、まずは生活者として捉える
続いて、自社製品固有の消費者特性のつかみ方のポイントとして、『自社顧客として見るのではなく、まずは生活者として捉える』ことがポイントになってきます。

例えば、大きな企業で、年に何十件何百件と、調査をされている企業があったりするのですが、そうすると調査をたくさんすることによって、自社商品を使っている人と競合商品を使っている人の違いが「あんまりない」という情報が見えてきたりします。確かに、市場が成熟していくと、同質化のようなことが進み、たとえ自社商品が先発で出して、独自性があったとしても、他の企業がその商品を模倣して、後発の商品が出てきたりして、スペックという部分では、「ほぼほぼ一緒」という状況になってきたりします。そして、価格でも買いやすさといった部分でも、どんどん同質化が進んでいき、満足度といったものでも「たいして違いはない」といったこともあります。

 
そして、こういった違いがなくなってきた状況で、自社ユーザーと競合Aユーザーの調査で『違い』を探ろうとすると、そこには調査の罠が潜んでいて危険です。
この罠は、「自社ユーザーと競合Aユーザーはきっと違いがあるに違いない」という前提で分析してしまうことを指します。
こうなると、「生活者のことを理解する」ではなく、「自社ユーザーと競合Aユーザーの違いを探す」といった話になっていきます。加えて、数ポイント(pt)ぐらいの違い(ちょっとの差)があったものでも、「こんな違いがあった!」と声高々に挙げてしまったりする部分があるので、危険です…

これがなぜ起こるのか? 上記から察する方もいらっしゃると思いますが、あえて言います。自社ユーザーと競合ユーザーといった区分をしてしまうから起こってしまうのです。自社ユーザーであっても、日常的に生活をしている人です。
すでに何度か生活者という言葉が出てきていりますが、この生活者と顧客という部分をイメージ化すると、下図を考えることができます。

図 自社顧客として見るのではなく、まずは生活者として捉える
図 自社顧客として見るのではなく、まずは生活者として捉える

 
下から、上顧客について解説をしていくと、この上顧客という層は、特別な感情をもって、自社商品を利用している顧客層です。
そして、もっとカジュアルな感じである、上の層の利用者層。この層は、自社商品の利用者で、何か目的があって利用しているが、そこまでファンでもない層です。
さらにその上の層の消費者層となると、もっと利用者よりも大きなイメージとなり、たまたまその自社商品を消費しただけで、何か目的があって、その消費行動をしているにすぎない層です。
最後に、最上位層が生活者の層です。人は必ずしも消費するために生きているわけではありません。別に化粧品を買うために生きているわけではありませんし、自動車を買うために生きているわけはないと思います。例えば、「若々しくいたいから、化粧品を買っている」や「たくさん行動したいから自動車を買っている」のかもしれません。
こういった文脈の中で、対象者の価値観などに寄り添って捉えることで、対象者のこと、さらには生活者、消費者のことをより理解を深めることができるようになります。
 
 
自社商品のユーザーではあるが、“そもそも”化粧品や自動車、お酒など、そういった様々のものを楽しんでいる人たちです。そういった消費行動をしている人たちです。
さらに言うと、ただただ生活をしている人の中で、たまたまこの消費をしていて、その消費行動の中で、たまたまその商品を選んでいる人たちです。そして、そこから、何かの縁があって上顧客になっていく…
こういった観点で見ることができると、「どんなアクションがあったのか?」「どういった訴求で、この人は自社商品に引き込まれていったのか?」といったところを理解していくことでできるようにもなります。
特に現代は、たくさんの商品で溢れています。自動車もたくさんありますし、お酒なんて数えきれないくらいあります。「その商品でなければならない」といったことは意外と少ないです。「ただ数ある商品の中で、何かしらの“きっかけ”があって、自社商品を買って、それが長く続いているには何かしらのわけがあるんだろうな?」くらいの感覚で見ていくと、よりフラットに理解できるので、良いと思っております。
 
 

対象者を生活者として捉え、生活文脈で読み解く

対象者を生活者として捉え、生活文脈で読み解いていくことが重要です。

  1. どんな生活をしているのか?
  2. どんなシーンで、何の目的で、その商品カテゴリーを購入・使用するか?
  3. 何を基準に商品を選んでいるのか?

 
といった流れで一つひとつ、丁寧に読み解いていきます。

以前、ヘアケア商品を使っている女性にインタビューをしたことがありました。
そして、「若いころは高級路線の商品を使っていたが、今は中価格帯の商品を使っている」ということがわかりました。これについて、生活者の文脈を無視すると、単純に「金銭的な理由や経済的な理由で、安いものを買うようになったんだな」といった分析をしてしまい、消費者理解が不十分な状態となります。

生活者の文脈にしっかり耳を傾けると、状況が異なってきます。
彼女は、高価格帯のものを買っていたのは、独身の頃であり、自分に対してお金も使えたし、そういった商品を使うことで高揚も得ていたが、結婚して、子供が生まれ、子供にお金がかかるようになってくると、今まで月に1回は行っていた美容院を2か月に1回とかにしたり、洋服の購入頻度も減らしたりしたそうです。そして、化粧品も今一度見直し、自分の中で合っているものはどれなのか? 製品や効能などを見ながら、今まで使っていたものとそこまで違いはないけれど、“高いものを使う”という高揚を捨てて、もっと実務的な化粧品へと購入が移ったそうです。
この話を丁寧に捉えると、コミニケションの仕方が変わっていきます。単純な価格の話ではなく、「安いからなんでもOK」という話ではないことがわかってきます。
そのため、生活文脈で競合から自社へ流れてきた人たち、あるいは自社から流れていった人たち、といった部分があったとして、もしかしたら「生活スタイルの違いが出てきたから、卒業していった」といったことも考えられるようになるため、AユーザーとBユーザーといった区切りでは分析しないようにしましょう。

 

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まとめ

顧客を理解するとは、「自社ユーザーの特徴をまとめること」ではありません。
本質的には、「その人がどんな生活を送り、どんな文脈の中で自社商品を選び取っているのか」を捉えることです。

そのためには――

  • 競合を基準点として捉えること
  • ユーザーを「生活者」という視点から考えていくこと
  • 購買前後の期待・満足・迷い・葛藤といった“心のプロセス”まで追いかけること

 
この3つの視点を持つだけで、データの読み解き方も、インタビューの設計も、打ち手の精度も大きく変わります。

もし今、「顧客理解が浅い」「ペルソナが表面的」「競合との差別化ポイントが曖昧」と感じるのであれば、まずは“生活者の目線に立ち直ること”から始めてみてください。
ベンチマークすべき競合は、意外と目の前にあったりするものです。あとは、その価値や生活者の心理を丁寧に読み解き、自社の文脈へとつなげていくことで、自社顧客の理解を深めていきましょう。

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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