公開日:2025.09.02

【リサーチ発注者の方向け】調査の成果を高める目線・思考法とは?

  • リサーチャーコラム

企業において、調査担当という役割を担うとき、多くの方がまず気になるのは、具体的にどんなスキルが必要なのかという点でしょう。
アンケートの設計方法や集計ソフトの使い方といったテクニカルな要素に目が行きがちですが、私が現場で強く感じているのは、それ以前に「調査の根幹」を押さえられるかどうかで成果が大きく変わる、ということです。

 
 

調査の出発点は「目的」「課題」「仮説」の整理にある

調査に関わり始めたばかりの方が陥りやすい落とし穴は、とりあえずアンケートを作り始めてしまうことです。
設問を思いつくままに並べていけば、形式上はアンケートになります。
しかし、その結果得られるのは、断片的な数字の羅列であり、意思決定に結びつくインサイトとはほど遠いものです。

だからこそ最初に問うべきは、「この調査の目的は何か」「その目的を実現するために明らかにすべき課題は何か」です。
さらに理想を言えば、「この調査を通じてどのような結果が想定されるか」という仮説まで整理しておくべきでしょう。
仮説があるからこそ、調査設計に筋道が立ち、得られた結果に対しても冷静に検証することが可能になります。

この「目的・課題・仮説」の三点セットを共有できていないと、社内での議論はしばしばすれ違い、調査そのものが迷走します。
リサーチ会社として数多くの案件に携わる中でも、この点の不十分さが調査の成否を大きく分けると痛感しています。
 
 

設問を生活者の目線で考える

次に重要なのは、アンケート設問の文章作成力です。
専門的な立場から設問を考えると、つい業界用語や複雑な表現を使ってしまいがちです。
しかし回答者はあくまで一般生活者。
設問文が分かりにくければ誤解や回答拒否につながり、データの精度は著しく低下します。

調査票を作成したら、自分自身が回答者になったつもりで読み直してみる。
そこで「答えるのが面倒だ」と感じるなら、生活者にとっても同じ負担があるはずです。
設問を削る勇気も調査担当者には求められます。
これは単に答えてもらいやすくするという技術的配慮ではなく、調査の信頼性を担保するための本質的な工夫なのです。

 
 

数字を読む力の基盤

調査結果はまず生データ(例:個々の回答者が「1:はい/0:いいえ」と答えた選択肢データや、自由回答のテキストデータなど)として現れます。
単純集計表やクロス集計表を見たときに、その数字が何を意味しているのかを正しく解釈できるかどうかが、次のステップの鍵となります。

たとえば「20代の評価スコアが全体よりも高かった」という事実(ファクト)があったとします。
そこから「この商品は20代に支持される可能性がある」というのは解釈、さらに「なぜ20代に高く評価されたのか」という背景を推測するのが考察です。

ファクト・解釈・考察を混同すると、報告書は曖昧になり、意思決定者に誤った印象を与えかねません。
調査担当者としては、この三層構造を明確に意識し、数字と向き合う姿勢を磨くことが不可欠です。

 
 

実務から学ぶこと、座学から学ぶこと

調査のスキルは「現場で体験してこそ身につくもの」と「理論として体系的に理解しておくべきもの」に分けられます。

アンケート票の設計や報告書の作成といった作業は、実務を通して学ぶのが効果的です。
回答者の行動を想像しながら設問を組み立てる作業や、経営層に向けた分かりやすいアウトプットを作る過程は、まさに実地で鍛えられる力です。

一方で、代表性や誤差の種類(標本誤差、非標本誤差など)といった理論的知識は座学で体系的に理解しておく必要があります。
これらの基盤がなければ、調査結果がどの範囲まで一般化可能か、どの程度の不確実性を含んでいるのかを適切に判断できません。
座学と実務、この2つをバランスよく積み重ねることが、リサーチャーとしての成長を加速させるのです。
 
 

関係者の多さが調査を難しくする

事業会社で調査担当者を務めると、社内外の多くの関係者と向き合うことになります。
特に社内では、マーケティング部門だけでなく、商品開発部門、営業部門、経営企画部門など、多岐にわたる部署から調査への要望が寄せられます。
さらに経営層から「せっかく調査するならこの点も聞いてほしい」といった追加リクエストが出てくることも少なくありません。

こうした状況では、調査票が膨れ上がり、回答者の負担が大きくなりがちです。
その結果、回答精度が下がったり、離脱率が上がったりして、本当に必要なデータが得られなくなる危険性があります。

だからこそ調査担当者には、「今回の調査目的は何か」を各部署や上層部と粘り強くすり合わせ、優先順位を整理する姿勢が求められます。
時には要望を取捨選択し、調査会社や外部パートナーと相談しながら最適な設計を組み立てることも必要です。
調査目的を揺るがせにせず、シンプルに守り抜くことが、結果的に社内の意思決定に資するデータを得るための最短ルートなのです。
 
 

主観と俯瞰、2つの視点を持つ

担当者として調査に深く関わるほど、「自分はこう思う」という主観が強く働きます。
それ自体は意思決定に役立つ重要な要素ですが、同時に一歩引いた俯瞰的視点も忘れてはなりません。
私たち調査会社の役割は、第三者として客観性を保ちつつ、クライアントが見落としがちな角度から示唆を提供することにあります。

主観と俯瞰、この2つを意識的に切り替えながらデータを解釈することで、単なる数字の報告ではなく、組織の意思決定を支えるインサイトの提供へとつなげられるのです。

 
 

おわりに

新任の調査担当者にとって、最初のハードルは「アンケートの作り方」や「分析ツールの使い方」ではありません。
それ以前に、「調査の目的・課題・仮説を正しく整理できるか」「回答者や意思決定者の視点を想像しながらアウトプットできるか」が問われます。

調査は万能ではなく、結果はあくまで現実の一側面を切り取った縮図にすぎません。
しかし、その縮図をどう解釈し、どうビジネスに活かすかは担当者の力量に大きく依存します。

だからこそ、新任の段階から目的を見失わない姿勢と数字を読む思考法を身につけてほしいと強く願っています。
それこそが、調査を単なるデータ収集ではなく、企業に真のインサイトをもたらす活動へと昇華させる第一歩になるのです。
 
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執筆者
吉田 圭祐(よしだ けいすけ)
株式会社アスマーク リサーチソリューショングループ リサーチャー
大学卒業後、新卒でメディア調査サービス会社に入社し、広告統計に関する業務に関わる。
業務では、グループ会社実施の全国規模の大型調査の調査票作成や、 各種アンケート調査や広告統計の集計、レポート作成などに従事。
その後、地元の広告代理店勤務などを経て、2022年にアスマークに入社。
現職では、リサーチャーとして幅広い業界の調査企画から設計・分析・レポート 作成までの業務を担当。

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今回は私自身の経験をもとに、「統計知識の必要性」と「良いリサーチャーに求められる素養」について考察してみたいと思います。

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