公開日:2025.07.18

グループインタビューの進行表とは?進行表の作り方やメリットなどを解説

  • マーケティングリサーチHowto

グループインタビューは、複数人のターゲットユーザーから本音や多様な意見を引き出すための効果的な調査手法です。しかし、限られた時間の中で実りある情報を得るには、進行役のスキルだけでなく、綿密な準備が大切です。
その準備の要となるのが「進行表」です。
進行表は、インタビュー全体の流れを明確に示し、質問項目や時間配分、使用する機材など、必要な情報を網羅した「設計図」のようなものです。これがあることで、進行に無駄が生まれず、スムーズかつ効率的に質の高い情報を収集することが可能になります。

この記事では、グループインタビューにおける進行表の重要性、具体的な作成手順、そして作成時に押さえておくべき注意点について解説します。

 
 

グループインタビューの進行表とは?

グループインタビューにおける「進行表」とは、調査対象者に対する質問の項目や内容、それらを提示する順番、各項目に割り当てる時間などを一つにまとめた下図のような資料です。これはインタビュー全体の設計図とも言える存在で、調査の質と効率を大きく左右します。

図 グループインタビューの進行表の例
図 グループインタビューの進行表の例

 
この進行表は通常、調査会社が作成しますが、クライアントと共同で作成されるケースも多く、そのためクライアント側も内容を把握していることが一般的です。モデレーター(司会者)は、この進行表を深く理解し、常に目的意識を持ってインタビューに臨むことで、より本質的で有意義な情報を引き出すことが可能です。

進行表を活用する上で特に重要なのは、「各質問に対して、自分自身で一度回答してみること」です。これにより、質問に対する評価や改善点が見えてきます。

例えば、「この商品の印象はいかがでしたか?」という質問に続けて、「その理由は何ですか?」と尋ねる場合、事前に自ら回答してみることで、多角的な視点から物事をとらえることができ、調査目的や調査課題に対する自分なりの仮説を深めるきっかけになります。

このような地道な作業の積み重ねが、精度の高い仮説につながりますので、必ず実施するようにしましょう。

また、それぞれの質問について「何を明らかにしたいのか」という課題を明確にすることも大切です。インタビューが進行表に沿って進んでいく中で、質問の目的を理解していなければ、得られるはずだった貴重なインサイトを見落としてしまう可能性があります。
進行表の意図を深く理解し、常に目的意識を持ってインタビューに臨むことで、より本質的で有意義な情報を引き出すことが可能です。
 
 

グループインタビューの流れ

グループインタビューでは、参加者の本音や深層心理に迫れるよう、段階的に質問を進めていく構成が基本となります。そのため、進行表を作成する際には、インタビュー全体の一般的な流れを意識して設計することが大切です。

図 グループインタビューの流れ
図 グループインタビューの流れ

 

  1. 導入部
    グループインタビューの冒頭は、会場の雰囲気作りを含め、参加しやすい雰囲気づくりを目的とし、参加者の不安や緊張を和らげ、心理的に安全な発言環境を整えるための時間を設けます。
    そのため、進行表には軽い雑談や、参加者が無理なく答えられる自己紹介(例:職業、趣味、週末の過ごし方など)を行う時間を組み入れます。これは場の空気を和らげ、自然な会話の流れをつくるための工夫となります。

    また、インタビューの目的や進行ルール、発言の取り扱いについて説明するセクションも設け、インタビューの透明性を確保し、参加者に安心感を与える設計を意識します。プライバシーへの配慮や、率直な意見が大切に扱われることを伝える項目も含め、建設的な議論への土台をつくります。
  2. 現状と背景の把握
    このフェーズの目的は、進行表に基づき、参加者の現状や過去の経験、日常的な行動パターンを明らかにすることです。
    進行表には、テーマに対する関心度や関与度、利用頻度、意思決定の要因などについて、事実に基づいた質問を段階的に配置します。質問は参加者が話しやすいよう、日常生活の具体的なシーンや経験に基づいた聞き方を中心に設計しましょう。

    例:「どのようなきっかけでこの商品を使い始めましたか?」「使う頻度は?」「選ぶ際に重視する点は?」など。

    こうした構成により、単なる表面的な情報にとどまらず、参加者の意識や潜在的な動機を掘り下げられ、議論をより効果的なものへと導くことが可能になります。

  3. テーマへ
    進行表の中盤では、インタビューの本題となるテーマについての質問をしていきます。ここでの目的は、参加者全員にテーマの内容を正しく共有し、議論の範囲と焦点を明確にすることです。
    テーマについての質問は、参加者の思考を刺激し、発言を引き出しやすくするような問いかけになるように設計します。進行表には、テーマの概要を簡潔に伝える導入文や、初期反応を引き出す質問を盛り込み、参加者の率直な感想や印象を収集できる構成を目指します。

    また、必要に応じて視覚資料や関連データの提示を行うセクションも含め、理解の促進と議論の質向上を図ります。ここでの明確な方向づけが、その後のディスカッションをスムーズかつ的確に進行させるポイントとなります。
  4. テーマの深掘り
    進行表の最終フェーズは、インタビューの核心部分となるテーマの深掘りです。このパートでは、表面的な意見にとどまらず、その背景にある動機や価値観、言語化されていないニーズに迫る質問を配置します。

    進行表では、下表の4つの視点に基づいて、議論を多層的に深めるように設計しましょう。

    視点 説明
    感情と意識の解明 経験に伴う感情の変化や意識の推移を引き出し、内面的な要因を探ります。
    比較による価値の明確化 いくつかの選択肢と比較する質問を通して、対象テーマの独自性や改善点を浮かび上がらせます。
    課題と解決策の探索 現在抱えている不満や課題を明確にし、具体的な解決策やニーズの深掘りを行います。
    未来への展望と期待 理想的な未来像や期待する変化について意見を引き出します。

    この視点により、参加者間の相互作用を促進し、想定を超えるインサイトや気づきが得られるように、進行表を構成します。

 
 

グループインタビューの進行表のメリット

グループインタビューを効果的に進めるうえで、「進行表」はとても大切なツールです。以下に、進行表を活用することで得られる主なメリットを解説します。

  • インタビューの一貫性と効率性が向上する
    進行表があることで、質問の抜けや順番の混乱を防げ、限られた時間内でも効率よく必要な情報を収集できます。あらかじめ流れが整理されているため、インタビューの目的に沿って議論を的確に進めることが可能です。
  • モデレーターの負担を軽減できる
    進行表には質問の順序や時間配分が明記されているため、モデレーターは次に何を聞くべきかに悩むことなく、参加者の発言や非言語的な反応に集中できます。その結果、深い洞察や本音に迫る発言を見逃さない可能性が高まります。
  • 回答の比較・分析がしやすくなる
    同じ進行表を用いることで、複数のグループ間でも一貫した質問が行われ、回答内容の比較をしやすくなります。これにより、マーケティングリサーチの分析の客観性や信頼性が高まり、説得力のある結果につながります。
  • 関係者間での認識共有がスムーズになる
    進行表を事前にクライアントや関係者と共有することで、調査の目的や進め方について共通理解を得られます。これにより、実査中の連携だけでなく、実施後のデブリーフィングにおいてもスムーズな協力体制を築けます。

 
このように、進行表はグループインタビューを円滑かつ効果的に進めるための「設計図」として、重要な役割を果たします。進行表を準備段階から活用することで、より質の高いデータと洞察の獲得を期待できます。

Tips
グループインタビューとは
グループインタビューとは、特定のテーマについて、数人の参加者を集めて同時に意見や情報を収集する定性調査手法の一つで、一般的に座談会形式で行われます。通常、5~8名程度の参加者がモデレーターの進行のもと、自由な雰囲気の中で議論を行います。

グループインタビューから新しいヒントやアイデアを引き出すのに重要なのが、参加者間のグループダイナミクスです。グループダイナミクスとは、集団における個人の相互作用や影響力関係のことを指します。これが生まれることで、参加者の活発な議論が生まれ、思わぬ意見や新しいアイデアをインタビューから得られるようになります。
これは、グループインタビューの大きな特徴とも言えます

また、アンケート調査では得られない本音や具体的なエピソード、意見が形成される背景などを掘り下げられるため、新商品開発やサービス改善、ブランドイメージの把握など、マーケティング活動の多岐にわたる目的で活用されます。
より詳細は以下のコラムで解説をしております。
「フォーカスグループインタビュー(FGI)とは?流れやメリットを解説」はこちら>

モデレーターとは
モデレーターとは、グループインタビューにおいて、議論を円滑に進め、参加者から最大限の意見や情報を引き出す役割を担う専門家です。そのため、進行役やインタビュアーは似ている言葉として挙げられ、ケースバイケースでこれらの言葉を使うこともあるでしょう。

モデレーターは、質問を読み上げるだけでなく、参加者の発言をうながし、話題が脱線しないよう軌道修正し、時には新たな視点を提示するなど、その役割は多岐にわたります。
そのため、高度なコミュニケーション能力と、参加者の本音を見抜く洞察力が求められます。参加者全員が平等に発言できる機会を設け、特定の意見に偏らず、多様な視点を取り入れることで、質の高い情報を引き出すことがモデレーターの重要なスキルとなります。

 

 
 

グループインタビューの進行表の作り方

グループインタビューを成功に導くためには、その「設計図」ともいえる「進行表」がとても大切です。これがしっかりしていないと、議論は散漫になり、本当に知りたい情報にたどり着くことが難しくなります。

この章では、質の高いグループインタビューを実現するための進行表の作り方について、解説します。

図 グループインタビューの進行表の作り方
図 グループインタビューの進行表の作り方

 

  1. 目的のために知りたいことを整理
    進行表作成の第一歩は、「何を知りたいのか」を明確にすることです。

    まずは、調査の目的に基づいて、知りたい情報を洗い出しましょう。ここで言う「知りたい情報」とは、単なる事実ではなく、調査の目的や解決すべき課題と結びつき、その原因や関係性を解明するヒントとなる情報を指します。
    加えて、その情報が得られたときに「何に活用できるのか」という仮説を事前に想定しておくと、インタビューで得られた情報を検証する際の基準にできます。
    また、的確な質問を考えるためには、事前に調査対象の属性情報などを作成しておくことも大切です。
    参加者の生活環境、価値観、関心事などを想定することで、よりパーソナルで意味のある問いかけができ、深いインサイトの発見につながります。
  2. テーマを作成
    進行表作成の次のステップは、グループインタビューのテーマの作成です。このテーマは、調査項目のことを指し、利用頻度であったり、購入意向であったり、そういった項目となります。

    この作成において重要なのは、参加者の心理的な負担を考えながら、段階的に深掘りしていく構成を意識することです。

    深掘りステップ テーマ(調査項目) 説明
    1. インタビューの導入 「簡単な自己紹介」などといったテーマ インタビューの導入として、緊張を和らげるウォーミングアップ的なテーマを用意しましょう。「個人的な体験」や「簡単な自己紹介」など、誰でも答えやすいテーマから始めることで、参加者は安心して話す雰囲気に慣れていきます。
    2. すぐに答えられるテーマ 「現在の習慣や行動」に関するテーマ すぐに答えられる「現在の習慣や行動」に関するテーマへと移行するのが良いでしょう。日常的な出来事や最近の経験など、直近の記憶にアクセスしやすい内容が適しています。
    3. 記憶を辿ってもらう必要があるテーマ 「過去の行動や体験」に関するテーマ 記憶を辿ってもらう必要があるテーマ、たとえば、過去の行動や体験に関するテーマで質問を行っていき、具体的なエピソードや背景情報を引き出していきます。
    4. 深層部分に踏み込むテーマ 「なぜそう感じたのか」といった行動の動機や課題、ニーズを問うテーマ インタビューの核心となる行動の動機や課題、ニーズといった深層部分に踏み込むテーマへ進め、「なぜそう感じたのか」「どんな不満や期待があるのか」など、本質的な問いかけを行うことで、より深い洞察を得られます。

    こういった深掘りステップを意識し、段階を追って自然に思考を深められるテーマ構成を組むことで、参加者が無理なく、かつ本音に近い発言をしやすくなり、インタビューの質を大きく高められます。

  3. 質問の目的と質問文を作成
    進行表を作成する際は、テーマごとに「何を知りたいのか」を考慮して、具体的な質問文を設計することが重要です。質問は、参加者が理解しやすく、無理なく答えられる表現を心がけましょう。

    例えば、「○○は便利でしたか?」「コスパはどうでしたか?」「○○についてどう感じましたか?」といった文章となります。
    これには、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンのバランスという観点でも一緒に考えらえるというので、詳しくは後述します。

    また、写真・動画・広告などの視覚資料を用いる場合は、進行表に「いつ」「どの資料を」「どのように提示するか」をあらかじめ記載しておけば、インタビューをスムーズに進行できます。

    さらに、各質問にはその「目的」も明記しておくと効果的です。質問の背景が明確になることで、モデレーターが発言を深掘りしやすくなり、もし会話が脱線した場合でも、すぐに本題へ引き戻すための判断材料となります。
  4. 注意点をメモ
    最後に、インタビュー中に注意すべきポイントを「メモ」として書き加えましょう。この注意点メモは、モデレーターが円滑に進行し、質の高い情報を引き出すためのサポートツールとして役立ちます。

    また、インタビューがルーム内で行われる場合、環境に関する注意点(例:マイクの感度調整、照明の確認など)もメモに含めると良いでしょう。
    メモには、以下のような注意点を盛り込みます。

    注意点
    深掘りのポイント この質問では“なぜそう思うのか”をていねいに引き出すこと
    詰まりやすい質問のフォロー案 答えに迷ったら「最近の具体的なエピソードは?」と助け舟を出す
    センシティブな話題への配慮 競合の話が出た場合は、中立的な対応を心がける

    このようなメモを質問内容と共に添えておくことで、モデレーターは進行中に気にすべきことが減り、咄嗟の判断や柔軟な対応をしやすくなります。会話のテンポを崩さず、参加者の発言を自然に引き出すことが可能になります。

 

 
 

グループインタビューの進行表を作成する際に注意すべきこと

グループインタビューの進行表は、単に質問を並べているだけでは、その真価を発揮できません。効果的な進行表を作成するには、いくつかの重要なポイントを考慮し、細部にまで気を配る必要があります。
この章では、進行表を作成する際に特に意識すべき点について解説します。

  • 目的を達成できる質問内容
    グループインタビューの進行表を作成する際、最も重要な心構えの一つが「知りたいことと聞きたいことは別である」という認識を持つことです。リサーチャーが企画の意図と合致した質問を進められるかを考えながら、進行表を作成します。

    質問を作成する際は、その質問が最終的なインタビュー目的の達成に本当につながるかを、一つひとつしっかりと確認する必要があります。

    例えば、「参加者の世帯年収を聞きたい」という要望があったとします。しかし、本当に知りたいことが「そのカテゴリの商品にどれくらいお金を費やせるのか」といった情報であれば、直接的な世帯年収の質問から的確な情報を得ることはできません。
    この場合、「月にご自身で自由に使えるお金はどのくらいですか?」や「その化粧品には月にどれくらいの費用をかけますか?」といった質問の方が、求めている「知りたい情報」をより的確に引き出せる可能性があります。

    このように、「聞きたいこと(表面的な質問)」と「知りたいこと(その質問を通じて得たい本質的な情報)」を混同せず、調査目的を達成する質問にすることで、グループインタビュー中の議論の解像度が格段に上がり、より効果的で質の高いインタビューの実現が可能になります。

  • 質問の順番×優先順位
    質問の順番と優先順位付けを行う際は、参加者の心理的な流れを考慮しつつ、最も知りたい情報を得られるように構成することが重要になります。

    質問の順番


    質問の順番を設計する際は、参加者が無理なく思考を深めていけるよう、自然な流れを意識することが大切です。グループインタビューの参加者は、多くの場合、自分の意見や価値観を明確に意識しているとは限らず、環境や他者の発言に影響されて揺れ動くこともあります。

    そのため、まずは「過去の行動」や「選択時の背景」など、比較的答えやすい「事実ベース」の質問からスタートするのが効果的です。具体的な体験を振り返ることで、参加者は自身の行動に対する理解を深め、それに基づく考えや感情も整理しやすくなります。

    こうしたステップを踏むことで、参加者は現在の心境や意見が的確になるとともに、未来に対する期待や不安、要望といったより抽象的・感情的な内容も、自然に引き出せるようになります。

    優先順位


    調査で得たい情報の重要度に応じて、各質問に「優先順位」を設定することも重要です。グループインタビューは、参加者の自由な発言によって思わぬ気づきや深いインサイトが得られる点が魅力である一方、議論が予定通りに進行しにくいケースもあります。

    特に、インタビューの前半で議論が盛り上がりすぎてしまうと、後半に予定していたテーマや質問に十分な時間を割けなくなるというリスクがあります。こうした事態を避けるためにも、調査目的に照らして優先度の高い質問は、適切なタイミング(中盤など)で確実に扱えるように配置しておく必要があります。

    進行表を設計する際には、質問の流れだけでなく、それぞれの質問が持つ重要性と位置づけもあわせて整理することで、限られた時間の中でも調査の目的を着実に達成できるようになります。

  • オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンのバランス
    グループインタビューの進行表を作成する上で、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンのバランスを適切に取ることも重要です。それぞれの質問形式が持つ特性を理解し、目的と状況に応じて使い分けることで、より質の高い情報を引き出せます。

    オープンクエスチョンは、「~についてどう思いますか?」「その経験から何を感じましたか?」のように、参加者が自由に回答できる質問形式です。これにより、参加者からの予期せぬ意見や深層にある感情、具体的なエピソードを引き出すことが可能になります。
    この質問形式は、特にインタビューの中盤から後半にかけて、参加者の本音や多様な視点を掘り下げたい場合に効果的です。

    一方で、クローズドクエスチョンは、「はい/いいえ」や、選択肢の中から選ぶ形式の質問です。例えば、「この商品を以前使ったことがありますか?」「週に何回利用しますか?」などが該当します。
    クローズドクエスチョンは、事実確認や特定の情報の有無を素早く把握したい場合に役立ち、インタビューの導入部で基本的な情報を確認する場面や、議論の方向性を絞り込む際によく使用されます

    進行表では、これら二つの質問形式を巧みに組み合わせて、クローズドクエスチョンで具体的な事実を確認し、オープンクエスチョンで広く意見を聞く、というような流れを意識しましょう。
  • 誘導しない
    インタビューを進める上で、意図的な質問によって意見を「誘導しない」ことは基本中の基本です。参加者の自発的な意見や本音を引き出すためには、質問が特定の回答や考え方に偏らないよう、使用する言葉が中立的であるか、特定の答えを暗示していないかを繰り返し確認しましょう。

    誘導的な質問とは、「この新機能は便利だと思いませんか?」のように、すでに肯定的な意見を前提としたり、「Aの需要が高まっていますが、AとBどちらが好きですか?」のように、特定の選択肢へ偏らせようとしたりするものです。
    このような質問は、参加者に「正解」があるかのような印象を与え、本当の意見を言いにくくさせたり、モデレーターの意図を汲んで発言させたりしてしまう可能性があります。その結果、得られる情報は偏った信頼性の低いものになります。

    進行表を作成する際には、質問文が中立的であるか、特定の答えを暗示していないかを繰り返し確認しましょう。「この新機能について、どのように感じましたか?」や「AとBについて、それぞれの良い点や改善点をお聞かせください」といった表現を用いることで、参加者が自由に、そして率直な意見を述べられる環境を作れます。
  • 沈黙を使いこなす
    グループインタビューで議論を進める際には、「沈黙を使いこなす」ことも大切です。多くの場合、沈黙は「会話が止まった状態」や「失敗」としてネガティブにとらえられがちですが、実は参加者の内面に潜む本音を引き出すための貴重な時間にもなり得ます。

    質問に対してすぐに回答が返ってこない場合、それが単なる戸惑いではなく、参加者が真剣に考えている可能性もあります。モデレーターは参加者の表情からその意図を察知し、共感をもって沈黙を受け入れることで、表面的な意見ではなく熟考の末にたどり着いた深い気づきや感情が生まれることがあります。
    そのため、焦って次の質問に移ったり、先回りしてヒントを与えてしまったりすると、その思考の芽を摘んでしまうかもしれません。

    こうした「思考の沈黙」を活用する1つの手段として、進行表の中に「沈黙を待つ」あるいは「参加者の熟考をうながす」というメモを盛り込んでおくと良いです。モデレーターがそれを目にすることで、あえて数秒〜十数秒の間をあけるという判断がしやすくなります。
    「沈黙=避けるべきもの」という認識ではなく、「沈黙=思考が生まれる余白」としてとらえることで、インタビュー全体がより深みのあるものへと変わっていきます。

 
 

まとめ

この記事では、グループインタビューにおける進行表の役割から、作成のステップ、実践時の注意点について解説しました。

進行表は、インタビューを成功へと導くための「設計図」であり、リサーチの目的を正確に達成し、質の高いインサイトを得るうえで欠かせない存在です。事前にしっかりと準備された進行表があれば、インタビューの進行は格段にスムーズになり、参加者から引き出される情報の深さや精度も大きく向上します。

ぜひ、本記事の内容を参考にしながら、進行表を効果的に活用し、ビジネスの発展に貢献できるグループインタビューを実施していきましょう。

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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