
2025.08.08
良いリサーチャーを見極める3つの視点
リサーチャーとしてのキャリアを重ねる中で、たびたび「統計知識はどこまで必要か?」という問いに出会うことがあります。 数字を扱い、データを解釈し、レポートにまと……
公開日:2025.09.08
「シニアマーケット」と聞いて、皆様はどのようなイメージを持たれるでしょうか?
少し古いデータですが、2012年にみずほ銀行が発表した「2025年までに100兆円市場になる」という予測は、多くの企業に衝撃を与え、「シニア市場を制する者がマーケティングを制する」とまで言われるようになりました。
これを受け、多くのマーケティング担当者がこの巨大な市場を攻略しようと、シニア向けの商品開発やサービス開発に力を入れてきたかと思います。
その際、コアターゲットとして多くの企業が設定したのが、「アクティブシニア」でした。
しかし、蓋を開けてみると、シニア層を狙ったはずの多くの商品やサービスは、期待したほどのヒットにはつながっていません。
豪華なクルーズツアーや高価なワインの試飲会など、様々な企画が打ち出されましたが、大ヒットと言えるものはごくわずかです。
なぜ、これほどまでに巨大な市場を前にして、多くのマーケティング施策は失敗に終わってしまうのでしょうか?
ターゲットを「アクティブシニア」と設定していることこそが、大きな要因ではないかと考えます。
いわゆる「シニアマーケット(※本原稿においてシニアとは65歳以上を指します)」でのターゲット設定を考えるとき、健康状態に不安を抱えるギャップシニアや介護やサポートが必要なケアシニア、そしてアクティブシニアという3つのグループを想定するかと思います。
そして介護系以外の商品やサービスを検討する際は、活発な消費が見込まれるアクティブシニアが魅力的に思えますよね。
「アクティブシニア」は、一般的に以下のような定義がなされています。
・健康的かつ行動的で、自立して生き生きとしている
・金銭的に余裕があり、仕事や趣味に対して情熱的
・新しい価値観を受け入れやすく、SNSやインターネットに慣れている
この定義を見ると、まさに「消費の鍵を握る理想的な顧客像」に見えます。しかし、ここに大きな落とし穴があるのではないでしょうか。
総務省のデータによると、2023年における高齢者人口の約8割がアクティブシニアに該当するそうです。
8割というと高齢者の大半と言えるかと思いますが、大半の高齢者が金銭的に余裕があり、生き生きと活動している、とするには無理があるのではないでしょうか?
皆様もご存じの通り、「老後2000万円問題」が大きな話題となり、多くのシニアが年金と貯金だけでは老後の生活が成り立たないかもしれないという不安を抱えています。
実際にシニア層の就業率は上昇の一途をたどっており、年金だけでは悠々自適な生活を送ることが難しい現実を物語っています。
人生100年時代と言われる今、65歳の方々が持つ今後15年、20年、それ以上を限られた資金で生きていかなければならないという切実な悩みは、私たちが思う以上に根深いものなのです。
シニアは悠々自適な生活ができるほど資金に余裕はない――この厳しい現実から目を背けてはいけません。多くのシニアのお財布の紐は、私たちが想像するよりもずっと硬いのです。
昨今、シニアの情報行動について、大きな変革期を迎えています。この点について、大枠を見ていきましょう。
従来のシニアマーケティングでは、BSのテレビ番組のコマーシャル、新聞広告、テレビ通販番組などが主な情報源として考えられてきました。
しかし、これらのメディアの影響力は、今や弱まりつつあります。
「若者のテレビ離れ」はよく話題になりますが、実はインターネット黎明期を経験した60代半ばから70代前半のシニア層でも、テレビ離れが進んでいます。
彼らが若い頃に親しんだタレントや司会者たちは第一線から退き、紅白歌合戦などの国民的番組も、自分たち向けではなく若い世代向けに制作されていることを彼らは知っています。
バラエティ番組では、若いタレントたちのコメントに共感できず、なんとなく置いていかれている感覚を抱いているのです。
そのため、彼らはBSの時代劇特集や昔のドラマの再放送など、自分たちが親しんだコンテンツを求めていましたが、残念ながらそうした番組も減少傾向にあるほか、「今」を生きているシニアからすると、見ていると時代に取り残されたような気分になる、という声を聞くようになりました。
そんな中、ここ数年、シニア層をターゲットにしたYouTubeチャンネルが活況になっています。
「シニアライフ」と検索するだけでも、実に多様なチャンネルがヒットしますし、シニア層向けのチャンネルだけでなく、シニアYouTuberがたくさんいることもわかるかと思います。
テレビから「あなたはもうコアな視聴者ではない」と暗に突き放されたかのように感じたシニアたちは、今、自分たちに寄り添ったコンテンツを求め、積極的にYouTubeへと流れているのです。
ほんの数年前までは、「シニアはテレビ」が定説だったかもしれませんが、今のシニアとこれからシニアは情報弱者ではないことを今一度改めて認識しておく必要があります。
改めて、「金銭的に余裕がある」という理由だけでアクティブシニアを追うことは、短絡的なアプローチと言わざるを得ません。
では真に消費ポテンシャルを秘めたシニアをどう見定めたらいいのでしょうか?
それはデジタルシフト化しているシニアです。
あふれる情報に対し受動的ではなく、積極的に取りに行き、それを自分なりに解釈して生活に生かしている、それが今の時代の「アクティブ」という定義になるのではないでしょうか。
そういうシニアはおのずと新しい価値観を受け入れやすく、自分の生活に取り入れたほうがいいと思う商品やサービスは、自分の意志で積極的に選択することができます。
具体的には、「新しい価値観を受け入れやすく、SNSやインターネットに慣れている」という漠然とした定義ではなく、自分で情報を得るためにYouTubeなどのプラットフォームに積極的にアクセスしていたり、Instagramだけでなく、XやThreadsを見たり投稿している層です。
このようなデジタルリテラシーの高いシニアは、スマートフォンやパソコンについて、(若者定義の「ちゃんと」かどうかはさておき)使えているはずです。
デバイスという面から言うと、例えばテレビが壊れて買い替える際、動画配信サービスにアクセスできるスマートテレビに出会う可能性が高くなります。
そうすると、今までパソコンで見ていたYouTubeを大画面のテレビで視聴するようになるのでさらに多くのコンテンツを見るようになるほか、今まで触れてこなかった動画配信サービスについて、そもそもリモコンのボタンにテレビのチャンネルと同列にあるのでその存在を認識し、会員登録をして視聴を開始するなど、さらに情報感度が高まるという好循環が生まれます。
この層は、単に情報を受け取るだけでなく、自ら情報発信を行うポテンシャルも秘めています。
今よりもっとシニアインフルエンサーが誕生していくかもしれません。
シニア市場攻略の鍵は、「アクティブシニア」という金銭的余裕や活動量といった、表面的な属性だけを見てターゲットを定めることではありません。
重要なのは、彼らの情報行動と消費行動の変容を深く理解することです。
消費ポテンシャルを秘めた真のコアターゲットは、経済的背景や健康状態といった従来の定義とは少し異なります。
それは、自ら情報を能動的に探し、インターネットやYouTubeなどのデジタルメディアを使いこなしている「デジタルシフトシニア」が有望であると考えます。
さらには、デジタルという側面で言うと、60代前半の「これからシニア」はシフト化している人たちなので注視すべきで、価値観も含め、今後のシニアマーケットは大変貌と遂げるでしょう。
まずは「アクティブシニア」という従来の定義に囚われず、シニアの解像度を上げ、正しくターゲット設定をすることこそが、シニア市場マーケティングを成功させるための第一歩になります。
本コラムで述べた「デジタルシフトシニア」をはじめ、貴社のシニア市場における課題について、専門のリサーチャー(モデレーター)が直接ご相談を承ります。
シニア市場の消費行動やデジタルメディアの利用実態について、さらに深く知りたい方は、ぜひお気軽にご連絡ください。
![]() |
執筆者 合同会社あかつき 小関 久美 (こせき くみ)
大手広告代理店マーケティングプランナー、化粧品メーカーでのPM、BMを経験後、定性調査を基盤としたマーケティング会社を起業し、定性調査の遂行だけでなくマーケティングコンサルを手掛けた。その後大手調査会社のリサーチャー、マーケティングコンサルを経て、現職。定性調査歴は30年以上に及ぶ。エスノグラフィーや行動観察を得意とし、生活者視点での商品・サービス開発を一貫してサポートしている。モデレーターやWSファシリテーターの経験も多数。セミナー登壇、記事執筆、YouTubeなども実施。伴走するマーケターとして定評がある。 |
変わりゆくシニアの定義を調査データから解説~ネットを使えないのはホント?~
シニア市場は、内閣府が公表している『高齢化の現状と将来像』によると、日本の65歳以上の人口は、昭和25年時では総人口の5%の割合でしたが、令和4年10月1日では29%へ増えています。もし、『シニア』に対する理解、つまり認識が誤っている場合、ニーズを取り違え、うまく商品やサービスが売れない可能性があります。
本記事では、『シニア』の理解を進めるため、調査データからみたシニアの特性や調査の注意点について紹介していきます。
> 詳しく見る
シニア層とは?シニア層への調査の注意点や理解を深めるステップを紹介
現在、日本では少子高齢化が進んでおり、いわゆる「シニア層」はボリューム層(ボリュームゾーン)と言われ、企業のマーケティング担当者から注目を集めています。そういった中で、「シニアをどう理解して良いのかわからない」、「シニア向けの調査はどうするべきか?」、「現役世帯と何が違うの?」など、よくよく考えてみると、分からないことが多いかと思います。
本記事では、そういった「シニア層」は一般的にどんな年代のことを言っているのか、この層に向けた注意点は何があるのか、理解を深めるにはどうしたら良いのかなどについて解説していきます。
> 詳しく見る
シニアリサーチ 定性・定量課題別 調査事例10選
本資料では、様々なシニアリサーチの事例を定性/定量で分けて厳選した10件をご紹介します。対象者の定義、手法、テーマ、調査内容等、今後のシニア調査企画の参考としてお役に立てば幸いです。
下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
・事例を参考にシニア調査の設計精度を上げたい
・過去に調査で失敗した経験がある
・シニアリサーチの経験が浅くどのような事例があるのかを知りたい
> 詳しく見る
若者とシニアに関するアンケート調査
1970年代から少子高齢化といわれていますが、現在、高齢者といわれる方の人口比率は2023年に29.1%となりました。一方で15歳未満の人口比率は11.4%となり、その差は年々開いています(引用:統計局による2023年9月の人口推計)。大きく年齢差もある世代ですが、若者とシニアはお互いにどのようなイメージを持っているのでしょうか。
今回は若者世代(15~34歳)とシニア世代(60歳以上)へご自身のことと、お互いにどのようなイメージなどを持っているのかを調査しました。
下記についての調査データが得られます。
● 若者、シニア共に貯金・貯蓄額は「50万円未満」が1位
● 対人関係の中で若者はシニアが「人に注意をすること」を苦手ではないと思っていたが、実際はシニアの約40%が苦手と回答
● お互いに仲良くしたいかについては、若者・シニア共に「相手からくるようであれば仲良くする」
> 詳しく見る
シニアマーケティング大転換期の再考|バブル世代・新人類の60代突入から紐解く仮説
「団塊の世代」800万人全員が75歳以上、すなわち後期高齢者となることで、2025年問題として注目される「超高齢社会」が “今” 到来しています。
一方で、シニア向けマーケティングに携わる方々にとっては、「新人類・バブル世代がほぼ全員60代になる」という事実も注目しないといけないかもしれません。
なぜなら、「新人類」や「バブル世代」と呼ばれた人たちは、これまでのシニアと経験してきた事柄が異なるからです。
本コラムでは、新たなシニアマーケット像について、リサーチャーとマーケターが仮説を話すオンラインセミナーで語られたシニアのイメージや定義、落とし穴などを解説していきます。
> 詳しく見る

2025.08.08
リサーチャーとしてのキャリアを重ねる中で、たびたび「統計知識はどこまで必要か?」という問いに出会うことがあります。 数字を扱い、データを解釈し、レポートにまと……

2020.04.18
新型コロナウイルスの感染拡大による社会的な混乱の中、市場調査業界でもグループインタビュー・CLTの中止など、大きな影響を受けています。 このような状況において……

2025.09.12
学術調査は別として、マーケティングリサーチの多くの定量調査では、冒頭で「この調査は○○のために○○が実施しています」といった具体的な概要を伝えることはほとんどあ……

2025.10.15
結論から言えば、購入者データをAIで分析してペルソナをつくることは十分に可能です。 ただし、購買履歴や行動ログといったデータのみをAIで分析するだけでは「Wh……