公開日:2025.09.12

事例で学ぶ、障がい者調査に不可欠な『配慮』とは? ~実践的な調査事例10選~

  • マーケティングリサーチHowto

現在の日本では、障がい者の社会参加やQOL(生活の質)向上への意識が高まり、多様なニーズに応える製品やサービスが求められています。アクセシビリティへの配慮や、ユニバーサルデザインの導入が注目を集めています。

一方で、当事者の特性に合わせた調査方法の設計は大きな課題です。当社が障がい者に向け調査を実施する場合も、例えば、視覚障がいのある方には音声での設問、聴覚障がいのある方には手話通訳や筆談等の工夫を凝らすことは必須となっています。さらに、倫理的配慮とインフォームド・コンセントが重要であり、当事者やその支援者と信頼関係を築き、丁寧に説明しながら調査を進める柔軟性が求められます。

このような状況下で、障がい当事者の生の声やニーズを正確に把握するための調査は、製品開発やサービス改善において重要な役割を果たします。

本コラムでは、障がい者調査の様々な事例を、定性・定量調査の視点から厳選してご紹介します。これらの事例は、障がい種別の配慮に基づいた調査を行い、当事者の嗜好や潜在的なニーズを捉えるヒントに満ちています。

障がい者調査の設計精度を高めたい方、過去の調査で期待する成果が得られなかった方、あるいはどのような事例があるか知りたい方にとって、本コラムが参考になれば幸いです。
 

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定性調査

地方観光地のバリアフリー調査


障がい種別 身体障がい(下肢障がい)
調査目的 地方観光地のアクセシビリティを手動車いすユーザーの目線で調査。
観光地のアクセシビリティの課題をうきぼりにするとともに、課題解決のヒントを探る
対象者条件 検証観光地を過去に訪問したことがない手動車いすユーザー
サンプルサイズ 手動車いすユーザー10名
実施内容(形式) 2泊3日の現地調査。
検証員はウェラブル端末を身につけ、指定された場所と、自由に好きな場所を街巡り。GPSで街巡り履歴をとり、課題等を抽出。街巡り後は、個別インタビューも実施し、被験者から直接課題ヒアリング。
後日、5人×2日間のグループインタビューも実施し、調査の深掘りを行う
ポイント 2泊3日現地調査ということで、現地への移動や宿泊場所の確保など、トータルに調査をコーディネイト。
新幹線の車いす席はマックス5席なので、分散移動。地方都市だったので、バリアフリールームのあるホテルも少ない。そのため、調査員の身体状況を詳細に把握して、伝い歩きが可能な調査員は一般室宿泊にするなど柔軟に対応。
難しいとされる多人数車いすユーザーの宿泊調査を実施。

 

医療用チューブ使用者のグループインタビュー


障がい種別 身体障がい(下肢障がい)
調査目的 外資系医療メーカーが日本の医療用チューブ使用者の使用実態を調査するグループインタビュー。
参加者同士による話の盛り上がりを期待して、単独ではなくオンライングループインタビューで実施。
対象者条件 医療用チューブを日常的に使用し、外部との接触もあるアクティブユーザー。
男性/女性共に50歳以上。
PCまたはタブレットで参加可能な方。
サンプルサイズ 女性使用者5名
男性使用者5名
計10名
実施内容(形式) 事前に資料を送付し、接続テストを経たうえで、オンライングループインタビュー。
女性5名と、男性5名は別時間に分けて2グループで実施。
普段使用していている医療用チューブを持参し、普段使用状況の質問に回答。
ポイント 該当チューブには大きく分けて2種があり、今調査は1種のみ対象で、男女で年代が細かく指定された。
チューブを使用する原因についても条件があり難易度の高いリクルートだったが、障がい当事者ネットワークにくまなく当たり対象者を確保した。

 

おもちゃに関するワークショップ調査


障がい種別 身体障がい、精神障がい、知的障がい
ニューロダイバーシティ(神経多様性)
調査目的 本調査は「インクルージョン (多様性の包括)」が広義のテーマ。子供達との会話を通じて、子供たちがコミュニティや学校で包摂されていると感じる要因や、子供たちのアイデンティティに関して遊びを通じての表現方法などを調査の中で探る
対象者条件
  1. 年齢:8~12歳(小学校3~6年生)で、身体障がい、精神障がい、知的障がい、もしくはニューロダイバーシティ(神経多様性)を持つ児童
  2. 過去2年間にクライアント商品を入手したことのない児童と、過去2年間にクライアント商品を1-2個入手した児童

計4名

サンプルサイズ 11歳:知的障がい(ダウン症)女児
10歳:知的障害がい(ダウン症)女児
10歳:身体障がい女児
12歳:健常女児(10歳身体障がい女児の姉)
計4名
実施内容(形式) 児童の保護者に事前アンケートして、児童参加の諸確認。参加児童は楽しく回答できる事前課題に回答。実査は都内のスタジオに集合して、90分のワークショップスタイルのグループセッション。調査対象物がおもちゃの為、親子で楽しく参加できるような雰囲気を作った。
ポイント 対象者確保が難しい案件だったが、障がい当事者の子どもたちや保護者たちの結びつきが強く、1人の障がい女児保護者を起点に、該当参加者を確保することができた。また、①保護者アンケート ②子ども事前課題 ③当日のワークショップという複雑なオペレーションも、保護者と密にコミュニケーションをとり実施できた。

 

「住宅設備プロトタイプ版」に関するモニタリング&インタビュー


障がい種別 身体障がい
調査目的 開発中の住宅設備新商品のモニタリングとアンケート。健常者パネルと混じり、
新商品プロトタイプ版について検証。プロトタイプ版の課題や更なる期待に関して、メーカー担当者に直接声を届けた。
対象者条件 身体障がい 4名
※聴覚障がい、視覚障がいは除き、身体障がいの障がい状態にバリエーションを持たせる
サンプルサイズ 身体障がいの中でも違う障がい状態をリクルート。
車いすと杖の両使い(1名)
車いす使用者(1名)
杖使用者(1名)
上肢障がい(1名)
計4名
実施内容(形式) クライアント施設にて、プロトタイプ版を実際に使用。使用後使用感について個別インタビュー。1人ひとり個別にモニタリング&インタビュー実施。
ポイント 参加者の障がい状態にバリエーションをもたせるための配慮としてオープン募集は実施せず、障がい状態を把握している団体メンバーが直接リクルートすることで実施ができた。

 

「首都圏の鉄道利用」に関するインタビュー


障がい種別 視覚障がい
聴覚障がい
調査目的 20~30 代の視覚障がい者及び聴覚障がい者が鉄道を利用する際に、何に不便や不満を感じているか、また、どのようなサービスを求めているかについて、意見や改善要望を把握し、障害者の鉄道利用促進に必要なポイントを明らかにする調査
対象者条件
  1. 首都圏で月2回以上を鉄道を利用する20~30 代の視覚障がい者5名
  2. 首都圏で月2回以上を鉄道を利用する20~30 代の聴覚障がい者5名

計 10名

サンプルサイズ
  1. 視覚障がい 5名
  2. 聴覚障がい 5名

計 10名

実施内容(形式) 都内会議室にて対面によるグループインタビュー。
視覚障がいと、聴覚障がいを午前午後に分けて、各グループ2時間のグループセッション。
ポイント
  1. 視覚障がい調査員に対して、最寄駅から会場までのアテンドをつけた
  2. 聴覚障がいに対して要約筆記の情報保障をつけた

上記の配慮もあり、参加者の満足度も高く非常に意見交換が活発なインタビュー調査にすることができた。

 

 
 

定量調査

「就労情報サイト」に関する調査


障がい種別 身体障がい
精神障がい
知的障がい
難病当事者
調査目的 インフラ企業が運営する「就労情報サイト」に関して、リアルユーザーである障がい当事者の接触調査。サイトの課題を抽出するとともに、改善のヒントも探る。
対象者条件 全障がい、難病の当事者。
アンケート回答に関しては、当事者の家族や介護人が代わって回答可能
サンプルサイズ アンケート(169サンプル)
インタビュー(6サンプル)
実施内容(形式)
  1. 「就労情報サイト」を見たうえで、サイトの感想や行動意欲具合を別途アンケートに回答
  2. 回答者から選抜した6名に、更に深掘りの個別インタビュー実施
ポイント サイトを見たうえでないと回答できないアンケートとしてアンケートの質を担保。
アンケートから個別インタビューまでの、「アンケート内容のアドバイス」「インタビュー者選定サポート」まで、障がい者調査の知見を活かしたトータルサポートを行った。

 

地域に根ざしたリハビリテーションについてのアンケート調査


障がい種別 全障がい
調査目的 WHOが制定した世界的なリハビリテーションを支えるための指標日本語版を開発にするにあたり、障がい当事者の現状を把握するためのアンケート調査
対象者条件 全障がい
※障害者手帳保持者が条件
サンプルサイズ アンケート(353サンプル)
実施内容(形式) Webアンケート方式で実施。募集方法は協力会社が毎月発行しているメルマガでアンケート募集告知。
数日おいて、協力会社の公式SNS(Instagram、X、Facebook)の募集投稿で回答者誘引
ポイント 「地域に根ざしたリハビリテーションについて」という目的がややわかりにくいアンケート調査。
サンプル数の確保苦戦が予想されたが、なるべく平易な表現でアンケート目的を伝え参加意欲を確保し、SNSのシェアリングを活用し所属パネル以外の該当者にも情報が届くようにしてリーチを広げた。

 

「身体障がい者の性&恋愛」に関するアンケート調査


障がい種別 身体障がい
調査目的 自社商品の新たなターゲット可能性を探る意味で、身体障がい属性に対して
アンケート実施。
また、自社で発行するウェブマガジンの特集記事にアンケート結果を掲載することも
目的として調査実施。
対象者条件 身体障がい
※障害者手帳保持の有無は問わない
サンプルサイズ アンケート(354サンプル)
実施内容(形式) Webアンケート方式で実施。募集方法は協力会社発行の臨時メルマガでアンケート募集告知。
そのほか、協力会社の公式SNS(Instagram、 X、Facebook)の募集投稿で回答者誘引。
提携先パネルへのアンケート募集情報提供。
ポイント 「障がい者×性」という非常にナーバスなテーマだった為、サンプル数確保が心配されたが、通常障がい当事者に接触している感触からある程度集まると予測し実施。
元々リーチしているパネルの男女比は75%が女性であったこともあり、回答者の男女比率が特に懸念されたが、男性への別途回答誘引プロモーションの効果もあり、性別に大きな隔たりなく回収することができた。

 

「パブリックトイレ」に関するアンケート調査


障がい種別 全障がい
調査目的 ネガティブ意見も多く寄せられる障がい当事者にとってのパブリックトイレ実態調査。
アンケート調査により、障がい当事者のパブリックトイレに対する使用実態・意識・ニーズ
などを探り、今後の商品アップデートの参考にする。
対象者条件 全障がい
サンプルサイズ アンケート(416サンプル)
実施内容(形式) Webアンケート方式で実施。募集方法はNPO発行の臨時メルマガでアンケート募集告知。
そのほか、NPOの公式SNS(Instagram、 X、Facebook)の募集投稿で回答者誘引。
ポイント 身近で関心も高いパブリックトイレに関するアンケートということで、障がい当事者向けアンケートでは高い回収率であった。
アンケート内容の関心度がサンプル数獲得に大きな影響を与えることを再確認した事例だった。

 

身体障がいがある方の娯楽に関するアンケート


障がい種別 身体障がい(障害者手帳保持者)
調査目的 身体障がい者の娯楽に対する傾向を探り、最終的にはある特定の観光地への訪問を増やすことを目的としたアンケート調査。
最終目的の前に、まずは娯楽という前段のテーマで、障がい当事者の嗜好性を探る。
対象者条件 障がい、難病の当事者。
家族や介護人の方がご本人の代わりに回答することも可。
サンプルサイズ アンケート(114サンプル)
実施内容(形式) Webアンケート方式で実施。
募集方法はNPO発行の臨時メルマガでアンケート募集告知。
ポイント 納品希望が非常にタイトであったが、正式依頼からアンケート結果納品まで2週間で完遂した。
アンケート募集方法もモニター会員へのメール連絡のみでSNS告知は行っていないがスピード感を持って対応することができた。

 

 
 

おわりに

本コラムでは、障がい者調査の多様な事例をご紹介しました。これらの事例が示すように、障がい者調査は、適切な配慮と柔軟な対応によって、困難に見える調査からも貴重なインサイトを得られることが可能です。

たとえば、「地方観光地のバリアフリー調査」では、複数名の車いすユーザーと共に2泊3日の現地調査を成功させ、当事者の視点からリアルな課題を抽出しました。また、「医療用チューブ使用者のグループインタビュー」では、年代や属性を細かく指定された難易度の高いリクルートを、障がい当事者ネットワークを駆使して実現しました。

このように、障がい者調査は一般的なアンケートやインタビューの準備に加えて、障がいをお持ちの方の特性に合わせたリクルート方法、調査環境の整備、そして何よりも当事者との信頼関係の構築が、成功の鍵を握ります。

このコラムが、皆様の障がい者調査に対する理解を深め、より良い製品やサービスの開発につながる一助となれば幸いです。

当社アスマークの『障がい者調査』では、通常リクルートの難しい様々な障がい種別のリクルートが可能で、日頃から障がい者モニターの声を聞き悩みを知る調査員が設計のアドバイスも行っております。どのような配慮をすれば良いかわからない等、お困りごとがあれば是非ご相談ください。

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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聴覚障がいのモニターへ調査!SaaSやキャリアに求められるアクセシビリティとリモートワーク

聴覚障がいのモニターへ調査!SaaSやキャリアに求められるアクセシビリティとリモートワーク

近年、デジタルツールの大きな発展により、ネットを通じた多様な働き方が可能になりました。その一方で、オンラインでのコミュニケーションが促進される中でも、多様なユーザーに合わせたアクセシビリティやユーザビリティの向上にはまだまだ課題も残されております。

そこで今回は、聴覚障がいのある方がどのように仕事と向き合っているのか、「リモートワークの実態」についてインタビューを実施。
オンライン環境で円滑に働くための工夫、補聴器や人工内耳の活用、聞こえを補うツールへのニーズなど、幅広くヒアリングしています。

下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
・アクセシビリティを考慮したアプリ・デバイス開発を進めている
・消費者のQOL向上に繋がる、デジタルの新ニーズを発掘したい
・聴覚障がい者向けのUI/UXテストを実施・検討している

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視覚障がいの方にオンラインインタビュー「IOT家電の不変的ニーズと開発ヒント」

視覚障がいの方にオンラインインタビュー「IOT家電の不変的ニーズと開発ヒント」

近年、スマートスピーカーや音声操作、アプリ連携などの技術革新により、家電の利便性は飛躍的に向上しています。
家電のスマート化が進むことで、ユーザーの選択肢は広がり、利便性も増しました。
しかし、視覚障がいのある方にとって、こうしたIOT家電はどれほど「使いやすい」ものになっているのでしょうか?

今回は、視覚障がいのある方に 「実際の家電利用体験」や「家電選びの基準・ニーズ」 について詳しくお話を伺いました。

下記に当てはまる方にお薦めの動画です。
・家電の操作性に関する新たな市場ニーズを発掘したい
・ユニバーサルデザインの観点で企業の製品戦略を強化したい
・視覚障がい者向けのユーザビリティテストを実施・検討している

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ユニバーサルデザインとは?商品開発で求められる背景から実践的な調査事例まで解説

ユニバーサルデザインとは?商品開発で求められる背景から実践的な調査事例まで解説

「ユニバーサルデザイン」という言葉を、皆さまも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
SDGsやインクルーシブといったキーワードと共に語られる機会も増え、「取り組むべき大切なこと」という認識は広まっています。

そこで本記事では、ユニバーサルデザインの基本的なことから、調査事例を交えて、商品開発の現場で活用できる実践的な設計視点についてご紹介します。

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