公開日:2025.09.18

事例で学ぶ、シニアリサーチに不可欠な『配慮』とは? ~実践的な調査事例10選~

  • マーケティングリサーチHowto

データ活用が進む中で、「シニア」をターゲットとした調査をご希望される方がいます。
この調査を行う場合、「シニア」の定義決めや、これまでの先入観にとらわれないなど、調査設計で配慮すべきポイントがあります。
この配慮すべきポイントを見誤ると、バイアスがかかり実態とは乖離したデータとなってしまう可能性が出てきます。

本コラムでは、シニアへのリサーチの事例を定性・定量調査の視点から厳選してご紹介します。これらの事例の「対象者の定義や手法、テーマ、調査内容など」を参考に、今後のシニアへの調査企画のヒントが得られるでしょう。

 
 

定性調査

高齢者のオンラインショッピング行動調査


調査の結果得られたこと 高齢者のオンラインショッピング利用率が年々増加しており、特に健康食品や日用品の購入が多いことが明らかになった。
また、デジタルリテラシーが高い人ほど購買頻度が高い傾向が見られた。
クライアント Eコマース企業
調査目的 高齢者のオンラインショッピング行動を把握し、マーケティング戦略やサイト改善に役立てる
調査手法 FGI+エスノ(自宅訪問&買い物同行)
人数・対象者条件 36ss(内12sがエスノに参加)
首都圏・関西・東海・九州在住65-74歳の男女。オンラインショッピングをする方。
デジタルリテラシー(低~高)の割付あり
調査内容 ・オンラインショッピングの利用状況や店舗購入との使い分け
・購入する商品カテゴリー
・購入動機
・デジタルリテラシーの影響等
対応範囲 調査企画、対象者リクルート、自宅訪問&買い物同行、データ回収、分析、レポート作成
特記事項 調査対象者には事前にオンラインショッピングの履歴を記録してもらい、実際の購入状況を詳しく把握する。
また、デジタルリテラシーの評価は事前アンケートで実施し、グループ分けを行う。

 

高齢者の通院行動と健康意識調査


調査の結果得られたこと 75-84歳の高齢者の中で、定期的に通院している方が多く、特にフレイルの調査の結果得られたことクライアント調査目的調査手法人数・対象者条件調査内容対応範囲傾向が強い人ほど健康維持のために通院頻度が高いことがわかった。
また、デジタルヘルスサービスへの関心も徐々に増えていることが判明した。
クライアント 医療サービス提供企業
調査目的 高齢者の通院行動や健康意識を把握し、サービスの改善や新規サービス開発の参考にする
調査手法 DI(デプスインタビュー)
人数・対象者条件 12ss
首都圏在住75-84歳の男女
通院している方。フレイル傾向(弱~強)の割付あり。要介護該当なし、癌or精神疾患罹患なし
調査内容 ・通院頻度や通院理由
・健康維持のための取り組み
・デジタルヘルスサービスの利用意向
対応範囲 対象者リクルート、インタビュー会場手配、当日受付
特記事項 調査対象者には事前に健康状態や通院歴に関する簡単なアンケートを実施し、インタビュー時に詳細な質問を行う。
また、デジタルヘルスサービスに関する質問では、具体的なサービス例を提示して理解を深めてもらう。

 

シニア向けスマホ新サービスに関するコンセプト受容性インタビュー


調査の結果得られたこと シニア世代のスマートフォン利用者は、新しいサービスに対して高い関心を示しているが、操作の簡便さやサポート体制の充実を求める声が多かった。一方フューチャーフォンユーザーの多くは、スマートフォンへの移行に対して不安を感じていることが明らかになった。
クライアント スマートフォンメーカー
調査目的 シニア向け新サービスの受容性を評価し、製品開発およびマーケティング戦略に役立てる
調査手法 オンラインインタビュー
人数・対象者条件 15ss
首都圏在住60₋79歳の男女。スマートフォン/フューチャーフォンユーザー
調査内容 ・新サービスの受容性
・期待する機能やサポート内容
・スマートフォン利用の際の課題
・フューチャーフォンからの移行意向
対応範囲 対象者リクルート、会場・モデレーター手配、当日受付、データ回収、分析、レポート作成
特記事項 事前に新サービスの概要を説明した資料を配布し、インタビュー時には実際の操作画面を共有しながら具体的な質問を行った。
また、スマートフォン移行の不安に対する具体的なサポート案を提示し、フィードバックを収集した。

 

食事や健康に関する意識調査


調査の結果得られたこと 高齢者の間で、健康を意識した食生活が広がっており、特に自分で選んだ食品や飲料に対する健康効果に関心が高いことがわかった。
また、スマートフォンを活用して健康情報を収集し、実際の食生活に取り入れている傾向が見られた。
クライアント 健康食品メーカー
調査目的 シニア層の健康意識と食生活の実態を把握し、新製品開発やマーケティング戦略に役立てる
調査手法 日記調査+オンラインGI&HV
人数・対象者条件 30ss(内15ssがGI・HVに参加)
全国65₋74歳の男女。
スマートフォンユーザー。
食品や飲料をスーパーで自選択自購入要介護者を除く
調査内容 ・日常の食事内容
・食品や飲料の選択理由
・健康に対する意識と行動
・スマートフォンを活用した健康情報の収集方法
対応範囲 対象者リクルート、日記調査実施、インタビュー受付、ホームビジットアテンド
特記事項 日記調査では、対象者に一週間の食事内容を詳細に記録してもらう(写真撮影含む)。オンラインでの記録が難しい場合は紙で対応。オンラインインタビューとホームビジットでは、日記内容を基に具体的な食生活の背景や健康意識を深堀する。
また、スマートフォンの利用状況についても具体的に質問し、健康情報の収集や活用方法を明らかにする。

 

 
 

定量調査

健康器具に関する使用実態把握調査


調査の結果得られたこと 尿漏れに悩む60-79歳の男女の多くが健康器具の使用により症状の改善を実感し、日常生活の質が向上した。
また、使用者の満足度が高く、広告にデータや写真を提供することに積極的であることが確認された。
クライアント 健康器具メーカー
調査目的 健康器具の効果と使用者の満足度を把握し、マーケティング活動や製品改良に活かす
調査手法 HUT(ホームユーステスト)+インタビュー
人数・対象者条件 6ss
首都圏在住60-79歳の男女。
尿漏れで困っている方。1カ月間のテスト品試用協力できる方かつ、データや本人の写真を広告に掲載できる方
調査内容 ・健康器具の使用感
・効果の実感度
・使用頻度
・満足度
・広告に掲載するデータや写真の収集
対応範囲 調査企画、対象者リクルート、健康器具の配布、HUT実施、インタビュー実施、データ回収、分析、レポート作成
特記事項 テスト品使用前に健康器具の使用方法を詳しく説明するための説明会を実施、使用中の感想や効果を日記形式で記録してもらう。
また、インタビューでは使用状況の写真を撮影し、広告への掲載許可を得るための手続きを行う。

 

シニアの就労実態把握調査


調査の結果得られたこと シニアの有職者の多くが、定年後の雇用延長や非正規雇用に対して満足しているが、給与や職場環境に不満を抱えていることが明らかになった。
また、健康維持のために働き続けたいという意識が高い一方で、労働時間や職場での役割に対する柔軟性を求める声が多かった。
クライアント 人材派遣会社
調査目的 シニア層の就労状況と意識を把握し、雇用サービスの改善や新規サービス開発に役立てる
調査手法 WEB調査+オンラインデプスインタビュー
人数・対象者条件 WEB500ss+DI10s
全国、60-74歳の男女。有職者、勤労所得あり
調査内容 ・就労状況
・雇用形態の満足度
・職場環境
・健康維持のための働き方
・将来の就労意向
対応範囲 調査企画、調査票・画面作成アンケート配信、データ回収、当日受付、モデレーター・書記手配、レポート作成
特記事項 対象者には事前に就労状況や意識に関するアンケートを実施し、インタビューでは具体的な就労体験や満足度、不満点を詳しく聞き取った。
また、健康維持と就労の関連性についても深掘りし、将来の就労意向や希望する働き方についての意見を収集した。

 

高齢者ドライバーに関する意識調査


調査の結果得られたこと 高齢者ドライバーの多くが運転に対する不安を感じていることが明らかになった。
また、運転技能の維持や車の安全機能に対する関心が高く、運転支援システムや安全教育プログラムへの需要が高まっていることが確認された。
クライアント 自動車メーカー
調査目的 高齢者ドライバーの運転状況と安全意識を把握し、製品開発および安全教育プログラムの策定に役立てる
調査手法 郵送調査+インタビュー
人数・対象者条件 郵送調査500ss+インタビュー20ss
全国、60歳以上の男女、自家用車を所有し定期的に運転している方
調査内容 ・運転頻度と運転経路
・運転に対する不安や課題
・車の安全機能の利用状況
・運転支援システムへの関心
・安全教育プログラムへの参加意向
対応範囲 調査企画、調査票作成、アンケート配布・回収、インタビュー実施、データ集計・分析、レポート作成
特記事項 対象者には調査期間中の運転記録を詳細に記載してもらい、インタビューでは具体的な運転経験や課題を深堀りする。
また、運転支援システムの体験機会を提供し、フィードバックを収集する。

 

相続に関する意識・実態把握調査


調査の結果得られたこと 相続に関する知識や準備状況が不足している高齢者が多く、特に財産分割や相続税対策についての理解が不十分であることが明らかになった。
また、遺言書の作成や専門家への相談意向が低いことも確認された。
クライアント 金融サービス提供企業
調査目的 高齢者の相続意識と準備状況を把握し、適切な金融サービスや相続対策の提供に役立てる
調査手法 郵送調査
人数・対象者条件 300ss
全国、60歳以上の男女
調査内容 ・相続に関する知識と準備状況
・遺言書の有無
・財産分割の考え方
・相続税対策の意識
・専門家への相談意向
対応範囲 調査企画、調査票作成、アンケート配布・回収、データ集計・分析、レポート作成
特記事項 回答者には相続に関する基本的な情報やサポートサービスの案内を同封し、アンケート回答後に利用できる無料相談サービスのクーポンを提供。
また、特定の質問に対して自由記述欄を設け、具体的な意見や要望を収集した。

 

高齢者のスポーツ施設利用に関する実態把握調査


調査の結果得られたこと 高齢者の多くが運動習慣を持ち、健康維持のためにスポーツ施設を利用していることがわかった。
また、施設の充実度やスタッフの対応に対する満足度が高い一方で、一部の施設では設備の老朽化や混雑に対する不満が見られた。
クライアント スポーツ施設提供業
調査目的 高齢者のスポーツ施設利用実態を把握し、サービス向上と新規施設開発の参考にする
調査手法 WEB
人数・対象者条件 600ss
全国の60歳以上の男女
調査内容 ・運動習慣
・スポーツ施設の利用頻度と満足度
・利用している施設の種類と評価
・改善点の要望
・健康維持に関する意識
対応範囲 調査企画、調査票作成、アンケート配信、データ回収、分析、レポート作成
特記事項 自由記述欄を設けて、具体的な要望や意見を収集した。

 

高齢者向け健康食品パッケージデザイン評価


調査の結果得られたこと 首都圏在住の60~79歳の男女の多くが、パッケージデザインに対して高い関心を持ち、特に視認性の高いフォントや色使い、使いやすさに重視する傾向があることがわかった。
また、具体的な健康効果や使用方法が明確に記載されているパッケージに対する評価が高かった。
クライアント 健康食品メーカー
調査目的 高齢者向け健康食品のパッケージデザインを評価し、購買意欲を高めるための改良点を見つける
調査手法 CLT
人数・対象者条件 100ss
首都圏在住60~79歳男女
調査内容 ・パッケージデザインの視認性
・情報の分かりやすさ
・デザインの好感度
・購買意欲への影響
対応範囲 調査企画、対象者リクルート、CLT実施、データ回収、分析、レポート作成
特記事項 参加者には複数のパッケージデザイン案を実際に手に取って評価してもらい、具体的な意見や改善点を収集。
また、デザイン変更前後での購買意欲の変化を測定し、最適なデザインを決定するための参考資料とした。

 

 
 

おわりに

シニアを調査とした調査では、対象者の定義や従来の固定観念からの脱却といった設計上の工夫が、結果の信頼性を大きく左右します。本コラムでご紹介した事例は、「シニア」という多様な層をより正確に理解するための実践例となります。

シニア市場は今後ますます重要性を増していく一方で、その価値観や生活実態は世代やライフステージによって大きく異なります。だからこそ、調査を通じて得られる知見を丁寧に扱い、先入観に左右されない設計と分析が求められます。

このコラムが、皆様のシニア層向けのリサーチに対する理解を深め、より良い製品やサービスの開発につながる一助となれば幸いです。

当社では『シニア向けの調査』についてのお困りごとについて、ご相談を随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。

シニア向けの調査についてのご相談はこちら>

執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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バブル世代・新人類が60代に突入「シニアマーケット大転換期の再考」

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今後のいわゆる”シニア向け”マーケティング戦略については、「バブル世代シニア」の消費行動・価値観を徹底分析し、これからのシニアマーケットにおける新たな戦略を考える必要がありそうです。

そこで今回は、あらゆる実データを基にしつつも、新たなシニアマーケット像について、リサーチャーとマーケターが仮説を議論!この機会に、新たな示唆をお持ち帰りいただけましたら幸いでございます。

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シニア市場は、内閣府が公表している『高齢化の現状と将来像』によると、日本の65歳以上の人口は、昭和25年時では総人口の5%の割合でしたが、令和4年10月1日では29%へ増えています。もし、『シニア』に対する理解、つまり認識が誤っている場合、ニーズを取り違え、うまく商品やサービスが売れない可能性があります。

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実データを基に、今だから説きたい「シニア定義の再考」をテーマにお届けいたします。この機会に固定観念を払拭した、これからの世代区間について仮説を得て、自社サービスが売れる、最適なコミュニケーションスタディとして頂けますと幸いです。

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シニアマーケティング大転換期の再考|バブル世代・新人類の60代突入から紐解く仮説

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