
2021.11.02
コンセプト調査
4コマ漫画でわかるマーケティングリサーチ
コンセプト調査は、担当者によってアプローチが異なることから、社内における、同じ基準を用いたデータ比較・分析が難しいという現状があります。 こういった状況に対し……
公開日:2025.05.15
購買行動が複雑化し、顧客との接点が多様化する現代において、単にデータを集めるだけでは顧客の“本当の動き”は見えてきません。
そこで注目されているのが、顧客がある商品やサービスに出合い、情報を集め、比較し、購入・利用し、その後も継続するまでの一連の行動や感情を「旅」として可視化するカスタマージャーニーマップの活用です。これはマーケティング部門だけでなく、営業、開発、カスタマーサポートなど、部門横断での顧客視点の共有と連携を促すのに有効です。
本コラムでは、カスタマージャーニーの基本から、マップ作成における調査の準備、コツ、さらに得られた示唆を施策に落とし込むまでのプロセスなどを解説します。
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知ってから「購入・利用まで/その後の継続状況まで」の一連の体験を「旅」になぞらえて表現したものです。
一連の体験の中のそれぞれのステップでどんな気持ちを抱きながら、どんな行動をしたのかをまとめていきます。
具体的には、下図がカスタマージャーニーとしてまとめたマップのイメージ図です。
一番上に横軸としてフェーズを設置し、認知~継続までの各フェーズを書き出しています。これが、先ほど述べた顧客が商品やサービスを知ってから「購入・利用まで/その後の継続状況まで」の一連の体験を記載していく骨子となります。
では、縦軸はどうでしょうか。このイメージでは接点、行動、感情・心理、考察と並んでおり、これらの項目についての使い方を下表にまとめます。
項目 | 使い方 |
---|---|
接点 | 各フェーズに対して「どこで」を列挙する。 例えば、フェーズ「認知」では、「どこで知ったのか」として「WEB検索」、「各社HP」といったことを列挙する。 |
行動 | 各フェーズに対して「何をしたのか」を列挙する。 例えば、フェーズ「認知」では、「とりあえず「マーケティングリサーチ 会社」で検索」といったことを列挙する。 |
感情・心理 | 各フェーズに対して「何を感じたのか」を列挙する。 例えば、フェーズ「認知」では、「いろんな会社があって訴求していることが変わらない」といったことを列挙する。 |
考察 | 各フェーズに対して「分析して考えられる仮説など」を列挙する。 例えば、フェーズ「認知」では、「SEO対策がうまい会社が認知される」といったことを列挙する。 |
※カスタマージャーニーを作成する目的によって、横軸および縦軸の項目が変わりますので、ご注意ください。
「考察」について、さらに詳しく説明をします。
この考察は、接点、行動、感情・心理などから、「どこで、どんな行動をして、その時こういう風に思った」ということがわかり、これの情報を踏まえて「こういった背景が考えられる/こういった施策をもっとうてば響くんじゃないか」といった仮説などを列挙する項目となります。考察が抜けているカスタマージャーニーマップもあったりするので、この考察をしっかり記述できるだけでも、一歩進んだカスタマージャーニーマップを作成することができます。
このカスタマージャーニー(マップ)を作る際に注意したいことは、「こんなことありました/あんなこと思っていました」といった日記みたいなものにしないことです。しっかり、分析や考察をすることで、ビジネスに活用できる作成を目指しましょう。
カスタマージャーニーを作成していく上で特に重要なのは以下7つです。
ペルソナを設定し、フェーズの範囲を決めます。そして、設定したペルソナの視点でフェーズごとの行動・感情を把握し、整理します。
この「行動」と「感情」の把握には注意が必要です。
「行動」は、「本当は行って欲しい行動」と「違う行動」の把握が必要です。「本当は行って欲しい行動」とは、商品やサービスを提供している会社様の方で考えている、「ペルソナに対してフェーズごとに理想の行動」のことを言います。つまり、かみ砕いた表現ですと、商品やサービスを提供している会社様からペルソナを見て「こうしたら良いのにな」って思う行動のことです。もし、この「こうしたら良いのにな」という行動についてご用意が未だの場合は、考え、用意する必要があります。そして、表現を戻すと「本当は行って欲しい行動」という行動に対して、実際にインタビューをしてみると、この行動と異なる行動が出てきます。その行動こそが「違う行動」であり、把握する必要がある行動となります。
続いて、「感情」を把握する上で、特にネガティブな感情とハッピーな感情を分けて把握することが求められます。
これら「行動」と「感情」の把握ができたら、それらを踏まえて「何が足りないのか」を分析していきます。その分析結果をプロジェクトメンバーで共有・合意していきます。このプロジェクトメンバーというのは、色んな部署であることがカスタマージャーニーを作成する意義を向上させるために重要です。例えば、調査部だけではなく、商品開発部や宣伝部、マーケティング部、営業部などの部署となります。
プロジェクトメンバー(色んな部署を巻き込んだメンバー)に、カスタマージャーニーを作成して得られた分析結果を共有していくのですが、これには「以下4つのポイントを共有することで、同じ方向を向いて戦略作成や施策立案につなげること」という目的があります。
共有するポイント
「顧客(見込み顧客含む)と商品・サービスの接点」や「顧客の購買プロセス(フェーズ)における態度変容の変遷」を共有する必要があります。「最初ネガティブだったのに、フェーズが進むにつれ、ポジティブになっている」「このフェーズは特にネガティブに働いている」などの態度変容について共有をしていきます。
そして、「現状における不足施策や未提供価値」について調査などから明らかに、「購買プロセスにおける課題感や提供価値」の整理をして共有をします。
こうすることで、前述した「戦略作成や施策立案につなげること」という目的を達成できるようになります。
ここから、カスタマージャーニーマップを作成するために、調査をする必要があります。この調査をするにあたり、どんな準備が必要なのかを解説していきます。
まず、ここまで話してきた総まとめ的な感じになりますが、以下3点を整理する必要があります。
作成目的:何のためにカスタマージャーニーマップを作成するのか?
マップの活用:作ったカスタマージャーニーマップを何に活用するのか?
各部署との合意:どの部署と合意を取る必要があるのか?
これらは整理せず、設定せず、進めてしまったカスタマージャーニーマップは「こんなことありました/あんなこと思っていました」といった日記みたいなものになってしまう可能性が高くなってしまいます。
もし、この3点を作成してみて不安な場合は、調査会社に相談するのもおすすめです。自信もなく、あやふやな状況で進めてしまうと、上記のようなリスクを抱えたまま、進めてしまうことになってしまいます。
準備をする中で重要なことは「カスタマージャーニーで重要なこと7選」で述べた、以下最初の2つです。
自社の商品やサービスを購入/利用していただけると考えているターゲット像を、より具体的に設定していくことが、ペルソナ設定になります。
このペルソナ設定に必要な要素は次の通りです。
このほかにも、目的によって要素を追加します。
そして、ペルソナの設定ができたら、フェーズの範囲を決めていきます。
例えば、「知ってから使うまで」といっても、そのフェーズはいくつもあります。まず、「知ってから」というのは「何を知ってからなのか」というのを決める必要があります。それは、「商品を知ってから」なのか、「商品のカテゴリーを知ってから」なのか、など、これだけでもひとえに「知ってから」といっても違いがあるのがわかるかと思います。そのため「化粧水というものを知ってから、色々調べて、最終的に自社の化粧水を買うようになった」という、ここまでの変遷を描きたいといったフェーズの範囲を決めていく必要があります。
これら、ペルソナとフェーズをしっかり決めることで、調査をするための対象者条件を決めることが通常可能です。そして、インタビューフローを作成していき、インタビューへと進んでいきます。
さて、「インタビューへと進んでいく」と言いましたが、「どの手法のインタビューを行うか?」も、カスタマージャーニーマップ作成において、重要なポイントであり、コツとなります。
インタビューは、下表のように大きくグループインタビューとデプスインタビューにわけることができます。
インタビュー調査の手法 | 説明 |
---|---|
グループインタビュー (FGI:Focus Group Interview) |
グループインタビューは、モデレーターと呼ばれる司会者が進行役を務め、参加者同士が活発な議論を交わす座談会形式の調査手法です。参加者同士のコミュニケーションや相互作用によって、新たな発見やアイデアが生まれる場合もあります。 |
デプスインタビュー (IDI: In-Depth Interview) |
デプスインタビューは、市場調査において定性的な情報を収集するための重要な手法です。アンケート調査やグループインタビューとは異なり、モデレーター(インタビュアー)と対象者が1対1で対話し、より深いレベルで、消費者の意識や行動を理解することができます。 |
グループインタビューでは、参加者同士の相互作用などによって、幅広い意見を聴取できる可能性があり、デプスインタビューでは、グループインタビューと比べ深いレベルで、調査対象者の意識や行動を聴取できる可能性があります。そのため、イメージとしては、グループインタビューは横に広い形で意見を聴取、デプスインタビューは、奥に深い形で意見を聴取していくようなイメージです。
こういった異なる特徴があるので、調査目的に応じたインタビュー手法を選択する必要があり、その選択方法を下図にまとめました。
この図の赤で囲った部分に注目していただき、「カスタマージャーニーマップを作成」する場合は、デプスインタビューがおすすめとなります。
続いて紹介するコツは、「事前課題の実施」です。
具体的には、デプスインタビューをする際に、「事前課題の実施」を依頼します。
日記形式
例えば、「今使っている商品の使い方や、その商品の写真を、日記形式で提出してください」といった内容が「事前課題」となります。
感情曲線グラフ
日記形式以外にも、下図のような「感情曲線グラフの作成」を依頼することもあります。
たとえば、「ヘアワックスというものを知ってから、今に至るまでのモチベーションを感情曲線グラフで表現してもらう」といった内容になります。「もっとおしゃれになろう」や「だんだんおしゃれから遠ざかってヘアケアも少なくなって…」、「ヘアワックスから遠ざかっていたんだけど、もう1回付け始めて…」といったものを作ってもらいます。
コラージュ
他にも、今使っている商品の写真などを利用して、「なりたい自分」をぺたぺた貼り、コラージュと呼ばれるものを作ってもらったりもします。
こういった事前課題を実施することで、調査対象者にインタビュー調査の前に記憶を辿っていただいたり、考えを整理するきっかけになったり、考えを深めていただいたりと、調査に奥行きを作ることができ、うまく活用できれば、より有意義な調査を行うことができるようになります。
カスタマージャーニーマップ作成における分析の行程について、一つ想定される例を用いながら解説していきます。
ペルソナの設定
上記、A社の背景から、まず準備段階のペルソナを設定していきましょう。
ペルソナを設定するとき、背景の情報で注目すべきポイントは、「未だ調査に不慣れな企業の担当者様をターゲットに置き」という部分です。
この「未だ調査に不慣れな企業の担当者の悩み」から考え、たとえば以下のような悩みを考えることができます。
そして、前述したペルソナ設定に必要な要素も決めていきます。
こうしていくことで、考え出した悩みは、仮説にはなりますが、実際にインタビューの中で伺ってみて、「合っていた/合っていない」ということを検証することで、ペルソナをより現実を近づけていくこともできるようになります。
フェーズの設定
続いて、フェーズの設定です。ここで注目するのも、「未だ調査に不慣れな企業の担当者様をターゲットに置き」という部分です。
この「未だ調査に不慣れな企業の担当者の行動」から考え、たとえば以下のような行動を考えることができます。
これらの行動は悩み同様、仮説になります。さらに、一部は「本当は行って欲しい行動」でもあります。この仮説と「本当は行って欲しい行動」を用意することで、インタビュー後に仮説の検証や「違う行動」というギャップの把握をすることができるようになります。
作成してみたカスタマージャーニーマップのイメージ
続く工程として、イメージがしやすいように「ペルソナやフェーズの設定を経て、実際にデプスインタビュー調査をしてみたふう」として、カスタマージャーニーマップのイメージを下図用意しました。
このマップを作成するまでの流れとして、まずデプスインタビューで得られた情報を各フェーズに記載していきます。もし、「『マーケティングリサーチ会社』と検索をして、色んな会社のHPを見た」という意見があれば、「認知」の「接点」に「WEB検索」や「各社HP」を記載しつつ、「行動」に「とりあえず「マーケティングリサーチ会社」で検索」と記載していきます。
そして、これらから考えられることを「考察」に書いていきます。「WEB検索をして各社HPを見ている」ということから、「SEO対策がうまい会社が認知される」といったことを書きます。
こういったことを「認知」だけではなく、「比較検討」「オリエン」「発注」「利用」「継続」それぞれ行っていきます。
続いて「分析」です。カスタマージャーニーマップが作成できたら、分析し、示唆を出します。
例えば、A社に関するカスタマージャーニーマップイメージから言える示唆としては、以下となります。
SEO対策は重要だが差別化が難しいので手法売りではなく、課題解決路線でイメージ戦略に切り替える(=同質性強化)
受注確度を高めるために、「Webアンケート調査いっぱいできます」「インタビューしませんか」といった調査手法売りは、差別化が難しいので、先ずは「大手と同じこと(皆さまの意思決定を支援すること)ができます」という同質化を強化するイメージ戦略に切り替える必要があります。
初回対応のスピードアップと丁寧な対応実現のために、メール文のテンプレや対応マニュアルの整備とインサイドセールスの組織化
そして、インサイドセールスを組織に組み込むこともしていく必要があります。またその上で、細かいところ、たとえばメール文のテンプレの用意や対応マニュアルの整備を行い、初回対応のスピードアップを図り、受注確度を高めます。
稼働ひっ迫は常であるためリサーチャー不在でも対応が可能なように営業体制の強化と個人のヒアリング・ファシリテーション能力強化
社内の事情として稼働がひっ迫しているリサーチャーが多く、2つ目の「スピードアップ」の面で心もとない状況なので、営業体制を強化することによって改善させる。リサーチャーが不在でも、対応できるように個人のヒアリングスキル、ファシリテーションスキルを強化する。
今後の継続受注に向けて、リサーチャー含めて面での対応ができるように顧客課題の抽出と対応不満の改善強化
さらに、営業個人だけでなくリサーチャーも強化していく必要があります。面で、お客様の対応ができるように、課題のヒアリングを行い、不満の改善をすることで、今後の継続受注につなげます。
これらの示唆をプロジェクトメンバーに報告し、合意形成を図りながら、実行に進めていきます。こういったことが「カスタマージャーニーマップの作成」となります。
カスタマージャーニーマップは、「顧客がいつ、どこで、何を感じ、どう行動したのか」などをフェーズごとに構造化し、企業側の仮説とのギャップを見極め、これからどうするべきかの示唆を得るのに有効です。しかし、それを“見栄えのいいマップ”で終わらせてしまっては本来の価値は発揮されません。
本コラムでご紹介したように、マップ作成の目的を明確にし、適切な調査設計と情報の収集・整理・分析を経ることで、初めて「具体的なアクションにつながる気づき」を得ることができます。そして、それをプロジェクトメンバー全員と共有し、戦略や施策に反映させていくことが、真に“使える”カスタマージャーニーマップの活用法です。
顧客理解を深めたい、部門間で共通認識を持ちたい、施策に説得力を持たせたい——そうした企業担当者の方にとって、本記事が「一歩先」のカスタマージャーニー活用のヒントとなれば幸いです。
活用しやすいカスタマージャーニーを作る調査設計とコツ
カスタマージャーニーマップとは、ユーザーが自社の製品・サービスへ辿り着くまでの一連の体験を「旅」に例えて、認知~接触~購入などの動線をマーケティング目線で描いた戦略立案に生かせるワークツールです。
そこで今回は、リサーチのプロが有益なカスタマージャーニーを作るための「調査設計」について、準備段階~分析ステップまでをレクチャーします。セミナーでは「アスマーク」の事例を基に、実践形式で調査設計のコツとポイントをお届け。この機会に是非、自社戦略におけるカスタマージャーニー設計の精度が高まる、リサーチのフレームをご理解いただけますと幸いです。
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