公開日:2025.07.03

マーケティングにおける座談会とは?メリットやデメリット、費用感など解説

  • マーケティングリサーチHowto

マーケティングにおいて、顧客の「生の声」を収集することは、商品やサービスの改善や、訴求ポイントの明確化につながる重要なプロセスです。特に、「座談会」は、複数の参加者が自由に意見を交わすことで、アンケートや個別インタビューでは得られにくい本音や潜在ニーズが自然と引き出しやすい手法として注目されています。

この記事では、マーケティングにおける座談会(グループインタビュー)の基本から、そのメリット・デメリット、具体的な実施の流れや費用感など、顧客の「生の声」を収集するリサーチ手法について解説します。

 
 

座談会とは?

「座談会」と聞くと、一般的には特定のテーマについて複数人が集まり、気軽に意見を交わす場をイメージされるでしょう。しかし、マーケティングにおいて「座談会」と言う場合、「グループインタビュー(FGI:Focus Group Interview)」の場合があります

一般的な座談会が自由な意見交換を主とするのに対し、マーケティングにおける座談会(グループインタビュー)は、特定の目的を持って企画・実施されます。モデレーターと呼ばれる司会者が進行役を務め、参加者から特定のテーマに関する意見や感情、購買行動の背景などを深く引き出します。
そして、マーケティングにおける座談会は、製品開発の初期段階でのニーズ探索、新商品の受容性評価、広告表現の検証など、具体的なマーケティング課題の解決につながるインサイトを得るために活用される点が、一般的な座談会との大きな違いです。
そのため、この記事では、マーケティングにおける「座談会」=グループインタビューとし、さらにマーケティングにおける「座談会」を単に「座談会」と表記し、解説をしていきます
 
 

座談会の目的

座談会の目的は、「ターゲット顧客の深層心理やニーズを多角的に理解することで、因果関係をひも解いていくこと」にあります。定量的なアンケート調査では見えにくい、顧客の感情や価値観、行動の背景にある「なぜ?」を深掘りすることが主な狙いです。

具体的には、下表のような目的で活用されます。

表 座談会の目的
目的 説明
顧客の本音の収集 アンケートでは得られにくい、率直な意見や潜在的な不満・期待を、モニターである参加者から引き出します。
ニーズや課題の深掘り 製品やサービスに対するニーズがどこにあるのか、ユーザーが感じている課題は何かといった点を探り、改善や開発のヒントを得ます。
アイデアの検証・評価 新商品のコンセプト、広告の表現、パッケージデザインなどに対する初期段階での評価を通じて、受容性や改善点を見極めます。
消費者インサイトの発見 参加者同士の対話を通じて、個人の意見だけでは見えづらい共通の意識や行動パターン、潜在的なトレンドをとらえます。

 
 

座談会でわかること

座談会を実施することで、企業は多様な視点から顧客を理解するための貴重な情報を得られます。
主に以下のような点が明らかになります。

図 座談会でわかること
図 座談会でわかること

 

  • 商品・サービスへの評価と具体的な理由
    顧客が自社の商品やサービスをどのように評価しているか、そして、その評価に至った具体的な理由や背景を把握できます。「なぜそう感じたのか」「どうしてその機能が良いと思ったのか」といった深掘りも可能です。
  • 購入・利用に至るまでの意思決定プロセス
    顧客が『商品やサービス』を『認知や検討』をし、最終的な購入に至るまでの心理的なプロセスや、重視するポイント、購買障壁などを明らかにできます。
  • 競合商品・サービスとの比較における評価
    自社の商品が競合他社と比較してどのように認識されているか、顧客がどのような点を優れていると感じ、どのような点に不満を抱いているかといった相対的な評価を把握できます。
  • 潜在的なニーズや課題
    顧客自身も意識できていない潜在ニーズや、既存の商品やサービスでは解決できていない課題を発見できます。また、参加者同士の会話の中で、新たな視点や欲求が引き出されることもあります。
  • リアルな使用実態や利用シーン
    商品やサービスが実際にどのような状況で、どのように使われているのかといった、アンケートだけでは見えにくいリアルな使用実態や利用シーンを把握できます。

 
 

マーケティングにおける座談会の活用シーン

マーケティングにおける座談会は、顧客の深層心理や多角的な意見を把握するのにとても効果的であり、その特性から様々なシーンで活用されています。特に、定量調査ではとらえにくいリアルな声を求める場面で大きな効果を発揮します。

主な活用シーンとしては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 新商品・サービス開発の初期段階
    ターゲット層の潜在ニーズや未解決の課題を掘り起こし、新商品のコンセプトや方向性を探るうえで役立ちます。開発中のプロトタイプやアイデア段階のコンセプト案を提示し、初期の評価や改善点を把握することも可能です。
  • 既存商品の改善
    現行商品に対する不満や改善要望を洗い出し、機能追加や品質向上のヒントを得ます。また、実際の利用シーンや使用状況を深く理解することで、よりニーズに即した改良が可能になります。
  • プロモーション戦略の策定
    広告のクリエイティブ案やキャッチコピー、CMのコンセプトなどに対する消費者の印象や反応を確認し、どのようなメッセージがターゲットに響くか、より効果的な訴求方法を模索する際に活用されます。これにより、具体的なプロモーション施策の方向性を定めることができます。
  • 顧客満足度の向上とブランドイメージの構築
    顧客ロイヤルティの要因やブランドに対するイメージ、認識を深く掘り下げることで、サービスの改善点を把握し、満足度向上につなげる手がかりを得られます。
  • 市場トレンドの把握と競合分析
    特定の市場における消費者の意識や動向、価値観の変化を的確にとらえると同時に、競合商品との比較を通じて、自社の強みや弱みを客観的に把握することが可能です。ここから得られる情報は、包括的な市場調査の一環としても重要な役割を果たします。

 

Tips
座談会と会場調査(CLT)の違い
座談会と会場調査(CLT:Central Location Test)は、いずれも製品や広告の評価に活用されますが、座談会は調査手法の1つであり、会場調査はアプローチ方法の1つとなります。

会場調査は、指定した会場に被験者を集め、商品を実際に試してもらったり、広告を視聴してもらったりした上で、その場で簡単なアンケートやインタビューに回答してもらう定量調査です。そのため、会場調査というアプローチ方法をとり、意見などの聴取をアンケートやインタビューといった調査手法を実施する形式となり、これが違いとなります。

座談会とデプスインタビュー(IDI)の違い
座談会とデプスインタビュー(IDI:In-Depth Interview)は、共に定性調査の手法ですが、そのアプローチと得られる情報に違いがあります。
※ 定性調査とは、対象者から発せられる生の言葉や行動、あるいは観察者が見たままの状態や印象など、ことばや文章あるいは写真といった数値化できないデータの収集を目的とした調査方法です。

デプスインタビューは、モデレーターと対象者が1対1で行うインタビューです。これにより、個人の深い心理やプライベートな体験、繊細な感情、さらには他人には話しにくい個人的な意見を、時間をかけてじっくりと引き出すことが可能であり、個人の購買行動の背景にある複雑な要因や、ニッチなターゲット層の深掘りに適しています。
どちらの手法も「なぜそう思うのか」という深掘りを行いますが、座談会は「集団の中での意見形成や多様性」、デプスインタビューは「個人の深層心理と個別性」に焦点を当てる点で違います

より詳しい解説は以下をご覧ください。
「グループインタビューとデプスインタビューをどう使い分ける?特徴など含め解説」はこちら>
「デプスインタビューの定義~分析:効果的な方法で本音とインサイトを引き出す」はこちら>

 

デプスインタビュー(IDI)

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座談会のメリット

マーケティングにおける座談会は、企業が消費者の「本音」に触れ、効果的な戦略を立てるための手法です。近年ではネットを介したオンライン座談会も普及し、より手軽に本音を収集できるようになりました。

座談系では、参加者がリラックスして本音を語りやすいからこそ、下表のようなメリットを得られます。

表 座談会のメリット
メリット 解説
商品やサービスの改善点を発見できる お客さまのリアルな声を聞くことで、開発側では気づきにくかった使用時の不便さや、「こうだったらもっと良いのに」といった具体的な要望が浮かび上がります。こうした声をもとに、よりニーズに合った商品やサービスへとブラッシュアップすることが可能です。
単独インタビューでは得られない意見を引き出せる 数人でおしゃべりするように進める座談会では、誰かの意見が別の人の「そうそう、私も!」という共感を呼び、話がどんどん深まったり、予期せぬ新しいアイデアが飛び出したりします。このような、わいわいと話す中から、ハッとするような発見が得られるのは、座談会ならではの魅力です。
短時間で効率的に意見を集められる 座談会では一度に複数人(だいたい6~8人くらい)から話を聞けるので、一人ずつじっくり話を聞くよりも、たくさんの意見を素早く集められます。
異なるタイプのお客さまの比較ができる 例えば、20代の方のグループと40代の方のグループで座談会を開けば、同じ商品でも世代によって感じ方や使い方にどんな違いがあるのかが明確になります。それぞれのグループに合わせたより的確なマーケティング戦略を考える上で、とても役立つ情報を得られます。

 
 

座談会のデメリット

マーケティングにおける座談会には多くのメリットがある一方で、いくつか注意すべきデメリットも存在します。これらの課題を事前に理解し、適切に対処することで、より質の高い情報を得られます。

表 座談会のデメリット
デメリット 解説
個人の深い心理を知ることが難しい 複数人が集まる座談会では、1人に対して長く質問をし続けるのは、あまりよくありません。
例えば、6人120分の座談会を実施して、特定の人に60分質問をし続けた場合、その60分の間、他の人は暇になってしまい、座談会のメリットを享受できません。
グループによって議論の盛り上がりに差が出る 座談会では、活発に話す人がいると、他の参加者が遠慮したり、特定の意見に流されてしまったりすることがあります。また、参加者同士の相性が合わないと、話が盛り上がらなかったり、場の雰囲気が悪くなったりするケースもあります。
そのため、モデレーターは、全員が意見を出しやすい雰囲気を作り、建設的な議論をうながせるスキルが必要です。
バイアスが発生するリスク 座談会の参加者が特定の層に偏ったり、平日昼間のように開催する時間によって、参加できる人の特性に偏りが発生したりすることがあります。
また、モデレーターの進め方によって、無意識に特定の意見に誘導してしまう可能性にも注意が必要です。
日程調整の難しさ 座談会では複数人の都合を合わせる必要があるため、特に参加条件を細かく設定しすぎると、全員が集まれる日時を見つけるのが大変になります。
また、当日のキャンセルに対応できるよう、予備の参加者手配も考慮することが大切です。

 
 

座談会実施の流れ

座談会というと、単に集まって意見を聞く場というイメージを持たれがちですが、実は「準備」と「分析」をしっかり行うことが、成功の重要ポイントです。座談会の目的を達成するには、事前の計画から終了後の分析まで、一連の流れをしっかり押さえる必要があります。

図 座談会実施の流れ
図 座談会実施の流れ

 

  1. 目的と予算を明確にする
    最初に考えるべきは「なぜ座談会を開くのか?」という目的です。例えば、「新商品のコンセプトに対する率直な意見を聞きたい」や「既存サービスの改善点を探りたい」など、具体的な目的を設定します。この際、目的が明確であるほど、準備がスムーズに進みます。
    同時に、予算の確認も重要です。自社で実施するのか、調査会社に依頼するのかは、予算や社内リソース、専門知識の有無を踏まえて判断しましょう。

    また、このフェーズでは、「仮説」の有無も重要です。新規参入のような、まったくそのマーケット(市場)について知らない状況で意見を伺いたい場合は、「仮説」を立てるのは、難しいでしょう。そのため、「仮説」を立てるための調査がおすすめとなります。
    一方で、そのマーケットについてある程度把握しており、目的→仮説の立案が可能であれば、いくつか「仮説」を立て、それを検証する調査がおすすめとなります。
  2.  

  3. 参加者の選定と準備
    目的と予算が明確になったら、次は「誰に話を聞くか」という参加者選びです。年齢や性別に加え、「週3回以上そのアプリを使っている人」など、条件を細かく設定し、「スクリーナー」を作成します。
    そして、座談会の候補者条件が決まったら、「リクルーティング」という実際の参加依頼に進みます。参加条件の再確認やスケジュール調整もこの段階で行います。ここで注意しなくてはいけないことは、急なキャンセルの可能性です。この可能性は完全になくすことはできないので、予備の候補者を確保しておくと安心です。
  4.  

  5. 座談会の実施
    本番は、1グループ6人程度で実施し、時間は90分〜2時間が目安です。会話は録音や録画しておくと、後の分析に役立ちます。

    参加者の構成例は以下の通りです。

    役割 人数 主な業務
    モデレーター(インタビュアー) 1名 議論の進行、参加者からの意見引き出し
    サブインタビュアー 0〜1名 司会者の補助、タイムキープ
    記録担当者 1〜2名 議事録作成、映像・音声記録
    対象者(参加者) 6〜8名 意見や感想の共有

     
    座談会を実施する際は、モデレーターが中心となって、意見を引き出しやすい雰囲気をつくることが大切です。また、座談会の内容を記録する際は、発言内容だけでなく、表情や態度といった非言語的な情報も観察・記録しておきましょう。

  6.  

  7. 結果の分析・示唆抽出
    終了後は、録音や録画した内容を元に文字を起こし、発言をテーマ別に整理・分析します。参加者から出た共通点や意外な指摘から、消費者の本音や気づきである「示唆」や「因果関係」を見つけていきます。
    この分析結果は、その後のマーケティング戦略において、とても価値の高い情報源となります。

 

 
 

座談会のスケジュール感

座談会の全体スケジュールは、その規模や目的によって異なりますが、一般的には企画から最終報告まで約1ヶ月〜1ヶ月半を見ておくと安心です。

表 おおまかなスケジュールの流れ
スケジュール 期間 内容
参加者募集の準備
(スクリーナーの作成など)
約1週間 調査目的に沿った参加者を見つけるための条件設計を行います。
参加者の募集
(リクルーティング)
約1〜2週間 条件に合う人を探し、参加依頼・日程調整を進めます。
座談会の実施
(本番)
1日あたり2セッション 実際の意見収集を行う本番フェーズです。
1セッションあたり90分〜2時間ほどとなります。
結果の整理と報告書作成 約2週間 録音・録画の内容をもとに、意見を分析し報告書にまとめます。

 
このスケジュールはあくまで一般的な目安であり、希少な条件の参加者を集める場合や、短期間での実施が求められる場合には、さらに調整が必要になります。特に、条件が厳しいリクルーティングは時間がかかるため、余裕をもった計画にしましょう。
 
 

座談会のセッション数の考え方

座談会は、Aグループ、Bグループ、Cグループ、、、と複数実施することがあります。この時、3回実施する場合、3セッションと数えます。

そして、複数実施する目的は、各グループを比較することにあります。
分かりやすいのは、Aグループを男性のみ、Bグループを女性のみにし、2セッションした場合、男性の意見と女性の意見として、比較することができます。

調査の目的に合わせて、このグループの分け方を設定する必要があり、上記性別や年齢、住んでいるエリアなどの属性や、購買有無などで設定します。
 
 

座談会の費用感

座談会を実施する際の費用は、企画の内容や規模によって大きく異なります。
例えば、規模が小さく条件もシンプルであれば12~60万円程度に収まることもありますが、参加者の条件が厳しかったり、オプションが多かったりする場合には数百万円程度になるケースもあります。

主な費用項目とその内容は、下表の通りです。

表 座談会の主な費用
項目 内容
対象者抽出のためのスクリーニング調査費用 調査パネル(モニター会員組織)から条件に合致する対象者を選定するためのアンケート調査費用です。基本属性(性別・年齢など)以外の条件(特定商品の利用状況など)を確認するための調査が必要となります。
リクルーティング費用 スクリーニングで条件に合致した人に対して、電話やメールで最終確認を行い、インタビュー参加の意思を確認する作業にかかる費用です。人数が多いほど、また条件が複雑であるほど費用は増加します。
インタビュー実施費用 モデレーター費用 :専門的なファシリテーション技術を持つモデレーターの人件費
書記・スタッフ費用 : 記録や運営をサポートするスタッフの人件費
謝礼 :参加者に支払う謝礼金(一般的に1人8,000円前後)
会場費 :インタビュールームなどの施設利用料
機材費 :録音・録画機材などの費用
飲食費 :参加者に提供する軽食や飲み物の費用
分析・報告書作成費用 インタビュー結果の文字起こし、分析、レポート作成にかかる費用です。詳細な分析や高品質な報告書を求める場合は、追加費用が発生することがあります。

 
 

座談会を成功させるためのポイント

座談会を通して本当に役立つヒントを得るためには、「準備」「進行」「分析」の各フェーズにおける適切な対応が重要です。ここでは、座談会の成功を左右する3つの重要なポイントについて、解説します。

1. 準備段階

座談会の成功は、その始まりである「準備段階」の質によって大きく左右されます。この段階でていねいかつ戦略的に計画を立てることが、参加者からの本音を引き出し、有益な情報を得るための土台となります。

準備段階における重要ポイントは、以下の通りです。

参加者のグルーピング(グループ分け)
座談会で参加者から本音を引き出しやすい場を作るには、グルーピング(グループ分け)が重要です。同じグループ内の参加者に多くの共通点があれば、参加者は安心して本音を話しやすくなり、議論が深まりやすくなります。
また、複数のグループで座談会を実施する場合は、グループ間に明確な違いを持たせることが重要です。これにより、多角的な視点からの分析が可能になり、より深い洞察が得られます。
ただし、グループ分けを行う際は、設定した条件が現実的に募集可能かどうかを見極めることも重要です。あまりに希少な条件では、参加者集めに苦労する可能性があります。

表 分け方の例
分け方 解説
年齢や性別 「20代女性」「40代男性」など、世代や性別で価値観が異なる商品の場合に効果的です。
ライフステージ 「独身」「子育て中」「リタイア世代」など、生活環境の違いを明確にしたい場合に効果的です。
利用状況 「頻繁に使う」「たまに使う」「未経験」のように、商品やサービスの利用経験に基づいてニーズの違いを把握します。
価値観やライフスタイル 「エコ志向」「新しいもの好き」「コスパ重視」といった価値観で分けることで、ブランド設計や商品開発のヒントにつながります。

 
 
実施計画と環境準備
座談会を効果的に進め、質の高い意見やインサイトを引き出すためには、事前に綿密な準備が必要になってきます。以下のポイントを事前にしっかりと手配しておくことが、実施当日のスムーズな進行につながります。

表 実施計画と環境準備のポイント
ポイント 解説
目的やテーマの明確化 座談会を通じて「何を明らかにしたいのか」「どのような情報を得たいのか」という目的とテーマを明確にし、その目的に沿った議論の流れを具体的に設定します。
インタビューフローの作成 議論の中心となる質問や、特に深掘りしたい内容を体系的にまとめたインタビューフローを事前に作成することで、質の高い意見を引き出す準備を整えます。
会場選定や関連機器の手配 参加者がリラックスして自由に発言できるような会場を選定し、貴重な発言や表情を漏らさず記録できるよう、必要な録音・録画機材を準備します。
参加者への事前案内 座談会の開催日時、場所、所要時間、謝礼、そして守秘義務に関する説明など、参加者が安心して参加できるように、詳細な情報を事前に伝えます。

 
 

2. 進行段階

座談会が開始したら、参加者の気持ちに寄り添う姿勢や、誰もが安心して自由に発言できる雰囲気づくりが重要となります。

モデレーターのスキル
座談会の進行役であるモデレーターのスキルは、参加者の表面的な意見だけでなく、心の奥にある本音や深い思いを引き出す上で、とても重要な役割を担います。

表 モデレーターの主な役割
主な役割 解説
進行管理 議論が本来の目的から逸脱しないよう適切にガイドしつつ、設定された時間内に全てのテーマを網羅できるよう、議論の流れを調整します。
観察と共感 参加者の言葉だけでなく、表情や声のトーンといった非言語的な情報からも感情や意図を敏感に察知し、共感の姿勢を示すことで、より安心して発言できる雰囲気を作り出します。
深掘り 参加者の発言に対し、「なぜそうお考えになったのでしょうか?」「どうしてそのように感じられたのか、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?」といった問いかけを通じて、その背景や理由を深く掘り下げます。
意見の整理 参加者から出てきた意見をリアルタイムで分かりやすくまとめ、共通する点や意見の対立点を明確に提示することで、参加者間の理解を深め、さらに活発な議論を促進します。

 
 
場づくり
座談会の成功には、参加者が安心して自分の意見を自由に話せる場づくりが大切です。どんな意見も尊重されるという信頼感をつくることで、参加者は本音を語りやすくなり、率直で多様な視点が引き出せます。

表 場づくりのポイント
場づくり 解説
アイスブレイクや自己紹介 議論に入る前に、簡単なアイスブレイクや自己紹介の時間を設けることで、参加者間の緊張を和らげ、お互いに話しやすい雰囲気を作り出せます。
心理的安全性の確保 どのような意見も尊重され、批判されることはないという安心感を提供することで、ポジティブなだけではなくネガティブな本音も、引き出しやすくなります。
参加者同士の対話を促す モデレーターだけが一方的に質問するのではなく、参加者同士の相互作用を促すような問いかけや、簡単なグループワークなどを適宜取り入れることで、議論に奥行きと広がりをもたらします。

 
 

3. 分析段階

座談会で得られた情報は、ただ収集しただけではその真価を発揮しません。収集したデータを以下のように体系的に分析し、そこからビジネスに活かせる深いインサイトを導き出すことが、座談会の最終的な成果を決定づけます。

データ整理
収集された膨大な発言や情報を、効率的かつ正確に整理することが、分析作業の第一歩となります。この整理をしっかりと行うことが、この後の分析において質の高いインサイトにつながります。

表 データ整理
データ整理 解説
発言録の作成 録音・録画された座談会の内容を文字に起こし、正確な発言録を作成いたします。この発言録は、後続の分析作業の土台となります。
コーディング 発言録を基に、参加者の発言を目的やテーマごとに分類・整理する「コーディング」作業を行います。これにより、特定の意見や傾向、共通のテーマを効率的に抽出しやすくなります。
キーワード抽出 議論の中で頻繁に登場した言葉や特徴的なフレーズをピックアップすることで、参加者の皆様が特に何を重視しているのか、あるいは共通してどのような認識を持っているのかを把握できます。録音や録画から得られる表情や声の調子といった非言語的な情報も記録しておくと、より豊かな分析が可能となります。

 
 
グループダイナミクスの把握
座談会ならではの特徴である「グループダイナミクス」を理解し、その影響を適切に分析へ反映させることは、表面的な意見だけでなく、参加者同士の影響や空気感に潜む本質的な気づきを得るためにとても重要です。

表 グループダイナミクスの把握
特徴の把握 解説
特定の発言が他メンバーに与えた影響を検証 ある参加者の意見が、他の参加者の発言や態度にどのように影響を与えたのかを注意深く観察し、その相互作用を分析します。
遠慮や沈黙、発言しづらい空気の確認 参加者が遠慮して発言を控えていなかったか、あるいは沈黙が続く場面がなかったかなど、発言しづらい空気がなかったかを確認します。
例えば、「誰かの意見に否定的な空気が流れた」「特定の人ばかりが話していた」などの状況を観察し、なぜ発言されなかったのか、その背景にある心理や環境要因にも注目することで、表に出てこなかったニーズや不満を見つけ出せます。

 
 
インサイトの発見
分析段階で最も重要なのは、収集・整理されたデータから、ビジネスに活かせる「インサイト」を導き出すことです。単なる事実や意見の羅列ではなく、背景や文脈を深く読み解くことで、問題の本質や新たな価値創出のヒントを見つけ出します。

表 インサイトの発見方法
発見方法 解説
本質的な課題や潜在ニーズを読み解く 収集した意見を単に集計するのではなく、「なぜそう考えているのか」「その背景には何があるのか」といった根本的な理由や感情を深く考察することで、真の課題やまだ顕在化していないニーズを発見できます。
発言の矛盾点を掘り下げる 例えば、「この機能は便利だと言われているのに、実際にはあまり使われていないのはなぜだろう?」といった矛盾点や、参加者の皆様がまだ明確な言葉にしていない潜在的な要望を掘り下げることが、具体的なインサイトの発見につながります。
専門知識を持つ分析者による洞察 経験豊富な分析者や定性調査の専門知識を持つファシリテーターが分析プロセスに加わることで、客観的かつ多角的な視点から、より深く、よりビジネスに直結するインサイトを引き出すことが可能です。

 

 
 

座談会の事例

座談会は、様々な業界や目的で活用されており、ビジネスの課題解決に役立つ貴重な情報をもたらします。ここでは、実際の調査事例を用いて、どのように座談会が活用されているのかを紹介します。

事例1: 食品メーカーの新商品開発


ある大手食品メーカーが、若年層向けの新しいスナック菓子を開発する際に座談会を実施しました。
20代前半の男女を集め、どんなスナック菓子を食べているか、スナック菓子にどんな不満があるか、理想の味やパッケージは何かなどを自由に話し合ってもらいました。

その結果、「みんなでシェアしやすい」「SNS映えする」といった、若年層ならではのニーズをしっかりと把握でき、このインサイトをもとに作られた新商品は、発売後大ヒットとなりました。

 

事例2: 美容サービスの改善


中規模の美容サロンチェーンでは、お客様にもっと喜んでもらい、お店に何度も来てもらうために座談会を開きました。
20代から40代の女性客を「よく来てくれるリピーター」と「一度しか来たことがない人」に分けて、サービスの満足点や不満な点を詳しく聞いたところ、リピーターは技術と接客を高く評価している一方で、一度だけの人たちは予約システムの使いにくさや待ち時間に不満を感じていることがわかりました。また、両方のグループから「施術内容の説明が分かりにくい」という共通の意見も出てきました。

これらの声をもとに、予約システムを改善したり、説明の仕方を工夫したりすることで、新規のお客様がリピートしてくれる割合を15%も上げることに成功しました。

 

事例3: 金融商品のコンセプト検証


ある大手金融機関が、若い投資家向けの新しい投資信託商品を開発する際、そのコンセプトがターゲットに受け入れられるかを確かめるために座談会を行いました。
20代から30代の投資初心者と経験者を別々のグループに分け、新商品のアイデアや魅力に感じる点、心配な点などを話し合ってもらいました。

その結果、初心者からは「専門用語が多くて理解しづらい」「始めるにはお金がかかりすぎる」といった意見が出た一方、経験者からは「他社の類似商品と何が違うのかわからない」「どれくらい儲かるのかが不明確」という厳しい指摘がありました。

この金融機関では、これらの意見を真摯に受け止め、商品説明を分かりやすくしたり、少額から投資を可能にしたり、競合との違いを明確にしたりするなど、商品のコンセプトを大きく見直すことで、より市場のニーズに合った商品開発を進めることができました。

 
 
これらの事例から分かるように、座談会はお客様の心の中にある本当の気持ちや、なぜそう思うのかという背景を広く理解するための強力なツールです。数字だけでは見えてこない「なぜ?」を掘り下げつつ、対象者それぞれの話を伺うことで、お客様の視点に立った製品開発やサービス改善、そして効果的なマーケティング戦略を立てられます。
 

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まとめ

ここまで、座談会について、目的や活用シーン、メリット・デメリットなど解説してきました。

座談会は、複数の参加者がリラックスした雰囲気の中で自由に意見を交わすことで、アンケートではなかなか引き出しにくい本音や潜在的なニーズが自然と現れやすい、とても効果的な手法となります。
時には、参加者自身も気づいていなかった重要なインサイトが得られ、新たなビジネスチャンスにつながることもあります。

座談会から得られる、これらの貴重な情報を、ぜひマーケティング戦略の立案に活かして、ビジネスをさらに発展させていきましょう。

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執筆者
アスマーク編集局
株式会社アスマーク マーケティングコミュニケーションG
アスマークのHPコンテンツ全ての監修を担い、新しいリサーチソリューションの開発やブランディングにも携わる。マーケティングリサーチのセミナー企画やリサーチ関連コンテンツの執筆にも従事。
監修:アスマーク マーケティングコミュニケーションG

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グループインタビューのコツとは?成功させる戦略について解説

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近年、市場調査において、消費者の深層心理を理解するために定性調査の重要性が高まっています。中でも、グループインタビューは、消費者の本音を引き出し、多様な意見や深い洞察を引き出すための手法として注目されています。
しかし、グループインタビューから有益な調査結果を得るには、グループインタビューの特性や重要なポイントを理解して、事前準備や調査実施、分析作業を行うことが大切です。

この記事では、グループインタビューを成功させるためのコツについて解説します。

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AI時代のオフライン調査~生成AI・セルフ型調査を超える価値とは~

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生成AIの台頭は、マーケティングリサーチの世界にも大きな変化をもたらしています。AIやセルフ型調査が普及した今、調査の専門家に依頼する価値はどのように再定義されるべきなのでしょうか?

この記事では、これらの問いに対する答えを探りながら、AI時代におけるマーケティングリサーチの新たな可能性と、オフライン調査の価値について考察していきます。

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