
2020.04.14
顧客ロイヤルティの指標(NPS)への疑問と代替指標
「ロイヤルカスタマー」=「ファン」と定義されることが多いのですが、そもそも「ファン」というものを、みなさんはどのように解釈されているでしょうか。 熱狂顧客……
公開日:2026.09.11
ECの購買ログやPOSデータを見れば、「誰が・いつ・何をいくらで買ったか」という客観的な行動は手に取るようにわかります。しかし、いざそこから次の施策を導こうとすると、なぜか手が止まってしまう――。マーケティングリサーチの現場でも、こうしたもどかしさを抱えるクライアントの声を耳にする機会が増えました。
購買ログが手軽に手に入る今だからこそ、一度立ち止まって考えてみたい問いがあります。
「購買データが示す『買った』と、ネットリサーチで生活者が答える『買った』は、本当に同じものなのだろうか?」
本記事では、この素朴な疑問を出発点に、両者のデータが持つ本質的な違いや実務で陥りがちな罠、そしてこれらをどう掛け合わせて意思決定につなげていくべきかについて解説していきます。
本記事の要点(サマリー)
まず、購買データ(POSデータやECの購買ログなど)が捉えている「買った」とは何でしょうか。
一言で言えば、それは「疑いようのない客観的な事実(ファクト)の記録」です。
何年何月何日、どの店舗(あるいはサイト)で、いくらの商品が決済されたのか。そこには個人の思い込みや記憶違いが入り込む余地はなく、極めて正確な行動の痕跡が残ります。短期間での売上トレンドを追ったり、在庫を最適化したりするような「現状を即座に把握し、素早く手を打つ」フェーズにおいて、これほど頼もしいデータはありません。
しかし、この「正確な事実」を前にしたとき、私たちはしばしば陥りがちな盲点があります。購買データは「何が起きたか」を完璧に記録してくれますが、「なぜ起きたのか」については不透明であるという点です。
たとえば、ある生活者が特定の商品を購入したログがあったとします。
そのデータから、以下のような文脈を読み解くことはできるでしょうか。
よくある例として、ECサイトの「定期購入(サブスクリプション)」のデータが挙げられます。
購買ログ上は定期購入している「超優良顧客」に見えていたとしても、実際にその顧客に話を聞いてみると、「本当は解約したいけど、手続きが面倒で放置していた」というケースは決して珍しくありません。ログだけを見ればロイヤリティが高いように見えても、実態としての心理的ロイヤリティは限りなくゼロに近い、という乖離が平然と起こり得るのです。
また、レジの端末やサーバーは、決済の瞬間に「どんなお気持ちでこの商品を選ばれたのですか?」と問いかけてはくれません。客観的事実のログには、生活者の多様な思考や感情のプロセスがすっぽりと抜け落ちた「無言の余白」が存在しているのです。
では一方で、ネットリサーチ(Webアンケート)で得られる「買った」とはどのようなデータなのでしょうか。
こちらは購買データのような厳密なログではなく、「生活者本人の記憶や意識を通じた、主観的な記録」だと言えます。
主観である以上、そこには「曖昧さ」や「バイアス」が付きまといます。
この記憶の曖昧さは、商品/サービスの特性によって大きく出方が異なります。
たとえば、自動車や住宅、あるいは高価格帯の家電製品のように、生活者にとって関与度が高く、人生の中で滅多にない大きな買い物であれば、2〜3年前のことであっても「なぜその車種を選んだのか」「決め手は何だったのか」という記憶は比較的残っていたりします。
しかしこれが、日々の食パンやペットボトルのお茶、洗剤といった低関与な日用品・食品になると話は変わってきます。1週間前の夕食のためにコンビニで何を買ったか、その正確な銘柄や購入理由を即座に思い出せる人はそう多くないでしょう。日常的な買い物になればなるほど、直近の購買記憶によって過去の記憶はどんどん上書きされていきます。
そのため、こうした商品/サービスに対して「過去1年間の購入実態」をネットリサーチ(Webアンケート)で測ろうとする場合には、記憶の風化によって実態とのズレが生じるという構造的な課題があります。
「それなら、主観データであるネットリサーチ(Webアンケート)は購買データより劣っているのではないか?」と思われるかもしれません。しかし、それは違います。
ネットリサーチの真価は、購買データのような「事実の堅牢さ」そのものを競うことではなく、「その購入を、生活者が頭の中でどう意味づけているか」を浮き彫りにできることにあるからです。
記憶が多少デフォルメされていたとしても、「自分はこういう理由でこの商品を選んだ(と思っている)」という認識そのものが、その人の価値観やブランドに対するパーセプション(認識)を表しています。
「なぜ買ったのか」「どんな文脈で必要としたのか」、あるいは逆に「なぜ買うのをやめてしまったのか」。生活者の頭の中にあるブラックボックスに光を当て、購入に至る心理的プロセスを定量的に辿ることができる点こそが、ネットリサーチ(Webアンケート)が持つ独自の強みです。
この2つのデータの違いを曖昧にしたままマーケティングの意思決定を行おうとすると、時に大きな判断ミスを引き起こすリスクがあります。その最たる例が、「相関関係」と「因果関係」の混同ではないでしょうか。
膨大な購買データを解析していると、思わぬ変数同士の強い相関が見つかることがあります。
たとえば、データ分析の結果、「商品Aを購入する人は、高い確率で商品Bも同時に購入している」という事実が判明したとしましょう。
このとき、陥りがちな思考の罠が「商品Aを買ったから、商品Bが欲しくなったに違いない(因果関係)」と決めつけてしまうことです。もしそう判断してしまうと、「商品Aを買った人に商品Bのクーポンを配れば売上が伸びるはずだ」といった施策を性急に打ってしまうことになります。
しかし、少し立ち止まって考えてみる必要があります。
生活者側からすれば、「たまたま同じ売り場に並んでいたから一緒にカゴに入れただけ」かもしれませんし、「AとBを組み合わせると別の用途に使えるという独自の裏ワザがSNSで流行っていた」のかもしれません。あるいは、「全く別の第三の要因(例えば、特定の気候や世帯構成など)」が両方の購買を同時に引き起こしていただけという可能性もあります。
つまり、購買データが得意なことは「AとBが同時に起きている」という【相関の発見】であり、購買データだけでは難しいことは「なぜAとBが結びついているのか」という【因果の特定】だといえます。
そのため、相関関係をそのまま因果関係と取り違えて的外れな施策を打ってしまうリスクを避けるためには、データが示す相関に対して「なぜそれが起きているのか?」という仮説を立て、生活者の意識に直接問いかけて検証するプロセスも必要なのです。
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購買データとネットリサーチは、どちらか一方が優れていて、どちらかが劣っているという二項対立のものではありません。むしろ、マーケティング課題の多くは、「購買データで事象(何が起きたか)を掴み、ネットリサーチで背景(なぜ起きたか)を解き明かす」という補完関係を築くことで、より本質的な解決へと向かっていきます。
この章では、現場で効果を発揮する「3つの掛け合わせシナリオ」をご紹介します。

POSデータや自社ECのダッシュボードを見ていて、ある主力商品の売上や購入頻度が徐々に落ちてきたとします。ログは「離脱が起きている」というアラートをリアルタイムで鳴らしてくれますが、なぜユーザーが離れたのかまでは教えてくれません。
そこで、ログから抽出した離脱層や購入頻度減少層に対してネットリサーチを実施します。「味や使い勝手への不満なのか」「他社からより魅力的な新商品が出たため乗り換えたのか」「単に生活環境の変化で必要性が薄れたのか」。理由を特定することで、「製品改良すべきか」「価格やプロモーションを見直すべきか」という、次にとるべき打ち手の精度が変わります。
RFM分析※などを用いて、顧客を購入金額や頻度に応じて「ロイヤル」「ミドル」「ライト」などのセグメントに分類することは購買データの得意領域です。
しかし、「ロイヤル顧客=年間◯万円以上購入してくれる人」という数字の定義だけでは、彼らに響くコミュニケーションメッセージや新商品は作れません。
そこで各セグメントに対してネットリサーチを重ね、彼らがどんなライフスタイルを送り、どんな価値観を持ち、日々の生活のどのような文脈で自社ブランドを必要としているのかをプロファイリングします。数字の塊だったセグメントに「血の通ったペルソナ像」が宿ることで、マーケティング施策の解像度は一気に跳ね上がります。
※ RFM分析とは、顧客を「最終購入日」「購入頻度」「購入金額」という3つのポイントで分類し、マーケティング施策へとつなげる分析手法です。
マーケティングの工程(フェーズ)という時間軸で見ても、それぞれ役割があります。
まだ商品が世の中に存在しない「構想段階・コンセプト開発段階」では、当然ながら購買ログは存在しません。ここでは生活者の未充足ニーズや現状の不満を捉えるネットリサーチが主役となります。そして、商品が上市(ローンチ)された後は、日々の配荷や購買の事実を購買データでトラッキングしながら、想定通りの受容がされているかをネットリサーチで定点観測していく――。このようにフェーズに応じて主客を入れ替えながら伴走させることが理想的です。
AI技術の飛躍的な進歩により、データ集計や基本的なクロス分析、テキストマイニングなどは、誰もが短時間で行える環境が整いつつあり、各種データの集計・結合にかかるハードルも次第に下がっていくことでしょう。
そんな時代で、私たちリサーチャーが提供すべき本質的な価値とは何でしょうか?
それは、「提示されたファクトの背景にある人間心理を想像し、数字に意味を与える解釈力」だと考えています。
画面に表示された「購入意向 65%」「リピート率 12%減少」といった数値を、単なる統計的な記号として処理するのではなく、「なぜその数字になったのだろう?」「自分自身が一人の生活者としてその売り場に立ったら、どう感じるだろうか?」と、自身の生活感覚に引き寄せて思考を巡らせることがより求められていると感じています。
生成AIが導き出した分析結果に対しても、「理論上はそうかもしれないけれど、生身の人間の感情として本当にそう動くだろうか?」という健全な違和感を抱けるかどうかがポイントです。この「データ」と「人間理解」を往復しながら仮説を研ぎ澄ませていくプロセスこそが、AI時代において意思決定を後押しする最大の力になるはずです。
購買データが示す「買った」という無機質なファクトと、ネットリサーチが示す「買った」という感情の乗ったストーリー。
どちらか一方だけに頼ったマーケティングは、地図を持たずに航海に出るようなものか、あるいは羅針盤の目盛りに目を奪われて波のうねりを見落としてしまうようなものかもしれません。
客観的事実によって「何が起きたか」の足場を固め、生活者の主観によって「なぜ起きたか」の進路を定める。この両輪が揃って初めて、生活者の心に深く刺さる事業の打ち手が見えてくるのだと思います。
「手元に購買ログはあるけれど、顧客の本当の動機が見えてこない」
「購買データから見出された相関関係の、その先にあるものを確かめたい」
もし日々のマーケティング活動の中でそのような違和感や課題感を抱かれたときは、ぜひ一度私たちにご相談ください。数字の向こう側にいる生身の生活者の姿を、共に紐解いていければ幸いです。
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「アンケート初心者向け」セレクト4選
アンケート初心者の方は必読したい、当社の「マーケティングリサーチ初心者向け資料」を4部セレクトしました。全て一括でダウンロードいただけます。
下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● アンケート調査を初めて実施する
● リサーチの担当になったが、何から学べばいいかわからない
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購入者データ×AIでペルソナをつくることは可能か?
購入者データをAIで分析してペルソナをつくることは十分に可能です。
ただし、購買履歴や行動ログといったデータのみをAIで分析するだけでは「Why(なぜ)」の理解が弱く、人間性を単純化してしまうリスクがあります。そのため、デプスインタビュー(DI)との併用が最も効果的です。
近年、弊社でもAIや生成AIを積極的に業務に取り入れていますが、その結果、大規模なデータ分析を通じて客観的なパターンを迅速に把握するなど、従来の分析手法を一段と高いレベルに引き上げることが可能になりました。ペルソナ設計もまさにその典型例です。
本記事では、AIによるペルソナ設計の利点や留意すべき3つの課題などについて解説します。
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RFM分析とは?やり方から問題点まで解説
RFM分析とは、顧客を「最終購入日」「購入頻度」「購入金額」という3つのポイントで分類し、マーケティング施策へとつなげる分析手法です。
みなさんは企業にとって最も重要な資産は何だと思いますか?江戸時代の話で、ある呉服屋が火事に見舞われたとき、真っ先にしたことが顧客台帳を井戸に投げ込むことだったそうです。その理由は、火事の後に商売を再開するには、最も重要だったのが商品やお金ではなく「顧客台帳(顧客リスト)」だったからとか。それほど商売にとって重要な顧客リストですが、価値を生み出すためには具体的なマーケティング施策へとつながる適切な情報収集と分析が必要です。
この分析手法を確立できれば、顧客リストの価値は飛躍的に高まりますので、本記事では、顧客リストの分析手法として広く知られている「RFM分析」について解説します。
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【検証レポート】設問文・選択肢の見せ方で回答データは変わるのか?
設問文・選択肢の見せ方で、回答データに差は生まれるのかを検証し解説したレポートです。
下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● 設問文・選択肢の見せ方でどの程度回答データに差が出るのか知りたい
● 設問設計による回答バイアスを最小限に抑えたい
● アンケート調査を設計しているため、事前に設計による回答の違いを把握しておきたい
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アンケートシステムの機能・デモ画面
標準価格内で複雑な設定が可能な高機能アンケートシステムです。分岐・絞り込み・ランダマイズといった基本的な機能をご紹介しております。デモ画面もご覧いただけます。
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AI時代のオフライン調査~生成AI・セルフ型調査を 超える価値とは~
AIによる自動化などは、効率化には貢献するものの、画一的な調査設計に陥りやすく、企業やブランド独自の課題に対応しきれない可能性があります。また、オンライン主体の調査では、回答者の表情や行動などの非言語情報が得られにくく、本音や深層心理を捉えきれないケースも少なくありません。
真に顧客を理解し、競合との差別化を図るために必要な「深層のインサイト」を獲得するには、どのような手法を用いるべきなのでしょうか?
この資料では、こういった問いに対する答えを探りながら、AI時代におけるマーケティングリサーチの新たな可能性と、オフライン調査の価値について考察していきます。
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● AIやセルフ型調査のリサーチとオフライン調査について知りたい
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2020.04.14
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