公開日:2026.02.17

【リサーチャーコラム】訪日外国人への出口調査、失敗しないための現場論

  • リサーチャーコラム

インバウンド需要の増加に伴い、多くの企業や自治体が訪日客の動向把握に注力しています。

POSや人流データといった行動の履歴は手に入りやすくなりましたが、その奥にある「なぜ買ったのか」「何に満足し、何に失望したのか」という意識データをつかむのは容易ではありません。

有効な手立ての一つが、利用直後に行う出口調査です。
ただ、日本人向けの調査票を翻訳して持ち込むだけでは、使えるデータは集まりません。

数多くの訪日外国人調査の現場経験から、きれいごとではない現場の実態と、成功のために押さえるべきポイントを解説します。

 
 

国籍・地域による「協力率」と「回答バイアス」

まず、国籍や地域によるスタンスの違いは、データの質を大きく左右する要因です。

欧米豪圏からの旅行者は、街頭や店頭で声をかけたときに足を止めてくれる確率が日本人より高く、目的さえ伝わればフランクに応じてくれます。特筆すべきは、ネガティブな評価を隠さない点です。日本人は角が立たないよう無難な回答を選びがちですが、彼らは良いものは良い、悪いものは悪いとはっきり伝えます。ビジネスの改善には、この忖度のない指摘こそが役立ちます。

対照的なのが中国本土からの団体ツアー客です。彼らへの接触は困難を極めます。バスで移動し、限られた時間で大量の買い物を済ませる等の過密スケジュールで動いているため、調査に協力する物理的な隙間がありません。韓国やシンガポールなど個人旅行が浸透している地域は欧米に近い反応を示しますが、一部のアジア圏では日本人同様に建前が含まれる傾向も見られます。言葉の壁を超えても、本音を引き出す難しさは残ります。

 
 

調査票設計の落とし穴:「日本語的文脈」の排除

調査票の設計に大きな落とし穴が潜んでいるケースがあります。日本の調査票は丁寧さを重んじるあまり、設問が長く、前提条件の説明も増えがちです。しかしこの日本流の作法は、多言語展開するときに足を引っ張ります。

  1. 「前提」は伝わらない
    「〇〇という観点において」といった前置きは、翻訳するとニュアンスが変わりやすく、直感的な理解を妨げます。結果として前提を無視した回答が集まり、データの信頼性が揺らぎかねません。質問は主語、述語、目的語だけのシンプルな構造に削ぎ落とす必要があります。
  2. 自由回答(FA)への過度な期待は禁物
    クライアント企業からは「具体的な改善点を知りたいので、自由記述を多くしてほしい」という要望をよく頂きます。しかし、立ち話形式の調査で、母国語以外の入力を強いられるのは大きなストレスです。詳細な理由は書かれないものと割り切り、記述率は低くて当然と考えます。
    一方で、最後に設ける「全体的なご意見」のような包括的な欄には、意外と多くの声が寄せられます。細かく理由を問うより、言いたいことを自由に吐き出してもらう設計のほうが、結果として有益な生の言葉が得られます。
  3. 選択肢の「数」と「順序」のリスク
    立ち止まって行う調査では、スクロールが必要なほど選択肢が多いと回答精度が落ちます。下まで見ずに上のほうだけ適当に選ぶ行動は、外国人調査でも顕著です。母国語でない環境では認知的な負荷がかかるためでしょう。選択肢は厳選し、表示順をランダムに入れ替える工夫が欠かせません。

 

 
 

フィールドワークの成否を分ける「場所」と「謝礼」

  • 場所選びのポイント
    どこで、何を渡して聞くか。この物理的な設計も回答の偏りを防ぐ鍵となります。
    人通りが多い場所が良いとは限りません。たとえば鉄道の駅は一見多くのサンプルが取れそうですが、現代の旅行者は乗換アプリで時間を分単位で管理しており、足を止める余裕がありません。
    対照的に空港の出発ロビーは、搭乗までの待ち時間が発生するため比較的協力が得やすい場所です。単なる『交通量』ではなく、『滞留時間』に着目して場所を選びます。
  • インセンティブ(謝礼)の落とし穴

    謝礼はその場ですぐ使える金券、たとえばQUOカードなどが効果的です。ただし外国人には使い方の提示が必要です。注意すべきは、金券が目的化するリスクです。

    金券を配っていることが特定のツアー客に伝わり、対象外の人々が殺到して収拾がつかなくなった事例もありました。謝礼はあくまで対価であり、集客の道具にしてはいけません。質の低い回答を防ぐための、現場でのコントロール能力が問われます。

 

 

海外調査(アンケート調査)

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アスマークでは、海外調査(アンケート調査)サービスを提供しております。バイリンガル・トリリンガルのスタッフが在籍する社内グローバルチームが国内外パートナー各社と連携し、御見積のご相談~企画・設計、実査、アウトプットまで一貫してサポートさせていただきます。

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通訳活用のリスク:「言語能力」≠「調査能力」

最大のリスク要因の一つが調査員の質です。語学力を重視して通訳会社からスタッフを派遣してもらうケースが多くありますが、ここにも注意が必要です。
通訳のプロは言葉を訳すプロであって、調査の中立性を保つプロではありません。

調査経験がないと、回答者が質問を理解しかねているときに、親切心から「たとえばこういうことですよ」と具体例を出して説明してしまいます。すると回答者はその例に引っ張られ、「AかBか」と聞くべきところを「Aですよね」と誘導される形になりかねません。

英語以外では調査経験のある通訳者の確保がさらに難しくなります。そのため、調査員に高度な会話力を求めず、多言語表示されたタブレットを回答者自身に操作してもらうスタイルを基本にします。調査員はあくまで操作の補助に徹するほうが、データの客観性を保つ上では安全です。
 
 

組織内の温度差の壁

調査データ以前の問題として、プロジェクトの進行を阻むのが企業内での温度差です。

本社のマーケティング部門にとっては重要な戦略でも、店舗や施設の現場スタッフからすれば、入口を塞ぐ邪魔な存在と捉えられかねません。事前に現場への周知と合意形成がなければ、調査員が冷遇されたり、中断を余儀なくされたりするケースも存在します。

ただ調査票を作るだけでなく、クライアント社内の断絶を埋めるためのコミュニケーションを支援することもリサーチャーの役割です。現場が協力的でなければ、良質なサンプルは集まりません。

 
 

おわりに:データを「解釈」できる調査設計を

訪日外国人調査は、言語や文化の壁、物理的な制約の中で行う難易度の高いプロジェクトです。聞きたいことをすべて盛り込むような欲張った設計は現場では通用しません。相手が立ち止まっている状況や疲労度を想像し、質問を削ぎ落とす勇気が必要です。翻訳も直訳ではなく、調査意図を汲んだ意訳とネイティブチェックが欠かせません。

訪日外国人への出口調査の成功の為には、数字を集めることにとどまらず、その背景にある文脈を読み解き、ビジネスの決断に資する視点を持つことが重要です。

現場のリアリティを踏まえた堅実な設計こそが、不確実なインバウンド市場を攻略する足場になります。

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執筆:アスマーク編集局

執筆:アスマーク編集局

アスマーク編集局は、数多くのメーカー、官公庁、大学との広範な調査実績に基づき、実務に直結するマーケティングリサーチの知見を発信する専門組織です。単なる手法の解説に留まらず、「現場で求められる判断基準」や「実務上の留意点」を網羅した専門コンテンツを企画・制作しています。

普及活動の実績
調査・分析に関する自社セミナーは累計参加者26,000人を突破。関連資料の利用者は11,000人を超えています(※2026年現在)。

学術・教育支援
日本社会学会や日本行動計量学会等への参画、大学での講義(累計受講者1,000人以上)を通じ、リサーチノウハウの普及に努めています。また、大学等の教育機関へ1万人規模の実証データを提供し、PBL(課題解決型学習)教育の支援も行っています。

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監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)

監修:竹中 重雄(Shigeo Takenaka)

株式会社アスマーク マーケティング管轄 マネージャー
リサーチ業界およびマーケティング領域で10年以上のキャリアを持つスペシャリスト。学術調査チームの立ち上げや、業界内でも難易度の高い「難病・希少疾患」「障がい者」のリクルートサービスの立案・リリースを主導。

専門領域
消費者インサイト分析、セグメンテーション。学術的根拠に基づき消費者モニターをタイプ分類する「インサイト・セグ」を開発。

発信実績
日本のマーケティングリサーチ20年の変遷」の執筆や、最新技術を網羅した「ChatGPTを調査設計・レポートに活用する検証セミナー」への登壇など、伝統的手法から最新トレンドまで幅広い知見を保有。

本記事の監修にあたって
自身の豊富な実務経験に基づき、公開情報の正確性と、読者の皆様のビジネスに即した実用性を厳格に審査しています。

アスマークの編集ポリシー

訪日外国人に対する調査アプローチ3選|資料ダウンロード

訪日外国人に対する調査アプローチ3選|資料ダウンロード

近年、インバウンド需要の回復により、日本を訪れる外国人旅行者が再び増加しており、来日目的の多様化により、行動や価値観はこれまで以上に複雑化しています。

本資料では、訪日外国人調査を「訪日中」「訪日経験者」「在日生活者」の3つに分類し、それぞれの調査手法や対象者の特徴、実施上のポイントを、実例とともにわかりやすく解説しています。

下記に当てはまる方にお薦めの資料です。
● 訪日外国人への調査を検討中で、どの手法が適しているか整理したい
● 調査を通じて、観光施設や自治体、メーカーの施策立案に活かしたい
● 初めてインバウンド調査を実施するため、具体的な事例や運営のポイントを知りたい

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訪日(旅行)外国人に関する国別比較調査【アメリカ・中国・韓国・ベトナム】

訪日(旅行)外国人に関する国別比較調査【アメリカ・中国・韓国・ベトナム】

本格的にインバウンド需要が回復しつつある2023年以降に向けて、当社は海外調査のお問い合わせが多いアメリカ・中国・韓国・ベトナムを対象に、訪日旅行に関するアンケート調査を実施し、それぞれの国の調査結果を公開してきました。今回はその調査結果の集大成とし、アンケート調査をした4か国全ての調査データの国ごとの特性や傾向を比較し、今後の具体的な動向を紐解いてみました。調査項目は、訪日の動機や買い物事情、日本製品に対するイメージなど全20項目について聴取しています。

外国人観光客の目的の1つである「コト消費」に加え、今後のインバウント戦略の一つとして掲げられる「高付加価値化」に役立つような、4か国全体で共通点がある動向や、国ごとに異なる傾向などを分かりやすくレポートしています。

下記についての調査データが得られます。
● 直近半年以内の訪日経験者、『中国』『韓国』は5回以上のリピーターが多い
● 『ベトナム』は家族旅行として、『アメリカ』はひとり旅として日本を訪れている
● 訪日予定者の訪問時期『中国』『韓国』『ベトナム』は今後1年以内が5割を超えて特に高い

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訪日(旅行)外国人に関する調査【中国】

訪日(旅行)外国人に関する調査【中国】

かつては、「爆買い」という言葉に代表されるように、インバウンド消費により5兆円にも迫る勢いの経済効果がありました。しかし、コロナ禍により消費が一気に落ち込み、全盛期の40分の1程度にまで減少し、インバウンド消費を見込む企業にとって苦しい期間が続いていました。ようやく2023年1月、日本政府観光局(JNTO)により、1月の訪日外客数が前年比8327.9%増の149万7300人(推計値)となったと発表があり、本格的にインバウンド需要が回復しつつあります。

そこで、当社は海外調査のお問い合わせが多い中国を対象に、訪日旅行に関するアンケート調査を実施しました。調査項目は、訪日の動機や買い物事情、日本製品に対するイメージなど全20項目について聴取しています。

下記についての調査データが得られます。
● 訪日経験は「訪問したことはないが、今後する予定がある」が最も高く、これまでに日本を訪れた方は6割
● 日本に来たことがない未訪問者の5割半ばが、1年以内の訪日を予定している
● 円安が訪日へのきっかけになっているのは7割強で、「とてもなっている」のは2割半ば

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海外調査(グローバルリサーチ)費用・料金例

海外調査(グローバルリサーチ)費用・料金例

海外調査(グローバルリサーチ)を実施するために費用としてかかる、基本料金や謝礼などの金額例を紹介しておりますので、費用感について解像度が高まります。

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訪日外国人に対する調査~アプローチ3選~

訪日外国人に対する調査~アプローチ3選~

近年、インバウンド需要の回復に伴い、日本を訪れる外国人旅行者の数が再び増加しています。
また、観光やビジネス、親族訪問など訪問目的の多様化により、彼らの行動やニーズを正確に把握することの重要性が一層高まっています。
とくに、訪日中のリアルタイムな体験や評価を把握することは、商品開発やサービス改善、観光施策の見直しに直結する貴重なインサイトとして注目されています。

本記事では、訪日外国人を対象とした調査手法の中でも、特に実務で活用されることの多い3つのアプローチを取り上げ、それぞれの特徴や活用シーンを紹介します。

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「海外旅行」に関する調査~3ヵ国比較(アメリカ・中国・韓国各国在住者)~

「海外旅行」に関する調査~3ヵ国比較(アメリカ・中国・韓国各国在住者)~

コロナ禍の収束とともに多くの国で海外旅行が回復してきています。特に、円安の追い風を受けて訪日外国人旅行者は、アメリカや韓国からなど増加している一方で、中国からは減少しておりますが、2024年1~10月の累計数は、過去最速で3,000万人に到達したとのことです。

こうした背景を踏まえ、当社は、海外調査のお問い合わせが多いアメリカ・中国・韓国を対象に、「海外旅行」に関する調査を実施し、それぞれの国の調査結果を公開していきました。

今回は、調査をした3ヵ国の調査データから国ごとの特性や傾向を比較し、国ごとで海外旅行を理由や日本を選んだ理由、旅行先の情報を得る媒体としての共通点・異なる点などを明らかにしました。

下記についての調査データが得られます。
● アジア州の中では「東アジア」「東南アジア」が人気であるが、アメリカで見ると「中央アジア」「南アジア」も同等の評価である
● 最大の選定理由は「自然や風景」であり、3ヵ国で共通してスコアが高いことから、穏やかに過ごせる環境を求める傾向が旅行先の選定に表れている
● 最大の訪日理由は「食べ物・飲食店」で僅差で「自然や風景」と続く
● 情報収集の媒体として最も利用されているのは「検索エンジン」
● アメリカ・韓国では「検索エンジン」が主流である一方、中国では「SNS」が主要な情報源となっている

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アメリカから見た「海外旅行先」で人気のエリアを調査

アメリカから見た「海外旅行先」で人気のエリアを調査

訪日外国人旅行者は、2024年1~10月の累計数が過去最速で3,000万人に到達しているということで、円安の追い風を受けており好調です。
こういった中で、アメリカからの訪日観光客は、伸びています。2019年には約150万人だった訪日アメリカ人観光客が、2024年には約250万人に達しました。
(参照元:2025年(1月~12月)の旅行動向見通し)

そこで、当社は海外調査のお問い合わせが多いアメリカを対象に、「海外旅行先」で人気のエリアに関するアンケート調査を実施しました。
調査項目は、海外旅行の実態、直近の海外旅行先のエリア、旅行先の選定基準、旅行前後のその国のイメージなどについて聴取しています。

下記についての調査データが得られます。
● 2年以内に海外旅行に行ったという人のうち、約75%が複数回海外旅行に赴いていた
● 2年以内に海外旅行に行ったという人のうち、旅行形態の主流は家族旅行や一人旅である
● 訪問国の旅行前のイメージは「伝統文化」や「食べ物」「景色」に関するポジティブな印象が強く、旅行前後で大きく変化がないことから、期待に沿った体験ができたと推察される

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中国から見た「海外旅行先」で人気のエリアを調査

中国から見た「海外旅行先」で人気のエリアを調査

訪日外国人旅行者は、2024年1~10月の累計数が過去最速で3,000万人に到達しているということで、円安の追い風を受けており好調です。
こういった中で、中国からの訪日観光客は、減少しています。2019年には約890万人だった訪日中国人観光客が、2024年には約640万人にまで減少しました。
(参照元:2025年(1月~12月)の旅行動向見通し)

そこで、当社は海外調査のお問い合わせが多い中国を対象に、「海外旅行先」で人気のエリアに関するアンケート調査を実施しました。
調査項目は、海外旅行の実態、直近の海外旅行先のエリア、旅行先の選定基準、旅行前後のその国のイメージなどについて聴取しています。

下記についての調査データが得られます。
● 2年以内に海外旅行に行ったという人のうち、約9割が複数回の旅行経験と、比較的気軽に海外に出向く傾向が見受けられる
● 2年以内に海外旅行に行ったという人のうち、旅行形態は家族旅行が圧倒的に主流だが、旅行回数が多い層では多様な同行者との旅行が確認できる
● 訪問国の旅行前のイメージは「景色が美しい」「リラックスできる」など、ゆったりとした時間を過ごしたいという意図が読み取れる

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韓国から見た「海外旅行先」で人気のエリアを調査

韓国から見た「海外旅行先」で人気のエリアを調査

訪日外国人旅行者は、2024年1~10月の累計数が過去最速で3,000万人に到達しているということで、円安の追い風を受けており好調です。
こういった中で、韓国からの訪日観光客は、伸びています。2019年には約530万人だった訪日韓国人観光客が、2024年には約790万人に達しました。
(参照元:2025年(1月~12月)の旅行動向見通し)

そこで、当社は海外調査のお問い合わせが多い韓国を対象に、「海外旅行先」で人気のエリアに関するアンケート調査を実施しました。
調査項目は、海外旅行の実態、直近の海外旅行先のエリア、旅行先の選定基準、旅行前後のその国のイメージなどについて聴取しています。

下記についての調査データが得られます。
● 2年以内に海外旅行に行ったという人のうち、70%が複数回海外旅行に赴いていた
● 2年以内に海外旅行に行ったという人のうち、旅行形態の主流は圧倒的に家族旅行である
● 訪問国の旅行前のイメージは「食」や「景色」に関する印象が強く、「買い物」に関する項目は相対的にスコアが低い。旅行前後で大きく変化がないことから、期待に沿った体験ができたと推察される

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