
2024.09.09
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公開日:2026.02.16
マーケティングリサーチなどを行う上で、大きなハードルのひとつは「適切な対象者をどう確保するか」ということです。特に、特定の属性を持つニッチな層や、デリケートな課題を抱える人々にアプローチする場合、一般的なリクルート方法では調査に必要な対象者を集められない場合があります。
このようなケースで効果的な手法が「スノーボール・サンプリング(雪だるま式標本法)」です。この手法では人と人とのつながりをたどることで、通常の方法では接点を持ちにくい層へもアプローチできるのが大きな特徴です。
この記事では、スノーボール・サンプリングの基本的な仕組みから、具体的な活用シーン、そしてメリット・デメリットまでを、分かりやすく解説します。
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スノーボール・サンプリングとは、調査協力者から知人や友人を紹介してもらい、数珠つなぎのように標本(サンプル)を広げていく「非確率抽出法(確率に基づかない標本抽出)」のひとつです。
雪玉(スノーボール)を転がして徐々に大きくしていく様子にたとえられ、学術的な社会調査からビジネスの市場調査まで、幅広いリサーチの現場で「機縁法(機縁リクルーティング)」のひとつとして知られています。

この手法の大きな特徴は、一般的な公募やランダムサンプリングでは接触が難しい「出現率の低いターゲット」にアプローチできる点です。
たとえば、希少な経験を持つ人やニッチなコミュニティに属する層、あるいは高度な専門性を持つ職種の人々など、母集団のリストが存在しないか、外部から把握しにくい層を対象とする調査において、特に効果を発揮します。
Tips
機縁法(機縁リクルーティング)とは?
機縁法とは、調査担当者の知人や友人、あるいは仕事上のネットワークといった「縁」を手がかりに、調査対象者を探していく手法です。
リサーチの現場では、特定の属性を持つ層や、公募では集まりにくいニッチなターゲットにアプローチする際の手法として広く活用されています。
この方法の強みは、紹介者の信頼関係を背景にしている点です。
これにより調査への積極的な協力を得やすく、表面的な回答にとどまらない「本音」を引き出しやすいというメリットがあります。特に、デリケートなテーマや高度な専門性を要するインタビューでは、高い効果を発揮します。
スノーボール・サンプリングの実務上の流れは、主に次の3つのプロセスに整理できます。

この出発点となる協力者の質や属性バランスによって、その後に広がるネットワークの方向性や多様性が大きく左右されます。そのため、可能であれば異なる背景を持つ複数のシードを設定し、条件や属性の偏りを抑える工夫が重要です。
シードへの調査実施後、「同様の属性や経験を持つ知人」の紹介を依頼します。
このとき重要なのは、
などをていねいに説明し、安心感を持ってもらうことです。
また、紹介は信頼関係の延長線上にあるため、ここでの配慮が欠けてしまうと調査対象者を集められないだけでなく、紹介者に迷惑をかけてしまうケースもあるので注意しましょう。
調査終了の目安
スノーボール・サンプリングは、一般的に次のいずれかの段階で終了します。
「新しい協力者から得られる情報に目新しさがなくなったとき」の場合、新たなインタビューを重ねても既出の内容が繰り返されるようになった段階が、ひとつの区切りとなります。
スノーボール・サンプリングは、紹介の広がり方や「その後の選び方」によって、主に3つの種類に分けられます。
ここでは、実際のリサーチ現場をイメージしながら、それぞれの違いを整理していきます。
線形スノーボール・サンプリング(Linear snowball sampling)
「1人から1人へ」とバトンを渡していく方法です。最初の協力者が1人を紹介し、その人がさらに次の1人を紹介するというように、一直線のチェーンを形成します。
| リサーチ現場でのイメージ | たとえば「極秘プロジェクトの担当者を探す」ケースを考えてみます。まず「A社の特定技術に最も詳しい人」を1人見つけ、その人から「次に詳しいのはBさんです」と、1人だけ紹介してもらいます。さらにBさんからCさんへ……というように、紹介を一人ずつつなぎながら、一対一の深い関係性をていねいにたどっていくイメージです。 |
|---|---|
| 特徴 |
・サンプル数は急増しない ・一人ひとりと濃い信頼関係を築きやすい ・秘匿性が高いテーマや、対象者が極端に少ない場合に適している ・「量」よりも「深さ」を重視する場面で効果を発揮しやすい |
[非選別型]指数的スノーボール・サンプリング(Exponential non-discriminative snowball sampling)
1人から紹介された人を全員対象にする方法です。最初の1人が複数人を紹介し、その紹介者全員がさらに複数人を紹介するという方式で、全方位的に拡大していきます。
| リサーチ現場でのイメージ | 「ニッチな趣味を持つコミュニティを広げたい」場合を例にすると、まず「特定のマイナースポーツユーザー」を1人見つけ、その人の仲間を5人まとめて紹介してもらうイメージです。さらに、その5人にも、それぞれ自分の仲間を全員紹介してもらうことで、条件に合う人を“漏らさず”取り込んでいきます。 |
|---|---|
| 特徴 |
・短期間でサンプル数を増やせる可能性が上がる ・母集団の広がりを把握しやすい ・「まずは数を確保したい」探索的調査に向いている ・質の精査よりも、規模の拡大を優先する場面で効果的 |
[選別型]指数的スノーボール・サンプリング(Exponential discriminative snowball sampling)
複数の候補から、調査者が選別する方法です。紹介された人を無条件に全員調査するのではなく、条件に最も合う人物をスクリーニングしてリクルートします。
| リサーチ現場でのイメージ | 「専門家インタビューの精査」が必要なケースを想定します。たとえば、「生成AIに詳しいエンジニア」を1人見つけ、その人に候補者を3人挙げてもらいます。調査者はそれぞれのプロフィールを確認したうえで、「フロントエンド開発に最も精通しているBさん」にだけ依頼します。さらにBさんにも複数の候補者を挙げてもらい、その中から適任者を選んでいくイメージです。 |
|---|---|
| 特徴 |
・調査目的に合わせてサンプルの質をコントロールできる ・ノイズの少ない、精度の高いデータが得られる可能性が上がる ・手間と時間がかかる ・「誰でもよい」ではなく、「最適な人を選びたい」場合に適している |
スノーボール・サンプリングは、一般的な公募やパネル調査では「そもそも対象者がどこにいるのか分からない」ような、出現率の低いターゲットを調査する際に真価を発揮します。
特に、以下のようなビジネス・リサーチの現場で効果的に活用されています。
特定領域の専門家・実務家への調査
このような対象者は母集団自体が少なく、さらに多忙であるため、一般的なアンケートでは十分な回答が得られにくい傾向があります。しかし、専門家同士の信頼ネットワークをたどることで、調査協力への心理的ハードルが下がり、質の高いサンプルを確保しやすくなります。
ニッチな趣味・嗜好を持つ層の消費者調査
こうした層は外部からの接触を警戒する傾向がありますが、仲間内からの紹介であれば協力を得やすくなります。信頼関係を前提としたリクルーティングだからこそ、購買動機や価値観といった深いインサイトに踏み込むことが可能です。
新しいライフスタイルや初期市場の調査
このような既存の統計データにはまだ十分に現れていない層は、明確なリストや名簿が存在しないことが多いため、独自のネットワークを介した紹介が効果的です。紹介をたどることで、表に出にくい初期市場のリアルな「一次データ」を効率的に収集できます。
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スノーボール・サンプリングの主なメリットは、次の3点です。
Webアンケートのパネルや電話調査では抽出できないような、出現率が極めて低いニッチなターゲットであっても、当事者同士のネットワークをたどることで、連鎖的に発見できます。
その結果、従来のリサーチの網からこぼれ落ちてしまいがちな「隠れた層」の声を拾い上げることが可能です。場合によっては、他の方法では到達が難しい対象にアクセスできる、数少ない手段の一つとなることもあります。
一人のシードから次の協力者を紹介してもらう過程で、
といった、当初の設計では想定していなかった新たな視点やキーワードが次々に浮かび上がります。
スノーボール・サンプリングは一定条件下ではとても効果的な手法ですが、特有の問題点も抱えています。特に「データの客観性」と「運用コントロール」の観点から、次の3点には注意が必要です。
紹介を通じて対象者を広げる以上、「似た属性・価値観を持つ人」が集まりやすいという構造的なバイアスが生じます。
その結果、
といったリスクが生じます。
上述した通り、スノーボール・サンプリングは無作為な抽出を行わない手法であるため、統計的な一般化や厳密な母集団推定を目的とする量的調査には基本的に不向きであり、あくまで探索的・質的リサーチ向きのアプローチです。
サンプルサイズの管理
以下のような事態が起きる想定が必要です。
特に、出現率の低い層を狙う場合、目標人数に到達しないまま調査終了を余儀なくされることもあります。
たとえば、5名のグループインタビューを予定していた場合、当日に1名欠席すると、
といった影響が懸念されます。
また、キャンセル率が比較的低いとはいえ、欠員が出た場合のリカバリー(例:デプスインタビューへ切り替える、別日程を再設定するなど)には、相応のコストと判断が求められます。
一人ひとりのスクリーニング、紹介依頼、日程調整を「数珠つなぎ」で進めるため、ネットリサーチのように一斉配信できる手法と比べると、完了までに多くの時間を要します。
加えて、
なども必要となるため、結果としてサンプル単価は高くなりがちです。
スノーボール・サンプリングは、一般的な公募型の調査よりも、以下のポイントに注意が必要です。

法的・倫理的配慮
スノーボール・サンプリングは「紹介」というプロセスを介して対象者を広げていくため、個人情報の取り扱いにはとりわけ慎重な姿勢が求められます。
特に重要なのは、「紹介の段階」における本人の明確な同意です。紹介者(Aさん)が、本人の許可を得ないまま第三者(Bさん)の連絡先を調査者に伝える行為は、プライバシー保護の観点から避ける必要があります。
運用としては、次のような流れが重要となります。
また、必要に応じて、承諾の取得を確認できる同意書を用いることも推奨されます。
そして、研究機関や企業が実施する場合には、以下のような倫理審査への対応も必要です。
スノーボール・サンプリングは「信頼」を起点に成り立つ手法です。その信頼を損なわないためにも、手続きの透明性と倫理的な妥当性を確保することが、法的リスクの回避だけでなく、調査そのものの信頼性向上にもつながります。
対象者条件の途中変更が基本難しい
スノーボール・サンプリングは「紹介」という、相手の善意や手間に支えられる仕組みです。そのため、調査の途中で対象者条件(スクリーニング条件)を変更するのは、基本的に「とても難しい」と考えておく必要があります。
協力者(Aさん)に「こういう属性の人を紹介してください」と依頼した時点で、Aさんは自分のネットワークをたどって候補者を探すという「実働」を始めています。
この段階で、数日後に「やはり条件をこう変えたい」と伝えると、Aさんが費やした時間や労力を無駄にしてしまいかねません。その結果、協力意欲が下がったり、調査者への不信感につながったりするリスクがあります。
どうしても条件変更が避けられない場合は、
といった「仕切り直し」の覚悟と実行が必要になります。
だからこそ、スノーボール・サンプリングでは、開始前の設計段階で条件を徹底的に精査し、途中でぶれない状態を作っておくことが大切です。
定性調査における「飽和」の評価
スノーボール・サンプリングでは、似た背景や価値観を持つ人が集まりやすいため、「どこで調査を終えるか」を見極めることがとても重要です。人数を増やし続けても、同じような話ばかりが出てくる状態になれば、それ以上集める意味はあまりないと言えます。
こうした判断でよく参照されるのが、グラウンデッド・セオリー由来の「理論的飽和」という考え方です。これは分かりやすく言うと「新しい人に話を聞いても、もう新しい発見が出てこない状態」のことです。
たとえば、10人目までは新しい意見や視点が出ていたのに、11人目、12人目になると「前の人も言っていた」という内容ばかりになる。このような状態が「飽和」に近いサインです。つまり、「もう十分にパターンは出そろった」と判断できるタイミングが、ひとつの終了目安になります。
しかし、実際の調査現場で「完全に意見は出尽くした」と判断するのは簡単ではありません。
そこで1つ、人数よりも「情報の濃さ」を見る「情報力(Information Power)」という考え方を紹介します。
情報力の考え方を簡単に説明※すると「情報が十分であれば、必要人数は必ずしも多くなくてよい」というものです。
※ 情報力の考え方では、必要なサンプル数は「研究の目的」「サンプルの特異性」「確立された理論の活用」「対話の質」「分析戦略」の5要素によって左右されるとされています。これらの条件を踏まえて慎重に判断する必要があります。
たとえば、
といった条件がそろっていれば、5〜8人程度でも十分な洞察が得られる場合があります。
一方、目的があいまいだったり、対象者の造詣(その分野への深い知識・理解)や経験が浅かったりすると、何人集めても中身が薄くなってしまいます。
こういった情報力も考え、スノーボール・サンプリングにおける判断の目安としては、
といった問いを投げかけることで、終了のタイミングを判断するのがいいでしょう。
この記事では、スノーボール・サンプリングの基本概念から仕組み、種類、活用シーン、メリット・デメリット、そして実務上の注意点までを解説しました。
この手法の強みは、従来の方法では接触が難しかった対象者にアプローチできる点にあります。信頼のネットワークを活用することで、これまで見えにくかった実態や、表に出にくい声をていねいにすくい上げることが可能です。
代表性の担保や運用管理の難しさといった課題もありますが、それらを十分に理解し、目的に沿った設計を行えば、リサーチの可能性は大きく広がります。
「誰に聞くべきか分からない」という局面に直面したときこそ、スノーボール・サンプリングは効果的な選択肢となります。調査目的との整合性を見極めながら、ぜひマーケティングリサーチに活用していきましょう。
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